5-7 共和主義者

「う〜ん……やっぱ、気になるなぁ…………」



 ルートヴィッヒは眉をひそめながら、そう呟いた。



「何が気になるんだい?」


「いやな? 出発の時、【探知】スキルを発動させたんだがな? そん時、後ろの貨物車に妙な反応が引っ掛かったんだよ…………」


「妙な反応?」


「ああ……それがだなぁ…………」



 ルートヴィッヒは、列車出発前に探知した貨物車の中にいた人々について、エルヴィンとアンナに告げた。


 それを聞いたエルヴィンは、ふと何かの記憶に引っ掛かったらしく、少し頭を掻き、吐息を吐いた。



「ルートヴィッヒ、多分それ、囚人だと思う…………」


「囚人⁈ 何故、囚人がこの列車に乗っている!」


「多分だよ? でも……椅子に座り、それを囲むように人が立っている。それって、椅子に繋がれた男……いや、女性の可能性もあるか……を周りの人々が警戒している、と見れないかい?」


「確かに……」


「それに、今日の朝刊。そこに"ヴッパータール大将暗殺事件首謀者、帝都へ輸送"という記事があった。つまり、これがそれなんじゃないかな?」


「なるほどな……密かに輸送される囚人。その運搬役を任された列車に乗っちまった訳だ、俺達…………」


「只の推測だよ? 何の確証も無い……」



 肩をすくめながら苦笑を浮かべるエルヴィン。しかし、あながち的は射てるので、ルートヴィッヒとアンナは納得していた。



「エルヴィン、そのヴッパータール大将暗殺事件と言えば、確か……前の ヒルデブラント要塞司令官だったアロイス・ヴッパタール大将が、要塞内に居た過激派共和主義者団体、解放のベフライウイングス・クリンゲのメンバーに殺された事件ですよね?」



 王制国家であるゲルマン帝国、腐敗し、貴族や特権階級の横暴がまかり通るこの国では、平民達は苦渋な生活を送らされている。

 そんな苦痛から逃れる為、元凶たる帝国とは反対の思想を持ち、立ち向かおうとする者が現れるのは必定と言える。

 つまり、民主主義を掲げて叛旗はんきを翻す組織が出来上がるのだ。

 その1つが解放のベフライウイングス・クリンゲであり、この組織は、そんな多々ある共和主義者の組織内でも、特に過激で有名であった。



解放のベフライウイングス・クリンゲは、過激派の中でも更に過激で、帝国を滅ぼし民主主義の国をほうずる為には手段を選ばない。ヴッパタール大将暗殺も、共和国にヒルデブラント要塞を攻略、いては帝国を滅させる為の手土産に、大将の執務室で要塞地図を探していた所を見付かって、殺した、らしいからね…………」


「共和国に帝国を蹂躙させるつもりだったんですか…………?」


「そりゃあ、まぁ……なんとも…………」



 アンナは驚き、ルートヴィッヒは苦笑し、2人とも解放のベフライウイングス・クリンゲの思惑に呆れた。


 帝国を共和国に滅させる。つまり、帝国を軍隊により蹂躙させ、独裁国家を民主主義に染め上げるという事だ。

 帝国を戦火の海に変え、市民の犠牲もいとわず、民主主義の国に変えようと言うのだ。


 最終目的だけ見れば綺麗な正義に見えるが、過程を見れば愚の骨頂と言わざるを得ない。



「そこまでして、民主主義を掲げさせる事に、価値などあるのでしょうか?」


「さぁね、あるかもしれないけど、私は無いと思う。民主主義が万民の正義たり得ないし、命懸けで成すべきものとは言えない。戦争とは正義と悪のぶつかり合いではなく、正義と正義のぶつかり合いだ。そして、そんなもので犠牲になるのは関係の無い市民だ。正義を掲げるのは良いとして、他者を巻き込んでは欲しくないよ……」



 いや……他者に、強引に自分の正義を押し付けさようとして戦争が起き、人が死ぬ。人が死なければ達し得ない正義など、悪と変わりない。戦争とは結局、悪と悪のぶつかり合いなのだろうな。


 エルヴィンは改めて、戦争の下らなさを実感し、それが続けられているこの世界、いや、引き起こす人類という存在に、少し呆れるのだった。

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