5-1 帰宅前に
今日から始まる休暇の準備を終え、シュロストーアにある士官用の宿舎にて、エルヴィンとアンナは、僅かな荷物を鞄2つに
軍人の宿舎は階級によって大きく変わっている。
兵士ならば、学生寮1室ほどの大きさの部屋で、数人がベットをテリトリーに過ごす。
下級士官ならば、ビジネスホテルの小さな1室ぐらいの部屋が与えられる。
尉官ならば、アパートの1部屋ぐらいの部屋で過ごす。
佐官程となれば質素で小さいながら家が与えられる。
将官ともなれば更に大きな家が与えられる。
エルヴィンは少佐であり佐官である為、シュロストーアの宿舎は1軒家であり、1人だと寂しく、部屋もいくつかあったので、アンナと2人で使っている。
そして、エルヴィンは現在、軍より貸し与えられたその1軒家の宿舎にて、ボサボサの髪を整えもせず、迎えを待ちがてら、リビングで椅子に座り、さっき届いた朝刊を読んでいた。
「数週間の間に鉄道強盗頻発……ヴッパータール大将暗殺首謀者、帝都へ輸送…………ハンデル20人殺し逮捕………………共和主義者のテロにより多数の死者が……………………」
新聞を少しだけしか見ていないにも関わらず、エルヴィンは早々に溜め息を
「もう少し明るい記事は無いものかなぁ……ロクでも無い記事しかない」
「最近は暗いものが多いですね……」
横から話し掛けた、美しい
「まったくだよ……悪い事ばかりが明るみに出てるのに、明るい事は1つも出てこない。この国がいかに異常なのかを物語っているね」
エルヴィンはそう呆れ混じりに呟きながら、新聞のページをめくった。
すると、彼は眉をしかめた。
その表情からは不快感がありありと伝わっており、彼にとって不愉快な記事が載っていたのは一目瞭然である。
そんなエルヴィンの様子に、アンナは、どんな記事が載っていたのだろうかと、彼の背後から新聞を見て、直ぐに納得した。
「"ヒルデブラント要塞防衛戦
「大勝利なものか……帝国軍の死者6万7千、これだけ死者を出したんだ……惨敗もいいとこだよ……」
ヒルデブラント要塞攻防戦は、型として帝国軍が勝利した。しかし、それにより7万人近い死者を出している。これは本当に、要塞防衛に貢献出来た死なのだろうか、いや、これだけ死なせて、帝国に守る価値などあるのだろうか、エルヴィンはそう考えていたのだ。
「やれやれ……ラヴァル少佐の言い分も、
エルヴィンはもう1度溜め息を
シャルル・ド・ラヴァル少佐、先の戦いで話を交わしたもう1人の転生者。彼は帝国の圧政から帝国民を救うという信念を持ち、戦っている。
エルヴィンも、侵略者の脅威から民を守り、国を変革してくれる者が現れるまで、国を
「国を変革する者か……さて、いつ現れる事やら……」
そう思いながらも、自分には関係ないだろなと、この話を切り上げた。
それよりも、妙に遅い迎えの事が気になったのだ。
「遅いなぁ……もう予定の1時間も過ぎてる……今、9時ぐらいだがら、このままだと、今日中にヴンダーに着けないよ」
「そうですね……何かトラブルでもあったのでしょうか……?」
「これは……私達だけで帰った方が良いんじゃないかな?」
「駄目ですよ! 貴方は一応、御領主様です。護衛が私1人だけでは心許ないですし、もう2、3人は付けないと……」
エルヴィンは領地持ちの貴族であり、重要人物と言えば重要人物である。しかし、領地自体にはそれ程価値はなく、中央政治からも遠いので、謀略、暗殺の対象にはなりづらい。なので、護衛2、3人は大袈裟と言えば大袈裟なのだ。
しかし、一応は金持ち(個の資産は微々たるものだが)なので、盗賊などから身を守る為、護衛は付けた方が良かった。本人もめっちゃ弱いので尚更である。
遅い迎えを心配しながら待つ2人だったが、少しして
「はぁ……やっとですか…………」
アンナは少し呆れつつ、ドアまで歩き、扉を開けた。
「やっと来ましたか……誰かは知りませんが、流石に遅…………」
玄関の前に居た迎えの男を見て、アンナは言葉を失った。
そして、彼女は、直ぐに大きな溜め息を
「何で貴方が居るんですか……" ルートヴィッヒ"…………」
玄関の前には、エルヴィンとアンナの親友、ルートヴィッヒが居たのである。
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