4-132 賑やかな場所
エルヴィンとガンリュウ大尉が第11独立遊撃大隊の仲間達の下へと戻った時、2人を出迎えたのは、盛大な歓声であった。
「大隊長達が戻ったぞおおおおっ!」
「我等が指揮官殿だああああっ!」
「大隊長ぉおおおっ! 副隊長ぉおおおっ!」
2人の下へとズラズラと集まる仲間達、その瞳には明らかな尊敬と憧れ、崇拝の眼差しがあった。
兵士達にとって、自分達を生き残らさせてくれる上官というのは、それだけで信奉に近い対象となるのだが、更に、2人共に人格的で、できた人達だった為、部下達としては、これ以上にない程の敬愛を感じていたのだ。
自分達へ向けられた敬愛の眼差し、それに慣れていないエルヴィンは照れ臭そうに苦笑し、ガンリュウ大尉は悪く無いといった感じて微笑を浮かべた。
そして、仲間達は、エルヴィン達を胴上げしようなどという空気にまでなったが、流石にそれは気恥ずかし過ぎた為、止めさせる。
その後、第11独立遊撃大隊の面々は、各自、様々な仕事を残していた為、勝利と出世の興奮冷めやらぬまま、1人1人持ち場に戻っていった。
嵐の様に、仲間達の信頼を勝ち取ったエルヴィン。無自覚に、予想外に得た物である為、彼は戸惑いを隠せなかった。
「まさか……ここまで私の評価が変わるとは……」
「当然だろう。あの、大隊規模をいくつも単騎で潰した武神を相手に、お前は2回も俺達を生き残らせてくれた。それだけお前は有能で、仲間の命を守れ、尊敬できる者だとわかる」
「評価してくれるのは嬉しいけど……やっぱり、ガンリュウ大尉達が居なかったら、あそこまで戦えなかったよ。新兵達の訓練と言い、大尉には頭が上がらない。ありがとう……」
「だから、部下に感謝するな!」
部下に
しかし、この時ふとガンリュウ大尉を襲ったのは
今回、ガンリュウ大尉は昇進し、少佐になる。つまり、昇進せずに止まったエルヴィンと同じ階級という事になる。
同じ階級の者の部下にはなれない以上、ガンリュウ大尉は、第11独立遊撃大隊を離れなければならない。
エルヴィン達と違う道を歩まねばならなくなる。
それがどこか、少し、ガンリュウ大尉は寂しかったのだ。
ガンリュウ大尉はいつのまにか、エルヴィンが率いる、この、第11独立遊撃大隊という場所を気に入っていたのである。
エルヴィン達との別れ、それが迫っている実感が湧いて来たガンリュウ大尉。すると、フュルト中尉とジーゲン中尉(ちゃん上着まで着た)が2人の下にやって来た。
「大隊長に副隊長、御苦労様でした」
「ジーゲン中尉も御苦労様だったね。それにフュルト中尉も……」
「本当ですよ! 結局、美少女成分を補充出来ないまま、魔力が空っぽになるまで戦わされて、こっちは不満溜まりまくりです。帰って休暇とったら、真っ先に、一緒にベットインしてくれる美少女探さないと……」
「
フュルト中尉の美少女愛、その狂いっぷりに、エルヴィンはまたも流石に引き、ジーゲン中尉はその行き過ぎた愛情に少し呆れた。
「フュルト中尉……流石にそれはどうかと思いますよ?」
「好きな人も居ない、愛も知らないジーゲン中尉には分からないんですよ! 私は愛されたいんです、美少女に愛されて、そして、愛したいんです! それで、互いに愛しあった美少女とアレやコレや……じゃるりッ」
またも、美少女愛を語る内にヨダレを垂らすフュルト中尉、可愛らしい顔も台無しである。
「愛について、恋人の居ない中尉に言われるのは心外です」
「何ですか? もしかしてジーゲン中尉殿は恋人でもいるんですか?」
「いや、居ませんけど…………」
「だったら、美少女愛を仰ぐ私の方が上と……」
「だって
それを聞いた瞬間、フュルト中尉は面食らった様に固まり、ガンリュウ大尉も表情にはあまり現れなかったが、少し驚いた様子であった。
しかし、エルヴィンは特に驚かず、既に知っていたという感じで、ジーゲン中尉とさり気なく話を始める。
「ジーゲン中尉、娘さんは幾つになるんだい?」
「もう3つになります。本当に、自分には勿体ない限りですよ……」
「確か、奥さんも獣人の犬人族だったよね? どっちに似たんだい?」
「妻の方ですね。髪の色は妻が茶色で、瞳は琥珀色で……娘はそっち寄りです」
「そうか……中尉に似ず残念だね」
「全くです……」
エルヴィンとジーゲン中尉、2人だけで盛り上がる様子に、置いてけぼりを食らうガンリュウ大尉とフュルト中尉。彼等は、少しは話題にしがみつこうと、疑問を投げかける。
「お前……ジーゲン中尉が妻子持ちって知ってたのか?」
「うん……というより、ジーゲン中尉を部隊に引き入れる時、中尉の資料は見てるからね。その備考欄にちゃんと書いてあったよ? 妻子持ちだって」
「ジーゲン中尉、奥さんて御幾つなんですか?」
「自分の2つ上です」
「奥さん可愛いですか?」
「それは勿論」
「娘さん可愛いですか?」
「それは勿論!」
「12年後、娘さんと
「「「良い訳ないだろうっ‼︎」」」
男達3人で同時に突っ込まれたフュルト中尉、別に話していた2人まで即座に加わった事に、彼女は少しふて腐るのだった。
ジーゲン中尉の意外な事実を知り、フュルト中尉の美少女狂いを再確認したガンリュウ大尉。個性豊かで、愉快で、面白いこの部隊、それから自分は離れる事になるのかと、改めて寂しさに襲われた。
「大尉? 大丈夫かい?」
エルヴィンに声を掛けられ、ガンリュウ大尉はふと我に帰ると、自分の思った事を頭で反復した。そして、そのあまりの自分らしからなさに、苦笑を浮かべる。
「いや、大丈夫だ。……ただ……俺が少佐に昇進し、大隊長の資格を持つから、この光景も見納めだと思ってな」
「あ! そうか……そうなるのか……」
エルヴィンはちょっと寂しそうに表情を沈めた。
「ガンリュウ大尉と折角、仲良くなれたのにね……」
「仲良いか?」
「え? 違うの? 凹むなぁ……」
本当に威厳のないエルヴィン。
あの武神相手に、知略で渡り合った人物と同一とは思えない様子の我が上官に、ガンリュウ大尉はまたも苦笑を浮かべた。
「本当にお前は変わっているな」
「変わっているかい? 私は普通だと思うけど……」
「普通である事を普通だと言える時点で、お前は変わっているんだよ」
仲間と仲良くする事、その為に努力する事は確かに普通の事だろう。
しかし、エルヴィンは、仲間以前に隊長で上官。そんな人間が部下を仲間と言い張り、仲良くしようとするなど、一般的ではないし、階級制の軍隊では異端である。
そんな行為を普通だと言ってのけるエルヴィンは、正に変人だと呼べるのだ。
当の、エルヴィンは基本、鈍感な為、そう言われる事に納得いかなかったらしく、首を傾げるのだった。
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