4-128 無才故に

 エルヴィンは指揮官として、戦術家としても戦略家としても有能極まる存在だった。


 もし、彼が軍の要職に就けば、間違いなく共和国の脅威になる事は疑いようはないだろう。


 

「貴様の智謀は本当に恐ろしいな……特殊な能力を持っているとは言え、かなり厄介だぞ!」


「特殊な能力? そんな物無いけど……」


「……ん?」



 エルヴィンの言葉に、 シャルルは怪訝な顔を浮かべた。



「貴様、何か特別なスキルを持っているのではないのか?」


「いえ……特殊な、どころか、スキル自体を持っていないけど……」


「俺みたいな特殊体質なのか?」


「非力な一般体質だよ」


「じゃあ、特殊な魔法が!」


「使えないね」



 シャルルは、まるで信じられないとばかりに驚きの顔を浮かべると、顎を片手でさすり、考え込み、エルヴィンに問いかけた。

 


「貴様、転生者なのだろう? だったら……」


「少佐っ!」



 シャルルが何かを確かめようとした瞬間、その間をサルセル大尉が割って入った。



「少佐! そろそろ我々も退きませんと……味方に置いていかれます」


「いや、だが、まだ……」


「……」



 サルセル大尉の無言の圧を受け、 シャルルはエルヴィンへの問いを断念し、肩を落とした。



「わかった、俺達も退くか……」



 エルヴィンに対し確認したい事があったシャルルだったが、確かにそろそろ退いた方がよかった為、切り上げ、宿敵に背を向ける。


 しかし、先程の会話からシャルルは、粗方の予測は立てていた。そして、その予測が彼にとって愉快そのものだったらしく、その口元には楽しそうな笑みが浮かんでいた。



「無才の凡人……いや、それ故か?」



 そう不可解な言葉をこぼしたシャルルは、その場を立ち去ろうとした去り際、エルヴィンの方を振り向き、またニッとした笑みを向けた、



「エルヴィン・フライブルクまた戦場で会おう! 今度は、最初から本気で相手してやるからな!」



 そう言い残し、シャルルは、サルセル大尉を伴って、エルヴィン達に完全に背を向け、本隊へと向かった。


 結局、シャルルの質問の意図がわからなかったエルヴィン。しかし、シャルルが最後に自分に向けた言葉には、明確な返答を返す。



「絶対に御免だよ……」




 帝国の若き指揮官エルヴィン・フライブルク、共和国の若き指揮官シャルル・ド・ラヴァル、2人は後に、幾度となく、宿敵として合間見える事となる。


 シャルルは本意として、エルヴィンは不本意ながら、歴史的名戦を描いていくのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る