4-121 耐える者達
方向感覚を狂わされ、なかなか動けずに居たシャルルだったが、流石に武神と呼ばれるだけあり、この魔法にも慣れ、効果も見破り、打開する方法にも察しが付き始めていく。
「これほどの魔法を使う奴が居たとはなぁ……ガンリュウといいエルヴィン・フライブルクといい……やはり、面白い部隊だ」
シャルルはニッと楽しそうな笑みを浮かべると、野生の嗅覚か、武人としての感か、高位魔法を使う魔導師の居場所を察知した。
「そこかぁああああああああっ!」
声を上げながら、先程と同じく脚力を強化した足で、あり得ない速さで駆け、猛烈なるスピードでアンナへと迫った。
只、アンナにだけ目標を定め直進するシャルル、逃げる帝国兵を横切り、意識を完全に未知の魔導師に集中させ、アンナの魔法に対処する武神の猛突進。
あと0.秒でアンナに辿り着く、そんな勢いで突き進むシャルル。
"バコォオオオオオオオオオオオオンッ‼︎"
しかし、突然、強大な衝突音と共に、シャルルの足は止まった。いや、止められた。
アンナの前方約10メートルに、彼女を守るように巨大な[バリア]が張られていたのだ。
そして、その[バリア]の後ろでは、フュルト中尉が杖先を武神に向け、魔力を消費しながら[バリア]を維持し続けていた。
衝突音、それは脚力強化で加速していたシャルルと、[バリア]がぶつかった音であった。
音の強大さから、かなりの衝撃でぶつかったシャルル、普通ならば全身の骨が粉々になる勢いで衝突していた。
しかし、シャルルにはやはり、傷1つ無く、なんのそのと未だに笑みを浮かべながら立つ姿がそこにあり、逆に、シャルルとの衝突を耐えるのに、フュルト中尉の魔力がゴッソリ持ってかれた状態である。
「あ〜っ! もう! 嫌になる! むさ苦しい男なんてお呼びじゃないのに!」
フュルト中尉は疲労と不快感を滲ませながらも、貴重な美少女アンナを失わない為、[バリア]を維持し続けた。
フュルト中尉が展開する[バリア]、それを前に、シャルルは楽しそうに口元を緩めた。
「千差万別の対処、本当に面白い……」
それは楽しそうに笑うシャルル。すると、彼は、大剣を思いっきり振りかぶり、そして、腕力強化を加えながら、[バリア]に叩き付けた。
その瞬間[バリア]は、呆気なく、跡形も無く崩れ去り、フュルト中尉の魔力は空になってしまう。
「力技で破るとか……非、常、識……」
フュルト中尉は苦い表情を漏らしながら、魔力消失による疲労で、地面にゆっくりと倒れた。
道が
しかし、それを妨害するべく、横からジーゲン中尉が、上半身裸のまま、重機関銃を手に、シャルルへと乱射する。
「行かせるかぁあああああああああっ!」
シャルルを襲う7.90ミリの弾丸の数々。しかし、身体強化で防御力を極限まで上げた武神にとっては羽虫に等しかった。
「ウザいなぁ……」
効かない羽虫の様な攻撃。しかし、羽虫は羽虫なので
シャルルは大剣を構えると、ジーゲン中尉へと向きを変え、脚力強化を加えた足で、瞬時に中尉の前に現れた。
「なっ⁉︎」
驚き、後ろに少し後ずさったジーゲン中尉。すると、それが
しかし、重機関銃は真っ二つにされ、続く大剣とは思えぬ速さの2撃目には対応できそうにない。
シャルルがジーゲン中尉目掛けて振り
その瞬間、シャルルとジーゲン中尉の間を、ガンリュウ大尉が脚力強化を加えた足で瞬時に入り、振り下ろされた武神の2撃目を、出しうる限り最大の身体強化を使って刀を横に振り、大剣ごと弾き、シャルルをよろめかせ、後ずらさした。
見事、シャルルの1撃を防いだガンリュウ大尉だっだが、やはり武神による攻撃の衝撃と、強力な身体強化で魔力をかなり削られ、ガンリュウ大尉は片膝を付いて息を荒げる。
自分の本気の攻撃を、それぞれ別の人物ながら、3度も無駄にされたシャルル。
それは初めての事だった。
初めて、自分の本気が3度も防がれた。
そんな事実に、シャルルはひどく上機嫌になる。
「素晴らしいっ! まさかここまで耐えるとはなぁ! 嬉しいぞ!」
余裕の笑みを浮かべ賞賛する武神。当の3人は、満身創痍な状況で喜ぶ気になどなれず、異常なまでの力量差に苦味を味わうしかなかった。
しかし、全員に悔しさはない。
この戦い最大の目的が、勝利でなく、武神から無事に逃れる事だと分かっていたからだ。
ガンリュウ大尉は残された魔力を振り絞り、身体強化を維持しながら立ち上がり、剣先を武神へと向けた。
「ジーゲン中尉、フュルト中尉を御願いします」
「わかりました。大尉も御無事で……」
ジーゲン中尉は武神を大きく迂回しながら、フュルト中尉の下へと来ると、魔力が切れで動けない彼女に肩を貸し、森の中へと消えていく。
普通であれば、シャルルは、敵だからと追い掛ける所だろうが、先程からアンナの魔法が続き、あまり色々意識すればまた動けなくなるので、目の前のガンリュウ大尉に集中した。
「ガンリュウ、貴様は逃げんで良いのか?」
「逃げたら、貴官に魔法をかけている者の方へ向かうだろ」
「そりゃ、当然だ! いい加減これ、ウザいからな!」
少しばかりのゲルマン語での会話の後、ガンリュウ大尉は気を引き締めた。
この武神をどうにかしなければ、逃げようにも追い付かれてしまう。
もともと本陣に武神など居なければ、こんな苦労をせずに済んだのだが、文句を言っても仕方がない。
しかし、今回は戦い続ける必要はない、"味方本隊が目標を攻略するまで"持ち堪えれば、これで此方の勝ちなのだ。
エルヴィンが共和国本陣を攻撃したのはその布石の為であり、今現在、味方本隊は目標へと着々と迫っている筈である。
だから、味方が目標を攻略するまで耐えれば良いのだが、それまで持たせられるかが問題なのだ。
「と、思ってんだろうなぁ……ガンリュウ?」
まるで見透かすようにシャルルに告げられガンリュウ大尉。それに彼は、苦々しく顔をしかめた。
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