4-114 武神

 武神に対し苛烈な攻撃を加え続ける帝国兵達、その中には、明らかに突飛な武器を手にした男が居た。



「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」



 上半身裸で、屈強な肉体を太陽に晒し、灰色の犬耳と尻尾を持った獣人族の男、マンフレート・ジーゲンである。


 ジーゲン中尉は、2人掛りで運ぶのがやっとな筈の、7.90ミリ重機関銃を握っており、絶え間ない弾丸の応酬を武神へと放っていた。

 第10軍団が塹壕防衛に使用していた物を持って来ていたのだ。



「ジーゲン中尉のあの姿、前世での肉弾戦映画を思い出すなぁ……」



 ジーゲン中尉を見ながら呑気にそう思ったエルヴィンだったが、武神に対して気は抜かなかった。


 今回の目的は武神を倒す事。上手く落とし穴に落とせれば、それはそれで良いが、恐らくは無理だろう。そんな甘い敵では無い。


 だからこそ、武神に銃弾を浴びせ続けている。


 武神は確かに化け物だ。しかし、それは使だ。


 人の持つ魔力は有限であり、体力と同じ性質だと言っていい。

 使えば消費し、時間が経てば回復する。


 つまり、銃弾を浴びせ、身体強化に使われる魔力を削り切れば、武神も暫くは身体強化が使えない。

 魔力さえ無くなれば、武神とて只の人になるのだ。


 しかし、シャルルとて只、魔力を削られ続ける通りは無い。


 銃弾の雨を身体強化で防ぎながら、何食わぬ、闘志に満ちた笑みを浮かべ、大剣を構え、帝国兵へと突っ込んだ。


 エルヴィン達は武神へ銃弾の雨を降らせている。つまり、その為に身体強化が使えない通常兵が前に出て来ている。

 その為、魔術兵より動きが鈍くなり、先程使った、武神との距離を保つという事が出来ずらくなっていたのだ。


 しかし、それもエルヴィンは予測済みだった。


 身体強化を加えた足で走る武神の横から、1人の帝国兵が、脚力強化を加えた足で地面を蹴り、飛び、武神の背後から横への通りすぎ様に、その首を斬りつける。


 結果として、首に切り傷すら付ける事は出来ず、金属が擦れる音だけだったが、武神の足を止め、自分を襲った男に注意を逸らさせる事が出来た。


 そして、シャルルは、男の顔を見た瞬間、喜び、嬉しみ、歓迎する。



「また会えて嬉しいぞ! ガンリュウっ‼︎」



 鬼人の剣士ヒトシ・ガンリュウが武神の前に立っていたのだ。




 ガンリュウ大尉は30センチ以上も身長が離れた武神の顔を見上げ、切り傷すら与えられなかった現実に苦い表情を浮かべた。



「やはり、硬い……」



 銃弾を弾く身体強化、しかし、同じ身体強化をした者であれば、刃物を使って銃弾以上の衝撃を敵に与える事が出来き、大抵は1撃で深手を与えられる。


 にも関わらず、武神はそれを弾いている。理由として考えられるのは、ガンリュウ大尉が使っている身体強化よりも強力なものを使っているという事だ。


 基本、魔術兵は全力の身体強化は使わない。というのも、全力のを使えば直ぐに魔力がつき、無防備になるからだ。

 なので、銃弾を弾く事が出来、尚且なおかつ魔力消費が抑えられる程度の身体強化がほとんどである。


 そんな中、武神は惜しまずに、強力な身体強化をしている。つまり、それだけ魔力量には自信があるという事だ。


 武神の強さの本質とは、強力な身体強化を維持し続けられる、"強大な保有魔力量"にあったのだ。


 改めて武神の強さを実感するガンリュウ大尉。1対1では到底かなわず、先に自分が魔力切れを起こすのは明白だった。


 しかし、今回は一騎打ちをするつもりは無い。


 武神を倒す為になんでもする。多勢で挑む恥など気にせず、武神を仲間達と共に倒すつもりだったのだ。

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