4-112 小賢しさ
武神率いる部隊に追われながらも、逃げの一手を打ち続けるエルヴィン達だったが、追撃者は魔術兵大隊、身体強化で走る速度を上げている為、着々と近付かれつつあった。
「やっぱり、逃げ切るのは無理か……」
伝令から、敵との距離が縮まっている事を聞いたエルヴィンは、部隊の足を止め、武神達を迎え撃つ準備を始める。
「魔力を使い切った魔導兵は後方に待機! 魔術兵を先頭に、その他、全員で敵に応戦! 出来るだけ持たせようっ!」
エルヴィンの指示が人伝いに響くと、兵士達は直ぐに陣形を整える。
そこには最早、新兵としての未熟さは無く、1人前の勇士達だけしかいなかった。
数々の危機が、新兵だった彼等の成長を促したのだ。
普通の状況下であれば、武神の恐ろしさを身を以て知る事も考え、彼等がもう武神相手に惨敗する事などないだろう。
しかし、此方の兵数は100程度、しかも魔力切れの魔導兵が抜けた分、更に少ない。
そんな中、此方の約4倍を誇る、一騎当千の魔術兵達に加え、武神も居る敵を相手にしなければならない。
戦力差は圧倒的、しかし、別の味方大隊で挑んでいたならば、間違いなく数分で全滅だろう。
エルヴィン達100人の方が遥かにマシであったのだ。
それを知っていたからこそ、エルヴィンは自ら名乗りを挙げたのだが、兵力不足である事に変わりはない。
「さて、どれほど持つかな……」
冷や汗を流し、緊張で眉をしかめるエルヴィン。
そして、遂に、2つの部隊が激突した。
先ず、先陣を切ったのは、当然シャルルであった。
「どりゃぁああああああああああっ!」
大剣を構え、全速で突っ込むシャルル。しかし、その進む先からはズラズラと敵が避け、道が出来ていく。
「なに⁉︎」
進行方向から敵が消え、目標を失ったシャルルは、進む向きを変え、新たな標的に狙いを定めた。
しかし、またもシャルルの目の前に無人の道が出来る。
「またか!」
その後も、シャルルは近くの敵を見付けては突っ込むが、また、敵は避け続け、シャルルの先手は、戦果0という彼史上初めての数字となった。
なかなか敵に近付けないシャルル、奇怪に思った彼は、1度足を止め、辺りを
「なるほどな……」
シャルルの周りには、ポッカリと人の穴が出来ていた。
帝国兵達は先の戦いで、武神の恐ろしさを嫌という程、味わっている。
その為、武神と戦う事自体が自殺行為であるという考えに至り、武神からは極力、距離を取る事を徹底させた。
そして、武神への警戒を強めながら、彼の視線が自分の方を向いた瞬間に、帝国兵達は武神の視線のラインから逃げるように逃れ続けていたのである。
なかなか戦えない状況に見舞われた戦闘狂のシャルル。しかし、彼の口元には笑みが浮かんでいた。
「俺と戦う事自体を避けるか……なかなか面白い手だ……だが、いつまで持つかな?」
武神の手による戦死を0に抑えながら、奮戦を続けるエルヴィン達。
しかし、シャルルの予想通り、限界は呆気なくやって来た。
戦いを経験し、成長した第11独立遊撃大隊の兵士達。しかし、やはり個々の戦歴の違いと、単純な数の差で押され始めていた。
そして、劣勢になりつつある状況で、武神への対応が遅れ始め、シャルルと帝国兵との距離が段々と縮まっていく。
「なんだ……呆気ない……」
シャルルは、期待していた敵の、予想以下の弱さに幻滅し、溜め息を
「まぁ……先の戦いで、奴の兵士だいぶ潰しちまったからなぁ……無理もねぇか!」
最早、負けは無いと確信したシャルル、彼は部下達へ総攻撃を掛けるよう命令した。
次の瞬間、
「なんだ?」
辺り一帯を一瞬にして、真っ白な霧が覆った。
「こいつは……初級魔法の[ミスト]か……視界が塞がれて身動き出来んな……」
帝国魔導兵の全員が魔力切れと思われていたが、実は、数人の魔導兵は温存していた。
というのも、もし武神達に追い付かれた時、逃げる為の目眩しを発動するつもりだったからだ。
実際、[ミスト]による霧により視界を奪われた武神達は、足を止めざるを得なかった。
そして、霧が晴れた時には、シャルル達と帝国兵との距離はかなり開いていた。逃げられたのだ。
「小賢しいマネをしやがって……だが、まだ楽しめそうだ」
シャルルは嬉しそうな笑みを浮かべた。
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