4-107 安息なし

 共和国軍に多大な損害を出し、事実上終結したラウ会戦。その功労者たる騎馬隊の帰還を、帝国兵達は盛大な歓喜と共に出迎えた。



「ヤッホォーッ! 英雄達の御帰還だぁあっ!」


「オオオオオオオオオオオッ! すごかったぞぉおっ!」


「お陰で勝てた! 見事だったぞぉおっ!」



 それはさながら、少し簡素なパレードの様だったろう。

 騎馬に乗った英雄達が通る前を、次々と兵士が道を開け、賛美を送る。

 盛大な歓迎を受ける彼等は、照れ臭そうに笑みを浮かべ、嬉しそうに手を振り、誇らしそうにガッツポーズを決める。

 この時、彼らは主役として、パレードの中心に居たのだ。


 しかし、そんな中、騎馬隊での第1戦功であるガンリュウ大尉は、喜ぶでも無く、無愛想に、道を淡々と進んだ。

 元々、戦いの功で喜ぶ人物ではないが、やはり、武神の事が頭から離れなかったのだ。


 しかし、その無愛想さが逆にカッコよく映ったらしく、男性兵は憧れの視線を、女性兵はウットリとした視線を送った。




 兵士達を抜け、ひらけた場所に出た騎馬隊は、次々と馬から降りて、共に戦った戦友たる馬達をねぎらった。


 ガンリュウ大尉も馬から降りると、馬の首をさすり、この時、珍しく笑みを浮かべる。



「御苦労だった……初めて乗らせて貰ったが、良い馬だった」



 その言葉を理解したかどうかはわからない。ねぎらわれた馬は、突然、天を仰ぎ見た。


 誇るように、自慢するように、喜ぶように。


 こう見えるのは自惚れかもしれないが、ガンリュウ大尉は少し嬉しく感じていた。



「ガンリュウ大尉、御苦労さま!」



 自分の名を呼ぶ声、それに聞き覚えがあったガンリュウ大尉は、笑みを消し、声の方を振り向いた。そして、声の主の顔を見るや、溜め息をこぼす。



「まったくだ……毎回、お前は苦労を押し付けてくる。いい加減、楽させて貰いたいものだ……なぁ? 大隊長殿」



 なかなかに毒舌な返しを受け、エルヴィンは苦笑をこぼすのだった。




 今回の戦いで、エルヴィンが立てた策により、敵を撃退する事が出来た。第1功は彼のなのは間違いなく、帰国すれはしょうされるのは間違いないだろう。


 しかし、エルヴィンには、喜びどころか、安堵する様子はなく、そんな彼の様子に、ガンリュウ大尉は、粗方、察する事が出来た。



「まさか……上手くいかなかったのか?」


「いや……成功は成功だよ? ただ……」



 歯切れの悪い答え、エルヴィンは少し困った様子で、頭を掻いた。



「幕僚達より聞いたんだけど……予想より、敵新兵器の損害が少ないらしい。9台の内、3台だけだそうだ」



 今回の目的は勝つ事よりも、敵戦車を破壊、もしくは、捕獲するのが目的であった。


 この戦いで帝国軍が負けたとして、9輌もの戦車は、次に要塞攻撃に参加する。

 と、なれば、陥落とはならぬにせよ、要塞に少なからず損害が出て、その損害の中、数ヶ月後再び起こる可能性がある防衛戦に挑まねばならないのだ。

 それに、今回の戦いで、今まででは想像すら出来ない程の味方が失われ、要塞の損害を埋める余裕があるかも怪しかったのである。

 出来れば、最低でも4、5輌は潰したかった、というのが本音なのだ。


 しかし、3輌も潰したのは事実。過少に評価するエルヴィンに、ガンリュウ大尉は怪訝けげんな様子を見せる。



「これでは……敵は要塞攻略を諦めないのか?」


「恐らくね……今回、共和国軍側も今までにない損害を出している。これを払拭する為にも、多大な戦果を欲する筈だ」


「敵の総司令官は、あのストラスブール大将だろう? そんな愚を行うか?」


「作戦や方針を決めるのは何も大将だけじゃない。幕僚達も関わっているし、幕僚達の多くが継続と言えば、大将も頷かざるを得ないよ」


「なるほどな……」


「まぁ……だから、あと1、2台は叩きたかった……そしたら、流石に敵も、勝ち目なしと撤退する筈だったんだけど……」



 状況はかんばしくなかった。戦車を6輌も残してしまい、敵の戦意を挫くには足りなかったのだ。


 戦意を挫けかなかった時点で、敵戦車を含めた共和国の大軍が、要塞を攻める事になるのは確定した。

 そうなれば要塞に損害が出る。

 それはなんとか回避したいところであった。


 しかし、どう回避させるのか。それが問題となるのだ。

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