4-103 ラウの地で
朝早、ラウ平原を物々しい空気か包んでいた。
共和国軍の大軍が、戦車9輌を先頭に、目下、帝国軍に向け南下していたのである。
目標は敵第10軍団、戦車9輌全てをもって、唯一侵攻能力を残す第10軍団を叩こうというのだ。
魔法が効かぬ戦車9輌、大砲をあまり置かず、魔法に頼る帝国軍にはかなり厄介な代物であり、それに守られながら歩く兵士達は比較的安全だと言える。
しかし、指揮官達には緊張が走り、油断する様子などは決してなかった。
強力と思われていた戦車、それを1輌、敵に奪われたからである。
この戦いで始めて投入された戦車、それが初見で奪われた。
始めて投入された最新兵器をみすみす敵に奪わせた。
これは明らかな恥であり、失態である。
また同じ事をしでかしたら、左遷や降格も考えられたのだ。
特に第7軍団長エドゥアール・アミアン中将と、第8軍団長ブリス・オーベルヴィリエ中将は、先の、大勢の兵士を死なせた失態もある為、僅かなミスさえ許されなかった。
「ここで戦果を挙げねば、責任は免れん……」
窮地の立場にあるアミアン、オーベルヴィリエ両中将。彼等は名誉挽回の為、何とか手柄が欲しかった。
今回、塹壕を取り戻し、敵第10軍団を壊滅させる戦果を挙げれば、敵第3、第8軍団壊滅の戦果と合わさり、名誉回復には十分だった。
失態を埋める最後のチャンス、それを何とか手に入れようと、アミアン中将とオーベルヴィリエ中将は、失敗せぬよう、必要以上に神経を尖らせる。
そして、帝国軍が
アミアン中将とオーベルヴィリエ中将は自ら陣頭指揮を
そして、敵砲、魔法の射程圏外で一時停止する共和国軍。
改めて戦車を先頭とする陣形を整え、敵塹壕と味方との間に罠が無いかを遠目で確認、敵の様子も遠目で確認する。
味方全員が緊張で息を飲み、ラウ会戦に於ける最終決戦の火蓋が切れるのをジッと待った。
静けさがラウ平原を包み込み、両軍共に不安と緊張で心臓の鼓動を早める。
戦車を持つ共和国側は勝利を半ば確信していたが、個人単位では死ぬか生きるかは分からない。
味方が勝っても自分が死ぬ、という事も十分考えられるのだ。
敗北の心配はしていないものの、両中将は新たに戦車が破壊される、もしくは捕獲される失敗を恐れて、兵士達は自分が死ぬ事を恐れていた。
一方、帝国軍は、敗北する事を恐れ、自分達が死ぬ事も恐れていた。
敗北という文字がクッキリと現れた帝国軍の方が、不安と緊張は強大であっただろう。
多数の血を流し、多くの者の墓場となったラウ平原。この地での戦いに、遂に終止符が打たれる事となる。
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