4-2 開戦

 午前10時30分、帝国軍別働隊と共和国軍塹壕部隊の衝突、"ラウ会戦"は1つの号令から始まった。



「突撃ぃいっ‼︎」



 その号令と同時に、帝国軍別働隊各所で笛が鳴り響き、それを合図に帝国魔術兵およそ1万人が一斉に雄叫びを上げながら駆け出した。



「「「ウォオオオオオオオオオオオッ‼︎」」」



 遠くから聞こえる帝国兵達の雄叫びを聞いた共和国軍は、双眼鏡で敵が迫ってくるのを確認し、各軍団長が号令を下した。



「撃てぇえっ‼︎」



 軍団長の号令と共に、40門の重砲が火を噴き、放たれた砲弾は曲射を描きながら、帝国魔術兵達を襲う。


 40発の砲弾は帝国魔術兵達の居る付近で次々と地面に触れ、炸裂し、地面をえぐっていき、40個ものクレーターを作り上げる。


 しかし、帝国魔術兵に死者はほとんど出なかった。

 魔術兵は身体強化により防御力を上げている為、重砲の砲弾が直撃でもしない限り、大抵は擦り傷程度にしかならないのだ。


 それでもほとんどであり、死者は出ていた。

 身体強化が弱かった者が、砲弾の炸裂に巻き込まれ、致命傷を負い命を落としていったのだ。

 中には、強力な身体強化をしていたにも関わらず、運悪く砲弾が直撃し、見るも無残な姿になった者も存在した。


 共和国軍による重砲の第1斉射が行われて直ぐ、帝国軍はおよそ2万人の通常歩兵への突撃命令を下す。


 身体強化の使える魔術兵を盾に、通常歩兵が後方で、魔術兵を射撃援護しながら突撃する。この世界における基本戦術である。


 合わせておよそ3万の帝国兵が共和国軍塹壕に迫る中、共和国軍は重砲の斉射を続けた。


 重砲の砲弾が降ってくる中、3万の兵士達は、少しずつだが着々と共和国軍に迫っていく。


 しかし、敵に近付くにつれ、敵軽砲による斉射、敵重機関銃の無数の弾丸、敵兵による銃弾の応酬が加わり、敵の攻撃は激しさを増していく。


 共和国軍に近付くにつれ、帝国兵は次々と凶弾に倒れ、戦場には帝国兵の屍が転がっていった。


 更に、身体強化の性質上、魔術発動中の身体への衝撃で術者魔力はかなり減らされる為、共和国軍の苛烈な砲火により、魔術兵達の魔力が底をつき始めていた。

 そして、身体強化が切れる者達が続出していき、敵塹壕制圧が不可能となり始め、多大な犠牲を払いやっとの事で敵塹壕目前に迫る中、帝国兵達は後退を余儀なくされてしまう。


 撤退を開始する帝国軍だったが、共和国の攻撃は止む事無く続き、帝国兵が撤退した時には、突撃時の死者も合わせて、3千人近くの帝国兵士が戦死していった。


 一方共和国軍は、帝国兵の銃撃を受け100人程の戦死でとどまった。


 結果、ラウ会戦初戦は共和国軍の勝利による結果に終わったのである。




 一方、ヒルデブラント要塞でも戦闘が行われた。

 共和国軍要塞攻略部隊がヒルデブラント要塞への総攻撃を行なったのだ。


 しかし、 ヒルデブラント要塞は、やはり難攻不落であった。


 要塞との間に張り巡らされた有刺鉄線の柵が行く手を阻み、足下の無数の地雷の恐怖が襲い、要塞防衛陣地からの魔導兵による魔法攻撃と通常兵による銃弾、要塞からの砲弾の雨が降り注ぐ。


 死神が空から、地面から、正面から迫る地獄を、共和国兵達は一歩一歩進んで行き、進む毎に兵士達は次々と死んでいく。


 ヒルデブラント要塞各防御陣地からの苛烈極まる攻撃に、共和国軍の進軍の足は段々と遅くなっていき、そして等々、敵の第1次防衛線に足をかけることすら叶わず、共和国軍は後退せざるを得なくなった。


 共和国軍による第1次要塞総攻撃は、帝国軍死者およそ600名、共和国軍死者およそ5千名と、共和国軍の死者が帝国軍の約10倍も出す型で、共和国軍の惨敗として終結する。




 両軍による最初の砲火が交えられてたった3時間の間に、両軍合わせて、およそ9千人もの屍の山が、戦場に積まれたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る