3-17 初日の揉め事

 エルヴィンは、狙撃兵達の様子を確認した後、衛生兵小隊の所に向かった。その表情は、部下に仕事を押し付けたのがアンナにバレ、その分の仕事を後でしなければならないという事で、曇っていた。



「仕事したくないなぁ……でも、サボったら、さっきのパンチ食らうかもしれないんだよなぁ……」



 エルヴィンは痛みの引いた筈の腹部をさすり始めた。



「思い出しただけで、お腹が痛くなってきた……」



 そういえば、アンナに殴られたのは初めてかもしれない。それだけ、彼女を傷つけてしまったのだな……今度、お詫びに何かしようかな。


 エルヴィンは改めて反省しつつ足を進めていた。

 すると、白く大きいテントの中から、誰かが口論している声が聞こえ、腹部から手を離した。



「士官学校にも通っていない奴が、小隊長である俺に口出しをするな!」


「間違った事を間違いだと言って、何が悪いんですか!」



 あのテントは確か……衛生兵小隊が居る場所だな。


 当初の目的地という事もあり、エルヴィンがそのテントの中を覗くと、そこには実戦を想定して10台の軍用ベットが左右に並べられており、そんな中で衛生兵の全員が、ある1点に視線を集めていた。

 その視線の中心となっていたのは、18歳ぐらいの小隊長らしき男と、15歳ぐらいの新兵らしき少女が言い争う姿だった。



「これは、また……」



 エルヴィンは、最初の訓練から早くも言い争っている2人の様子に、僅かながら不安を感じつつ苦笑いすると、詳しいことを聞く為、1番近くに居た兵士に声を掛けた。



「ちょっと君!」


「はい?」



 話し掛けられた兵士は振り向き、エルヴィンの顔を見て、驚き、動揺した。



「だ、大隊長⁈」



 兵士はエルヴィンの存在に驚きながらも、礼儀としての敬礼を忘れずにした。



「少し聞きたい事があるんだけど……彼らは何を言い争っているんだい?」


「はっ! 実は……」



 兵士は敬礼を解き、話し始めた。


 口論の理由はこうだった。


 小隊長が部下達に負傷兵の治療の仕方を教えていた時、新兵の少女が「治療の仕方に問題がある」と注意したらしい。

 すると、小隊長は、士官学校にも通っていない年下の新兵に注意されたのが気に障ったらしく、新兵の少女を怒鳴りつけ、そのまま口論になったそうだ。


 それを聞いたエルヴィンは呆れて溜め息をこぼした。


 気に障ったからといって、部隊の隊長が部下の意見に対し、反対意見も出さずにただ怒鳴るだけというのは、明らかに隊長としての資質に欠けている。

 新兵の士官という事から、士官学校出たての青二才と考えられたが、だからこそ見逃す訳にはいかなかった。


 エルヴィンは2人の下へ歩いて行くと、彼等の横で、大きく手を叩いた。

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