2-11 変わる時
ヘレーネ・フライブルクの病死。それによりこの日、ヴンダーの町は悲しみに包まれ、オイゲンやテレジアは泣き、アンリやアンナは黙って黙祷を捧げた。そして、エルヴィンは黙ったまま、ベッドに冷たく横たわる母を見詰めていた。
エルヴィンは考えていたのだ。
亡くなった母が安心して逝けるように自分はどうすべきか。
そして、領民達が幸福を感じながら一生を終えるにはどうしたらいいか。
自分の前世における最期のようにならない為にはどうすればいいか。
エルヴィンの歴史関係の仕事をするという夢は、この日、別の物へと変わっていく。そして、エルヴィンは、ある決断する。
ヘレーネの死からある程度、みんなが立ち直った日。今日はエルヴィンの誕生日という事で、フライブルク家の屋敷には、その周りの庭も使って町の住人達も集まり、盛大な誕生パーティーが催されていた。
そんな中、エルヴィンは、客間にて、オイゲンに自分のある決意を伝えようとしていた。
「俺、
エルヴィンの突然の発言に、オイゲンは目を丸くし、少しの間、微動だにせず、状況を頭で整理した。
しかし、ふと我に戻ると、真剣な表情で我が子を見詰める。
「軍人とは人を殺す仕事だ。しかも、命がけの仕事だ。私が大事な息子を、そんな危険で愚かな仕事に就かせると思うか?」
「父さんが領主として優れているのは、軍での経験と、軍の人脈があるからだ。だから俺も、それを身に付けたい。良き領主になる為に、領民や友人達を幸せにする為に、俺は軍人にならなきゃ駄目だと思うんだ!」
オイゲンは最初、それを許さなかった。
しかし、決意を頑なに崩さないエルヴィンに、次第に気圧されていき、そして、オイゲンはとうとう諦める。
「分かった、軍に入る事を認めるよ……但し、士官学校に入る事。それが条件だ」
嘆息を
すると、オイゲンは頭を掻きながらもう一度口を開いた。
「あとさ……こんな大事な事、わざわざ自分の誕生日、記念すべき日に言う必要はなかったと思うのだが……」
最もな父の意見に、エルヴィンは、頭を掻きながら、苦笑いして誤魔化すのだった。
この日、エルヴィンは帝都ハイリッヒにある、陸軍士官学校に入学した。
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