2-9 地方軍司令官

 世暦せいれき1905年9月15日


 森人エルフ達の町への受け入れが決まり、彼等の住まいの割り振り、生活道具の準備など、ヴンダーで暮らす準備を整えていたある日、オイゲンはアンリに不思議な印象を持ち始めていた。



「アンリ殿は、他の森人エルフ達と何か雰囲気が違いますな。何かしていらしたのですか?」



 アンリは会った当初、森人エルフ達の代表といった感じであったし、風格や仕草なども、一般人とは思えない程、丁寧であった。そして、オイゲンの考えは大方、的を射ていた。



「ええ、昔、村の村長と、魔獣狩りの指揮などを……」



 それを聞いたオイゲンは目を輝かせ、心の中で「この人だ!」と叫んだ。そして、アンリに頭を下げて御願いした。



「どうか、私の地方軍のになってくれないだろうか?」



 アンリは、突然、余所者である自分に頭を下げる恩人を見て戸惑った。



「頭を御上げください!」



 オイゲンは頭を上げた。そして、その表情は真剣その物だった。


 明らかに冗談ではない雰囲気に、アンリは疑問を持たずにはいられなかった。



「何故、私なのですか? ここに来て間も無く、信用に値する人物かまだ分からない筈です。そんな人物より、この町に長く住み、信頼できる者は沢山いるでしょう」


「いえ、信用は出来ます! 貴方は森人エルフ達から絶大な信頼を得ている。そんな人物が悪人である筈はない」


「しかし、前から貴方の下で働いている者達からの反発は免れないでしょう。我々はまだ他所者ですから……」


「それは何とかします」


「何とかとは、そんなアヤフヤな……」



 アンリは困りながら、断る言い訳を求めて頭を巡らせた。やはり他所者でしかない自分が重要な役職に就くなど、考えられなかったのだ。


 しかし、オイゲンの意志は固く、何としてもアンリを司令官の椅子に座らせる気であった。


 そんなオイゲンの折れそうにない瞳を見て、アンリは観念し、妥協した。



「分かりました、お引き受けしましょう……分からない事が多く、御迷惑をお掛けするでしょうが……」


「ありがとうございます!」



 オイゲンはまた、アンリに頭を下げ、アンリはまた困った様子でそれを見詰めるのだった。




 世暦せいれき1905年9月20日


 アンリは、フライブルク軍司令官の役職に就いた。


 やはり最初は、軍経験の無い他所者が司令官になったということで、地方軍の他の兵士達から白い目で見られていた。


 しかし、オイゲンがアンリに様々な事をレクチャーし、すぐにアンリは司令官としての能力を発揮する。


 素材収集の為の魔獣討伐の際、優れた指揮をとり、政治に関しても、オイゲンに的確なアドバイスをし始めた。


 ほんの短期間で、アンリは見事に司令官としての実力を示していったのだ。


 それを見た兵士達は徐々にアンリを認めざるを得なくなり、彼に対して白い目ではなく、尊敬の目で見るようになっていった。

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