2-3 食堂の中の先客

 アンナに疲労が溜まる様な会話をしている内に、2人は食堂の前まで来ていた。そして、話を続けながら、扉を開け、食堂の中に入った2人は、堂内を見て、ふと口を閉ざした。


 食堂には、大きな長方形のテーブルに白いクロスがかけられ、8人分の椅子が両側に4つずつ置かれている。そして、その、右手前の席に、アンナと同じ軍服を着崩しながら、微笑を浮かべた男が座っていたのだ。



「御2人さん、遅かったじゃないか!」



 男は、エルヴィンより少し明るい茶色の髪に、整った顔立ち、引き締まった身体をした20歳ぐらいの男で、顔だけ見れば、普通の女性ならば一目惚れしてもおかしくない程の、スポーツマンタイプの美丈夫であった。


 しかし、男を見た2人の反応はかんばしくなく、エルヴィンは何故居るんだと言わんばかりに呆れ返り、アンナは軽蔑の眼差しを向けていた。



「……、なんで当たり前のように、私の家で一緒に飯を食おうとしてるんだい?」


「いや〜、昨日、晩飯前に綺麗なお嬢さん達と楽しんでいたら、知らん間に次の日の朝になってたんだよねぇ……お陰で、お腹が減って仕方ない。そこで、丁度近かったここで、晩飯兼用の朝飯をご馳走になろうかと思ったんだ」


「ご飯を食べるのも忘れて女遊びにふけった挙句、ご飯を他人の家でご馳走になろうとは……最低極まりないですね」


「辛辣だね〜」



 アンナのゴミを見る様な瞳を眺めながらも、ルートヴィッヒは平然と肩をすくめ、そう返すのだった。




 ルートヴィッヒ・コブレンツ、彼はエルヴィンとアンナの友人であり、ヴンダーの町を守る部隊の隊長でもある。

 外見はイケメンと言って過言はないのだが、毎晩違う女と遊び、寝ており、精神面で言えば、女ったらしのろくでなしである。しかし、何故か一度寝た女性からの好意が続くなど、モテている。




 エルヴィンとアンナは、ルートヴィッヒに冷たい眼差しを向けながら、ルートヴィッヒの前の2つの席に着いた。

 すると、それと同じくし、テレジアと使用人達が、ご飯を運んできた。


 サラダ、スクランブルエッグにハム、ソーセージ、スープ、それに、テレジア自信作の様々な種類のパンが次々と各席に置かれていったのだ。


 そして、テレジアがルートヴィッヒの前に料理の乗ったお皿を置くと、突然、ルートヴィッヒは皿を置いた彼女の手を優しく握り、紳士的な微笑を浮かべながら、その瞳を凝視した。



「美しいテレジア様、今夜、私と一晩明かしませんか?」



 突然の承諾しかねる御誘いだったが、テレジアは、兄の友人という事もあり、どう断って良いか分からず、反応に困り、戸惑った。



「えっと……」



 すると、意図的ではなかったが、エルヴィンがテレジアに助け舟を出した。



「おい! うちの妹を穢そうとしないでくれるかな?」



 エルヴィンは少し敵意混じりの視線を向けながら、ルートヴィッヒを制止した。


 折角の誘いに横槍を入れられ、止められたルートヴィッヒは、テレジアの手を離すと、彼女が逃げる様に去った後、軽く舌打ちをする。



「別に良いじゃねぇか! テレジアちゃんだって、15歳だ! この機に、大人の階段を登らせるのもアリだと思うがね」


15歳だ! というか、テレジアをちゃん付けで呼ぶな! お前の様な、女と毎日、休みなく遊んでいる様な奴に、テレジアを2人きりになどさせないよ!」



 珍しく強く意見するエルヴィンに、ルートヴィッヒは諦め、不貞腐れた顔になった。




 そうこうしている内にテレジアや使用人達が席に着いた。

 流石にテレジアはルートヴィッヒから最も離れた席に座り、ルートヴィッヒの隣には、女性とはかけ離れた初老の執事が、ルートヴィッヒの女荒らしを防ぐ様に座った。


 もちろんルートヴィッヒがそれを良く思うことはなく、さらに不貞腐れた顔をし、そんな女漁り人ルートヴィッヒの事など余所に、テレジアの言葉と共に、彼以外の全員は祈りを捧げる。



「地の神グラース様、貴方様のお恵みに感謝します」



 皆の御祈りが済むと、全員でテレジア作の料理を楽しむのだった。

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