第15話 一見平穏なロケ

 【パパと娘の奮闘記】とは別のドラマの撮影で屋外撮影をすることになった。サスペンスドラマのチョイ役だけどね。もう殆どの収録を終えていて、最後の崖っぷちで犯人を追い詰める場面だけが残っている。


 ボクの役は被害者の娘で、主人公の刑事と一緒に手がかりを探して重要なヒントに繋がるキーワードを齎す役割がある。


 今はその崖っぷちの撮影現場までロケバスで向かっているところだ。しかし、先程から不運がありえないレベルで襲ってくる。


 まずは渋滞。これは仕方ない。次にスタッフさんが腹痛を起こして最寄りのお店にトイレを借りに寄った。まぁこれも仕方ない。次が酷い。対向車の大型トラックが居眠り運転でこっちのロケバスに突っ込んで来そうだった。風魔法で方向をずらして更に減速させて、土魔法で土台を作り乗り上げる形で止めた。魔法覚えてて助かった。無かったら皆死んでたよ。


 更に海沿いの道路では落石が3回、動物の飛び出しが5回。全部魔法で回避したけど、まるで呪われているんじゃないかと思うくらいアクシデントが襲ってくる。


 やっと現場に着いて撮影を始めると、凄い突風で崖から落ちそうになっていた。犯人役の役者さんが・・・


「いやぁ、今回のロケは順調ですね!僕、いつも何故か事故が起こって現場にたどり着けないんですよね。あっはっは!」


 こ・の・人・の・せ・い・か・!




 今回の犯人、田淵たぶち博彦ひろひこ役の俳優。不川ふかわ 幸太こうたさん41歳。若い頃から役者を目指して、大学在学中に役者になるも「華が無い」と評され、この歳まで名前のある役は貰えなかったそうだ。


 不川さんは生まれつき運が人より悪く、何度か死にかけているし、毎年骨折レベルの怪我をするそうだ。学生時代の修学旅行などではクラスメイトが不川さんの不運に巻き込まれて集団食中毒になったりしたそうだ。今回のロケも何か起こると思っていたけれど特に何も起こらなかったと喜んでいる。(ボクが防いでいるからね)


「これで不幸太なんて不名誉なあだ名を返上出来ますよ!」


 全く悪気が無い良い笑顔で語る不川さん。本人の意思とは無関係なんだけど、不幸に他人も巻き込むのを知ってるんだから、もう少し自重してくれないだろうか・・・



 撮影時も終始トラブルに次ぐトラブルで八面六臂の活躍をするボク。ホントに魔法使えるようになって良かった。もちろん役もしっかりやり遂げましたよ!


 帰りのロケバスで、まさか隕石が直撃コースに来たのは流石に予想外だった。土壇場で瞬間移動魔法を作り出して地球を素通りするように回避した。もちろんスタッフや他の役者さんたちは気が付かなかったけどね。


 みんな仕事終わりで疲れている中、不川さんだけはテンションが高く、やたらボクに話しかけてきた。そして最後に


「いやぁ、本当に今回は奇跡みたいに何も起こりませんでした!厄年なのに逆にツイてますね!」


 と言っていた。・・・この人、本当は今日死ぬはずだったのでは?


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