第9話 お受験

 いよいよお受験の日になった。他の受験生と同じようにお母さんと一緒に来た。中身は大人だけど身体はまだ小学生未満だからね。


 少し名前(芸名だけど)も顔も売れて来ているから、一応変装のために伊達メガネとマスクをしている。完璧だ!


 めちゃくちゃ倍率が高いらしく、数が多いから筆記試験と面接試験を受けるのを分けて効率を上げている。高校とか大学とかだと一斉にやらないと不正がおこりそうだけど、流石に小学校の受験では無いだろうし、面接の方を重視しそうだからそのやり方が出来るんだろうね。


 ボクは筆記試験からやることになった。でも試験時間まで少し時間があるから、廊下にズラッと並べられた椅子に座って時間を潰す。お仕事で準備が出来るまで待つことも多いからボケーっとすることには慣れている。でも隣に座った女の子がソワソワしていて気が散ってボケッと出来ない。


「ど、どうしよう・・・」


 女の子は算数の問題集を見て顔を青くしている。何に困ってるんだろう?


「どうしたの?」


「え?あっ・・・こ、この問題がわからなくて。」


 女の子が指差した問題は簡単な引き算だった。引き算が理解できてないのかな?いや、足し算もかなり間違えているようだ。多分、面接試験を重視するだろうから出来なくても問題ないよって言ったほうが良いのかもだけど、不安を取り除くならば算数を教えたほうが良いかもしれない。


「引き算はね、こうして・・・」

「あっ!そっか!」

「それでね、そこは・・・」

「すごい!わかった!」

「うん、そうだね。じゃあこっちの問題の答は・・・」

「あっ!・・・まちがえてる!ここはこうだよね!」

「正解!よくできました。」

「わーい!」


「もうすぐ試験がはじまりまーす!皆さん名前の書かれた席に座ってくださーい!」


 おっ!始まるみたいだ。


「じゃあ頑張ってね!」


「うん!ありがと!」


 女の子と別れて自分の席を探す。教室の入り口に席順表が張り出されているから直ぐに席を見つけられた。一番前のど真ん中。席替えでなりたくない席ランキング上位にはいる(ボクの中で)所だね。



 やはり筆記は重要視してないっぽいね。1枚の試験用紙に、常識問題(季節や時期イベントの名前など)と足し算引き算、おなじ図形を探す問題などが詰め込まれていた。しかも全部選択問題だから○がかければ一応答えられる問題ばかりだ。


 直ぐに終わったから、教室の前にある箱に投入して教室を出る。次は面接だね。面接会場は別の棟らしいのでお母さんと一緒に移動する。面接は保護者同伴でやるらしい。


 面接は予想外の展開になった。学園長と教頭が面接官だったんだけど。二人ともボク(姫宮ユリ)のファンらしく、是非歌を聞かせて欲しいと懇願された。そういえばお客さんの前で歌うのは初めてかも。マネージャーの鈴木さんがお客さんの前に出る仕事を今の所NGにしているからだ。NG理由は事務所の戦略らしいのでボクはよくわかってない。


 入学後に知ることになるんだけど、ボクが面接で歌ったせいで、その後の面接に来た子達がパッとしないと評価されて大変だったそうな。ごめん!でもやらせたのあの二人だからね!!




 

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