第8話 お歌のお仕事

 CMのお仕事で歌ったせいか、お歌のオファーが来た。なんでも有名な作詞家さんがボクの歌声を是非使いたいと言っているそうだ。

作詞家さんに詳しくないから名前を聞かされてもサッパリ分からない。


 お仕事の現場はレコーディングスタジオで、収録マイクの位置が高くてスタッフさんがボクの顔まで下げてくれたけど、それが不格好な気がした。まぁまだ幼女だし仕方ないんだけどね。


 さてさて、お仕事始めますか・・・事前に仮歌を聞いて練習して来たから、一度軽く歌ってみる。


「~~~~~♪~~~~~~~♪」



 収録室から出ると、レコーディングエンジニアの加藤さんと有名作詞家の歌川さんが待っていた。


「いや~、良かったよ!ねぇ歌川さん!」


「うん。完璧だね。・・・でも僕のカンではユリちゃんならもっとクオリティ上げられそうな気がするんだ。」


「えぇ?!まさかそんな!さっきの歌でもかなりの物でしたよ歌川さん!!」


「カンだけどな。ユリちゃん!次は全力でやってみてくれ!」


「はーい」


 さっきはサラッと歌ったけど、今回は感情を込めてみよう。割と今回の歌詞が意味不明系だけどインを踏んでいて耳に残る物なので感情を込めにくい。だから無難に元気な気持ちを込めて歌うのだ。


「~~~♪~~~~♪~~~♪」


 ふぅ・・・ちょっと疲れた。お水のも。


「「「「・・・・・・ぐすっ・・・・・・」」」」


 え?!スタジオの大人達が笑顔で涙を流して鼻水を啜っているんですが。


「ど、どうしたんですか?」


「よくわからないんだが、ユリちゃんの歌を聞いたら[喜び]としか言いようがない感情が溢れてしまってね。」


「うぅ~~ホントですよ!ウチの子が生まれた時より嬉しい気持ちになりましたよ!」


 それ絶対家族に言っちゃダメですよ。



 結局2回のレコーディングでお仕事は終わった。通常はもっと時間を掛けるらしいけどOKが出たので直ぐに開放された。良かった良かった。


 ボクの歌は大人気日常系ラノベのアニメのオープニング曲として使われると後から聞かされた。待望のアニメ化なのにオープニング曲を子役が歌うって、叩かれそうだけど大丈夫なの?


 ちなみにエンディング曲は売出し中のアーティストの曲にほぼ決まっているらしい。らしいって言うのは、そのアーティストの事務所からのゴリ押しで捩じ込まれたのを原作者サイドが何色を示しているからだ。ちなみにその事務所は過去に何度もねじ込みをしていて、そのたびにアニメの評価を下げているらしい。

前世でもアニメは見ていたけど、見ていたのは極一部の作品だったし、今回の作品も見てなかったりする。



 しばらくして1話の試写会が行われた。ボクは他のお仕事が入っていたため行けなかったけど、オープニング曲もアニメ本編も好評だったそうだ。

放映版第1話はエンディングの代わりにオープニング曲が掛かる仕様なので本来のエンディング曲は流れなかった。


 しかし動画サイトの公式チャンネルでエンディング曲を投稿したら大不評で低評価の嵐。急遽動画を削除してエンディングもボクに歌ってくれと依頼が来た。


 えぇ?!急すぎない?マネージャーの鈴木さん(いつの間にかボクの専属になっていた)がスケジュールの調整をしてくれたので、データで送られた仮歌(時間がなかったのか歌川さんが歌っていた)をスタジオに行きながら聞いて覚えて直ぐにレコーディングした。当日の正午が締め切りとかありえない仕事だったけどなんとか1発OKで、編集する時間がないのでほぼ生歌のまま絵に合わせる事になった。

今世のハイスペックのお陰で一度で完璧に覚えられて良かった。


 奇跡的に前エンディングに合わせた絵が違和感なく合ったのでそのまま使ったそうだ。エンディング曲の差し替えだけだったせいか、放映はその日の夜になった。・・・こんなギリギリな事ってあるんだね。


 ちなみにボクのエンディング曲は[安らぎ]を込めて歌ったから、オープニング曲でテンションを上げて本編を楽しみ、エンディング曲でクールダウンする。【テンションを上下させられるアニメ】として話題になったそうだ。

ボクも見てるけど、流石に自身の歌に感情を左右されたりしないからその気持はわからなかった。

 

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