楽しいドライブ
夏休みに入って最初の日曜日。
午前10時。
家族そろってテーブルを囲んでブランチを食べていた。
「最近のケンは体調が良さそうね。夏休みのおかげかしら」
お母さんが微笑んだ。
「うん、ぜんそくの発作も起きないし食欲もあるよ」
そう言ってからトーストをコーヒーで流し込んだ。
「それなら今日は天気もいいしみんなでドライブでもどうだ? ちょっと出かけてみるのも悪くない」
「えっ、本当!? どこに連れてってくれるの?」
テーマパーク?
それとも水族館?
お父さんの言葉にウキウキするぼく。
「
お母さんが言った。
「ええっ、スエヒコ叔父さんから!?」
予想外な名前が出てきたのでびっくりした。
スエヒコ叔父さん、すなわち
小さい時によく一緒に遊んでもらったのを今でも覚えている。
プール、遊園地、映画にゲームセンター。
優しくって頼りがいのあるスエヒコ叔父さんのことが大好きだった。
しかしスエヒコ叔父さんは突然ぼくの前からいなくなってしまう。
後になってお父さんが教えてくれた。
なんでも鍼灸の専門学校を卒業しても飽き足らず、東洋医学を極めるために自主的に中国に渡ったとか。
スエヒコ叔父さんから届く手紙は月に1回から半年に1回、年に1回、そしてとうとう届かなくなった。
「便りのないのは良い便り、だよ」
お父さんがさびしそうにつぶやいたのは何年前だったっけ。
「さあ、食べ終わったら準備をしよう。着替えも用意した方がいいかも。もしかしたら泊まるかもしれないから」
お父さんも久々にスエヒコ叔父さんに会えるのでその声は弾んでいた。
「しかし思ったよりも遠いぞ。随分と辺鄙な場所に開業したんだな、スエヒコは。こんな人里離れた所で患者は来るのか?」
ハンドルを握っているお父さんは少しイライラしている。
「開業して間もないけど経営は軌道に乗せたそうよ。スエちゃんの手紙によればね。それに自然がいっぱいで素晴らしいじゃない。ねえ、ケン」
お母さんはのんびりと言った。
その後も車の中ではスエヒコ叔父さんのことをずっとしゃべっていた。
「患者には有名人や各界の大物が何人もいるそうだ」
「かなり羽振りが良さそうね」
「前から変わり者だったけどちゃんと鍼灸師として働いているなら応援をしてやろう」
「そうね、身内なんだし。せっかくだから治療院に着いたら私は肩こりを治してもらおうかしら」
お母さんは肩に手を当てながら言った。
「それはいい。じゃあお父さんは慢性の腰痛を診てもらおう」
お父さんは腰を伸ばしながら言った。
しばらくすると道の先に大きな丸太小屋が見えてきた。
「おっと、多分あれがスエヒコの治療院じゃないか。うん、そうに違いない。そうに決まっている。こんだけ運転したんだから到着してもいいはずだ」
お父さんが決めつけるように言った。
「だけどちょっと物々しい雰囲気ね。何か事件でもあったのかしら」
お母さんは首を傾げた。
気になって、ぼくも外を見てみる。
丸太小屋の前には黒塗りの高級そうな車が数台停まっていた。
さらには軍用車のようなSUVが一台。
とどめに目つきの悪いスーツ姿の大男たちが敷地内に三~四人ほどウロウロとしている。
イヤな予感しかしない。
事件のニオイ。
反社な方たちとのトラブル。
スエヒコ叔父さんは無事なの?
何をやらかしたの?
ドキドキして外を見ていると敷地内にたむろしていた一人の男がこっちに近づいてきた。
車の窓をノックする目付きの悪い大男はものすごい殺気を放っている。
ああっ神さまっ!
ぼくたちはただドライブがてら身内に会いに来ただけなんです。
どうか家族全員をお守りくださいっ!
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