第20話 ほんまに勘弁しての買春ツアーのオッサン達
ある日、朝の出国手続きと入国後のホテルのチェックインのお手伝いをすませた私が、事務所に帰ると社長から夜のショッピングを希望されているお客さんがいるからガイドをお願いできませんか?と言われた。
承諾して、カジノホテルのフロントに行くと、オッサンが四人いた。そして「わしらショッピング言うても女の方やで」とのたまった。私は、断った。ポン引きみたいなことできるか。そして、これは非合法であるからトランシーバーで、社長にこう伝えた。
「社長、ショッピングって、女の方ですよ」
「何?女!」
社長が飛んで来た。そして、ラスベガスでは、エイズが怖いこと、そして、パーランプというまちが近くにあり、そこには、ソープランドのようなもがあり、売春が合法であるから行きませんかと説得した。
しかし、オッサンらは、そこには行きたくない。ベガスで買うと闘志を燃やしている。しどろもどろになった社長は、じゃあ、カックンさんあとはよろしく頼みますよと言って事務所に帰って行ってしまった。
まいったなあ、私たちを使っている旅行代理店は、こんな場合どうしてんねんと思い連絡を入れたら、やってくれとのことだった。ラスベガスには、売春へのおとり捜査というものがある。これに当たった場合、仲介をしているガイドにも罰則があるのはもちろんだ。おそらく、正規の労働許可証の申請は却下されるだろう。
渋っている私に、オッサン達はまず居酒屋へ行くことを提案した。久々の日本食はうまかった。そして、ビールを飲んでいるうちにどうでもよくなり、オッサン達の要求を受けることにした。
居酒屋を出た時点で、私のガイドとしてのサービス時間は切れた。ここからは、仕事ではないからボランティアだ。カジノホテルに帰り、まず、部屋を新たに二つ取った。そして、一つの部屋で電話帳を開けて、適当な広告を選んで電話した。
「ダンサー、ブロンド、四名頼む」
「ダンサー四名なのね?」
「そう」
「分かった。ちょっと待っていてね」
私は、どんな女性が来るのか興味があったが、四人ともセーターにジーパンといういで立ちであった。これは、素人っぽさを演出しているなと思った。オッサンの中で一番、権力をもっているのが、なんぼか聞いてくれと私に頼んだ。聞いてみると、ひとりの女の子が、「We can't(言えない)!」と血相を変えて大きな声を出した。
これは、ダンサーという名目で来て、途中から自由恋愛でという事になっているからだと思う。しかし、この一番の権力のオッサンが、しつこく、なんぼか聞いてくれ」と私に催促する。私が、言えないんですよと言っても何度も何度もしつこく催促する。結局、この権力のオッサンも部屋へ女の子と消えて行ったが、本当にしつこくて、心底、
時刻は、午前一時を回っていた。こっちは、昨日の朝の五時から働いている。やっと、帰れると部屋を後にした次の瞬間、背後から「ヘイ・ユー!」と私を呼ぶ大きな声がした。振り返ってみると、さっきの四人組の女のうちのひとりが、偉そうに腕組みをして、私をにらみつけていた。
「なんだ?」
「彼は、英語を話せるのか?」
ここまで頭の悪い質問は、私の人生で初めてだった。
「話せるかどうか、話してみたら分かるだろう。とにかく俺は、この仕事では、コミッションを取ってない。あとは、アンタら二人でやってくれ」
そう言って、私はやっと帰路についた。翌朝、仕事でカジノホテルのフロントに行くと、四人組のオッサンらの一人がいて、私にこれはアンタの責任やないんけど、昨日の女の一人がコンドーム買いに行く言うてカネ持ち逃したんやで、と言った。
すると、背後から「夜の女くらいきっちり束ねてなあかんど!」と大声を出した男がいた。見ると、ジジイであった。頭に来た私は、胸につけてあった旅行代理店のバッジを取り外して踏みにじりたかった。そして、このジジイに「だから、俺は、嫌だって言ったんじゃ!」と怒鳴りつけてやりたかった。
日本に帰って、仕事をする。そして、アドレスを聞き忘れた由紀子先生に、コンタクトを取る。彼女は、クラスを受けている時には、ジーパン、スニーカー、Tシャツとカジュアルないでたちだったが、難関のテストを受けてパスした尊敬に値するピアノ教師だったのである。
しかし、トランシーバーに次のカジノホテルに移るよう連絡が入ったので、その場を離れた。私は、この時点でバッジを踏みにじるべきだった。アメリカに来た目的は、冒険もあるが、日本よりも安くステーキが食べられるとか、安くて良い家に住めるという利に走った理由も大きな部分を占めた。なにも、永住権にこだわる必要はなかった。帰国して、仕事をすればよかったのである。
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