現代の吸血鬼『ブラッディ・メリー』

朧塚

私は血を啜る怪物として生まれた。

 死体ばかりの部屋の中で、私は眠りに付いていた。

 死体は大型犬を入れる為の檻の中に入れられており、その数は四つある。

 徐々に腐敗が酷くなっていくだろうが、冬なので、臭いは近隣に拡散しないだろうと踏んでいる。


 私はこの家の人間を衰弱させていき、時間を掛けて皆殺しにした。

 当初は保険金を掛けて殺そうと思ったが、すぐに銀行から全財産を引き出させて、全員を殺害する方が楽なのだと判断を切り替えた。


 そもそも、以前から、人を殺す経験はしてみたかった。

 彼らの命乞いの姿を見ている時、私はまるで神になったような気持ちになった。


 私は有名大学を出た後、色々な職業をしていたが、中々、自分に合った職業が見つからず、すぐに転職を繰り返す、という行為を行っていた。お金は貯まらない。しかも、ストレスが溜まるとブランド物の服やバッグを買ってしまう。仕事はすぐ辞めてしまうので、生活も困窮する。


 そんな中、私が思い至ったのが、人を殺してお金を奪う事だった。


 そして私はSNSなどで何度もターゲットを調べて、この家の住民に行き着いたというわけだ。自営業に成功した老夫婦が二人。三十代になる老夫婦の子供達はどちらも、生まれた時から病気を抱えており、今は福祉施設で働いていた。


 調べたところ、友人、知人が少なく、親戚の多くが亡くなっている。

 私はグッチのバッグの中に、ぎっしりと詰まった四千万円を見ながら、これから何に使おうか考えていた。バッグは三つ買って、四千万は三つのバッグに分けた。


「さて。これから、何処に遊びに行こうかな」

 高級レストランを頭に思い浮かべる。

 夜景が綺麗な場所がいい。

 

 最近はダイエットの為に、外で食事をする時は、ベジタリアンを気取っている。

 豆腐のステーキが素晴らしい。


 私はテーブルに置いてある、物体を見つけて、すぐにそれをケースの中にしまう。

 注射器だった。

 注射器の隣には、何リットルもの血液を入れたペットボトルが大量にあった。

 私は老夫婦と、彼らの子供達を檻の中に入れて、衰弱させていくにあたって、身体から大量に血を抜いていった。抜いた血は私のマンションの中に保管している。


 今では、マンションの冷蔵庫は三台にもなった。

 また増やそうと考えている。


 私は一度、自宅のマンションに戻って、金の入ったバッグと、そしてトロフィーのように収集している血液を冷蔵庫の中に保管する作業を行わなければならない。


 一度、自宅に戻って、金とコレクションを置く。

 それが、最近のルーティーンになっていった。



 綺麗な夜景が見えるラウンジの高級レストランで、野菜ばかりの料理を食べてワインを飲んだ。今日は本当に良い日だ。空も晴れて、星空が綺麗に映えている。


 私はタクシーで家まで戻ると、冷蔵庫の中から、改めて血の詰まったペットボトルを取り出してテーブルの上に置いてそれをまじまじと鑑賞した。


 …………、私が血を抜き取る事に興味を抱いたのは、小学校の頃だった。

 予防接種の時に、保健室で隠れて注射針を盗んだ事から始まった。


 みな、身体に針を入れられる事に恐怖を覚えていた。

 身体の中に、当時、流行していたインフルエンザだか何かの免疫の注射が行われる。私は他の子達の腕に針が刺されていくのを見て、胸の奥がゾクゾクとした。これまでの短い人生の中で、初めて起こった性的快感とでも言えるものだった。


 そして、私は注射針を盗んだ。

 使用済みの注射針を何本も盗んだのだが、無自覚のうちに、そのまま使うのは危険だと感じ取って何度も念入りに注射針を洗浄した。後に、汚れた注射針は感染症などのリスクが高確率で伴う事を知って、私はその時の判断は正しかった事を知った。


 綺麗になった注射針を使って、私が行った事は、自分の皮膚から血を抜き取る事だった。

 いわゆる、自傷行為の一環らしくて、カッターや剃刀で腕や他の部位を刻むものも多いらしいのだが、私は自分の身体から血を抜く事しか恍惚感を抱く事が出来なかった。中学生に上がる頃には、それがもう病み付きになっていた。学校の体育の授業中に貧血で倒れた事だってある。


 その頃には、親の名前と住所を使って、インターネットで注射器を購入する事は日常茶飯事になっていた。その頃の私は抜いた自分の血をペットボトルやビーカーに保管したり、抜き取った自分の血を飲んだりする事が病み付きになっていた。


 溜め込んだ自身の血をジュースのように飲み干すと、どうしようもないくらいの性的快感に襲われた。


 同時に、私は他人の血を飲んだら、一体、自分はどんな感覚に襲われるのだろう、という欲望が日増しに強くなっていった。


 血の色は美しい。生命の色をしている。

 私は昔から赤色が好きだった。

 真っ赤なドレスを好んで着ている。

 私は肌も白い。髪の毛は長く伸ばし、白に近い淡い金髪に染めた。

 白い肌に、淡い金髪。それらは血の色と、よく似合う…………。

 

 ……意外かもしれないが。

 私は殺した人間に対しての罪悪感を持っている。

 きっと、それは養豚場の人間が育てて想い入れのある豚を屠殺する時の感情に近いものだと考えている。


 私は人を殺した時、日々、命を戴く事に感謝している。

 神の恵みとも、食べる事は命を愛する事だ。



 一家惨殺はニュースになったので、私はすぐに手口を変える事にした。

 二回目に事を行った時に、犯罪の証拠を隠蔽し切れなかった。それから、付随して、一件目の犯罪もバレてしまい、ニュースになった。


 犯人は若い女。

 金目当てで二つの家の者達を皆殺しにした。

 しかも、犯人は被害者達の血を吸った形跡がある……。

 そこまで調べ上げられた。


 警察が私を特定して捕まえるのは時間の問題だろう。

 それから、私は身を隠す為と逃走用のお金も貯める為に、夜の仕事で働く事にした。

 履歴書無しで受かって、源氏名も貰った。これで私はこれまでと違う人生を送れる……。


 だが。

 キャバクラの仕事をしばらくやり続けていくうちに、どうも何処かで向いていない事に気付いた。


 私は顔も良いし、スタイルも整えている。それに関しては自信がある。


 素性を隠す為と店で居心地が悪くなった為に、私は頻繁に雇われる店を転々とした。


 何処の店に行っても一歩及ばないし、馴染めない。


 売り上げもナンバー3とか4とかまで行けるけど、

 どうしても、その店のナンバー1キャバ嬢にはなれない。


 多分、顔だけじゃ男達の信頼を得る事が出来ないのだろう。

 私はいつも「話がおかしい」「感性が他人とズレている」と言われる。

 おそらく、その辺りの何かが原因なのだろう。


 一度だけ従業員十数名くらいの小さな店で、ナンバー1キャバ嬢の座を手に入れた事がある。

 その時は嬉しかったけれど、競争で一位になる事って、こんなものか。

 もっと大きな店で、ナンバー1取れたら確かに凄いな。

 そんな気持ちにはなった。


 ただ。馴染めない。


 その小さな店でもナンバー1で居続ける事は出来なかった。


 ずっと感じている自分自身に対する違和感は「馴染んでいない」だ。

 自分は「異邦人」でいわば「宇宙人」みたいなものなのだ。


 あるいは私のやっている事を意味化していくと「怪物」だと…………。



 キャバ嬢の仕事をしていて、ナンバー1にこそなれないが、ナンバー3まで行けたのは、異常なまでの”他者への興味”なのだろう。


 私はお店に来るお客さんに興味があった。


 他のキャバ嬢達がどんなに「気持ち悪い客」「嫌な客」「不潔な客」「生理的にムリな客」と、裏で罵っている客が相手でも、私は彼らに”興味”があった。


 そもそも私は客の外見には余り興味が無かった。

 大切なのは”内面”だ。


 たとえば、タール塗れになった肺は生身で見たら、どんな風になっているのか?

 酒癖が悪くてアルコール依存症になっている五十代の男の肝臓はどんなデザインをしているのか?

 体重が九十キロ近くもある不衛生の中年太りを極めたサラリーマンの小腸と大腸は、はたして、どれくらいの長さなのか? 他の人間よりも長くて太いのか?


 私の本当になりたい職業は外科医だったのかもしれない。

 だが、外科医は患者の心臓にアルミ製のストローを刺して中身を吸い取ったりはしない。


 他の嬢達が散々、裏で嫌がっている客とのLINEのやり取りは楽しいものだった。


「彼らは何故、こんなに女に対して”理想的な異性像”を押し付けるのか?」

「彼らは女に、一体、何を求め続けているのか?」

「癒しか?」

「自身の理想的な女が欲しいのか?」

「それとも女を支配したいのか?」

「下ネタを会話に混ぜてくるのは喜ばせたいのか?」

「説教をしてくる客の心の底には、自分の人生に対して自信が無いのか?」

「好きな女に、自身の趣味を押し付けてくるのは一体、どういう性癖なのか?」

そして一番、重要な事は「脳のどの辺りの部分の働きで、そういう思考になっていくのか?」


 当然、頭蓋を開いて中身を確かめるのは面白かった。

 脳味噌に優しく両手の指を入れていく感触は、どんな性行為よりも、快楽を伴う。

 男達が色々な声を出している時、男が女を気持ちよくさせたい、気持ちよくさせていると勘違いしている感覚って、こんなものなのかな?

 そんな風に、思えてくる。


 実際、脳の奥まで手首を入れていく時の彼らの顔を見ていると、きっと、これも一つの性的絶頂に達した瞬間なのではないか、と、そんな風に思えてくるのだ。


 キャバ嬢をしていると。性交渉を求めてくる男性も多い。

 妻がいて不倫の場合もある。


 その場合、私は彼らからお金を貰いながら、身体を提供してあげた。

 告白されたら、当たり前のように了承した。


 彼らは「自分自身の個人的な満足の為に、私を含めて、女に求愛をする」。

 私は「個人的な満足の為に、彼らの求愛を受ける」。


 実に理に叶っている、需要と供給が成り立っている。

 そして、彼らの満足の行くような女を演じ続けてやる。


 そして、性交渉まで行く。

 普通の性行為の後が私の時間に入る。

 私は性行為をした男は、必ず解剖した。生きながら血を抜いた。頭蓋を開いた。

 そうする事によってしか、私の性的衝動は満たせなかったからだ。


 紐やガムテープや鎖などで縛り付けられた彼らを生きたまま、腹を裂いて、脳を砕いて、眼球をすくい、喉を裂いていく時、私は何度も何度も何度も何度も、性的絶頂に達し続けて、頭と下半身を熱くさせていた。


 鏡張りの部屋も作って彼らに自身のあられもない姿を見せて、記念撮影もして、ビデオテープを回して動画にもした。


 私は他のキャバ嬢達が嫌う客であればある程、彼らの内面を確かめたくなる。

 だから、みなが「クソ客」と呼んでいる男から、休日にデートに誘われた時は最高だった。

 客が団体ではなく、一人で来て、しかも社会的に孤立していればいる程、あるいは孤独を抱えている人間程、私にとっては「良い客」だった。


 他の女の子達は客を「お金」と見る。

 私は「ターゲット」と見る。

 この違いは決定的に大きい。


 その頃になると、三台の冷蔵庫だけでは収まらず、クーラー・ボックスを部屋の中に大量に置く事になった。

 それに、色々な形で”家具”や”革製品”へと変えている。


 稀に仲良くなった同僚の女の子を家に呼ぶ事も出来ない。

 呼べば、その女の子を”始末”する事になる。


 一度、どうしても私の家に来たい、という女の子がいたので、

 仕方なく家へと入れた。


 結果、彼女はクーラー・ボックスの中身を見て、彼女は香水と石鹸、消臭剤。バスクリーンへとなった。

 私は彼女の血と臓物で作った、バスクリーンをお湯に溶かして身体を洗った。



 ある時、私は客の一人を解体して気付いた。

どうもそれは暴力団構成員で幹部の座に就いている人間だったらしい。

 しかも、悪い事に警察よりも、迅速に、事がバレた。


 抵抗しようとしたら、あまりにも自然に拳銃を向けられた。

 どうも、私を秘密裏に処理する話をしているみたいだった。

 私は小さく溜め息を吐いて、観念する事にした。


 私は筋モノ達に工場に連れて行かれた。

 工場の前には、組長らしき人間と若頭らしく男が立っていた。

 周りには、沢山の筋モノ達ばかりだった。全部で二十数名はいたと思う。


 身体検査の際に、マチ針だけは奪われなかったので、組み伏せられたら、それを使おう。

 体格の良い男が多いけど、喉を狙えば問題無い筈だ。


「正直、マサヤを殺したのは、恨んどる。盃も交わしたし、うちに上納金もしっかり納めていた。本来なら、相応の制裁を受けさせないと他の組の連中にも、若い衆にも示しが付かない。


 でもなあ。お嬢ちゃんよお。銃口向けられて、ヘラヘラ笑っているような女から、誰が落とし前付けさせてやりたいなんて思うかよ。身体検査をしてみたら、服の下から、刺身包丁が三本、針金やカミソリやらが出てくる。バッグの中身も見させて貰ったが、ワシの若い頃でさえ、あれくらい酷いものは見た事なかったぞ……。暴力団対策法だってある。あんただって、法律に縛られて、散々やったそうじゃねぇか。聞きたいんだが、なんで、そこまで出来るんや?


 あんた、死ぬの怖くないだろ?


 ワシは、正直、怖い。組のもんだって、いざとなりゃ、みんな怖いんよ。家族だっている。

 だからなあ、うちで、その”汚れ仕事”をしてくれないか?

 仕事の報酬は、都合で、あまり渡せんかもしれんけどなあ…………」


 そう言うと、組長は私に深々と頭を下げた。


 その組の人間は、どうも私を怖がっているみたいだった。

 それも、どうやら本気で。


 私のイメージでは、私は風俗に沈められAVを撮らされ薬漬けにされて拷問死させられた後に、東京湾で魚の餌になるのかな、くらいには思った。


 だが、まるで待遇が違う。

 最近の反社会勢力は、どうも度胸が無いみたいだ。有能な新人教育も出来ていないのではないかと疑わしいくらいだ。


 そういえば。

 バッグの中身は何かいれていたっけ?

 凶器の類は無かった筈だ。


 ああ、そうか。

 現像した”写真”が何枚か入っていた。記念撮影した奴。

 私が殺したマサヤという男は自殺という事で処理された。

 鬱病での自殺、だろう、という事で処理された。仕事に問題を抱えていたのだろうと。


 他の組のものに消されたのなら報復が必要になる。

 行方不明にしてしまえば、探さないといけなくなる。


 鬱病で自殺。社会問題になっているし、処理の仕方としては程よく着地したらしい。


 組長には申し訳ない気持ちが出てきたので、剥いだマサヤの背中の刺青は返した。

 組長はそれを見て、涙を流して笑みを浮かべていた。

 マサヤの刺青は、今でも大切に組長の部屋に保管されているらしい。



 私はその組からの依頼で、最初の仕事が始まった。


 そう、今回、私の最初の仕事だ。

 “好きにしろ”と言われている。


 暗い倉庫の中で、男が椅子に縛り上げられて座っていた。

 顔には真っ黒な袋を被せられている。


 私は組員に頼んで、大量の道具を持ってきて貰った。

 そして、私も、沢山の道具を購入した。


 報酬は、今から始末する男の財布の中に入っていた。十四万七千二百十一円。


 この倉庫に来る為の交通費と、その他、使用する為の経費を合わせたら、中々、割に合わない。


 でも、楽しい。

 仕事というものは、楽しんでやるものだ。


 薔薇に菊にカーネーション。ガーベラ。百合。ヒマワリ。スイートピー……。


 二十六種類の花を買ってきた。


 覆面を取ると、男は怒りに満ちた眼で私を見ていた。

 私は男の口を覆っていた猿轡を取ってあげる。


 男は全身全霊で私への罵倒と卑猥な言葉を浴びせ続ける。

 私はそれを無視した。

 手元が狂うので私は男の首の辺りをロープで椅子にしっかりと固定する。


 倉庫内には水道もあって便利だった。

 そして私は剃刀と水の入った洗面器。シャンプーを手にする。

 男の髪をしっかりと洗ってやる。

 その後、剃刀で丁寧に男の髪を剃っていく。


 なんだ? 散髪したいだけか? と、男は罵っていたが。

 私は男を無視した。

 男をすっかりスキンヘッドにした後に。


 私はアルミ製のストローとハンマーを手にする。


 全部で二十六本。


 私は男の頭部の中にストローを打ち付けていった。

 ごん。ごん。ごん。ごん。……………………。

 頭蓋骨がひび割れ砕け、柔らかい脳の中にストローが刺し込まれていく。


 男の私への罵倒と侮辱、卑猥な言葉は、すぐに哀願へと変わっていった。


 それを二十六回分続ける。


 血と脳漿がストローの先から出てくる。

 私は出てきたものを口にして吸い上げていく。美味しい。


 二十六本目のストローを刺し終えて、すっかり事が終わった後、男は全身を痙攣させながら大小便を漏らしていた。


 充分に注意したのに、男の血と脳漿が倉庫内を汚していた。


 私は花屋さんで買ってきた花をストローの中に入れていく。


 薔薇に菊にカーネーション。ガーベラ。百合。ヒマワリ。スイートピー……。

 色鮮やかな色彩で、男の頭をコーディネイトしていく。


 男は色取り取りの花を飾る”花瓶”になった。


 私は満足して、倉庫の外で待機していた組の若い人間に声を掛けた。


 若いヤクザは、その光景を見て泣き叫び、その場で吐いていた。

 最近の反社会勢力は、やはり、新人教育がなっていないなあ、と私は思った。


 それにしてもだ。

 キャバクラが今までやってきた仕事の中で合っていた。

 けれども、どうやら、私には天職と呼べるものが見つかったらしい。


 ある時。組の若頭から、こんな事を言われた。


「あのな。あんた、普通の人間は指だけで人間の頭蓋骨は割れない。あんたが殺した、うちの組のマサヤだが。生きながら身体を引き裂かれたそうじゃねえか。指だけで、和彫りの入った皮を剥いだだろ? なあ、普通の人間なら、そんな事、出来ない。ましてや、女の力じゃな。あんた、人間じゃないだろ」


 若頭の顔は青白く、冷や汗を垂れ流していた。

 彼は明らかに私を見て、恐怖していた。


 私はにんまりと笑う。

 どうやら、私はもう人ではないらしい。

 殺して処理して、血を吸って、色々なものに加工しているうちに、気付けば、本当に人では無くなってしまったらしい…………。


 さしずめ。

『吸血鬼』と言った処だろうか。


 私は最近、妙に尖ってきた犬歯を舐める。


 私は満月の日。

 夜の闇の中で静かに薄ら笑いを浮かべていた。


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