みかん
弱腰ペンギン
みかん
「第一回、みかんを使ったダジャレ選手権!」
こたつでぬくぬくしていると、幼馴染の裕子が変なことを言い出した。
「寝るわ」
「っちょっと!」
まためんどくさいことを。好きにやってろよ。俺はテレビを見ながらこたつでダラダラしてんのが好きなんだよ。
「ねー。やろうよダジャレー」
「やんねえよ」
ダジャレをやるってなんだよ。
「ねーねー。みかんー」
「お前、そんなに俺をいじって楽しいか?」
「えー。いいじゃん、みかん。かわいい名前じゃん」
「冬になる度にいじられる名前のどこがいいんだ」
「別にいいでしょ。みかんはこたつに入るのか籠に入るのかって言われるくらい」
当事者は嫌なんだよ。わかれ。
「それに、おいしいじゃん。みかん」
「たまに酸っぱいのもあるけどな」
「それも含めておいしいじゃん」
「……おいしいということとダジャレは関係ないだろ」
なんでそんなにダジャレにこだわるんだ。
「いーじゃんいーじゃんダジャレしようよー」
「やだ」
「私からねー。みかんの皮をみかん」
「やらねっつってんの」
「はいみかんの番」
裕子をスルーしてテレビを見ながらぼーっとしていると、頭の上にみかんを乗せられた。
「みかんの上にあるみかん」
不覚にも少し面白かった。
「あ、笑った。私のかちー!」
「そうですね」
「……」
「……」
「つぎみかんの番だよ」
「おー」
あー、こたつぬくい。眠い。
二人してこたつでテレビを眺める。外から鳥の声が響いてくる。
太陽は出ているが、冬だから暑くはない。というか寒いのでこたつに入ってる。
ストーブの上に置いたヤカンから出ている湯気が湿度を足していく。
みかんを剥いて半分にすると、裕子の前に置く。
二人してこたつの上に溶けながら、だらーっとみかんを食べながらテレビを眺める。
テレビを消すと、ヤカンのシュンシュンという音だけが響いている。
外を見ると雪が降り始めていた。さっきまで太陽が出ていたはずなんだけど。そう思って空に目をやると、雲に隠れて見えなくなっていた。
冬だなぁ。
「ん」
「ん」
二つ目のみかんを目の前に置かれたので、剥いて半分を渡す。またもそもそとこたつで食べながらぼーっとする。
みかんウマイ。
「雪だね」
「んー」
あ、いまのみかんすっぱい。
「明日?」
「うん」
「そっか」
「うん」
「大丈夫?」
「うーん。うん」
「そっか」
先週。肘をやった。
俺はピッチャーだった。もう無理だって言われた。元通りにはならないよって言われてる。
「このみかんは簡単に剥けるのにね」
裕子は最後のひとかけを口に放り込むと、べたーっと溶けていった。
「このみかんみたいにすっぱいのもあるけどな」
最後のひとかけはやっぱりすっぱくて、顔がキューってなる。
「こっちのみかんは甘いよ?」
「ん?」
ふいに裕子の顔が近くなった。
「じゃ行ってきます」
「いってらっさい」
翌日。見送りに来た裕子に見守られて、病院へ向かった。
車に乗り込むと、昨日のみかんの味を思い出した。すっぱかった。嘘つきめ。
でもきっと、あの味を思い出せば、これから起こることはみんな乗り越えていける。
それくらいには甘かった。
みかん 弱腰ペンギン @kuwentorow
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