第32話 吸血鬼○○○の流浪9

 家に戻った。


女  「ただ今戻りました旦那様。」


 戸をくぐると屋内隅の布の山がもぞもぞと動く


ショタ「なんだ早いな。べつに街で遊んでろよ。ここ居てもなんも無いだろ」


女  「わたくしの仕事はここで旦那様に仕えることですので」


ショタ「泣かせる忠誠心だねえ…」


 起き上がっていたのにまた旦那様が寝っ転がる


ショタ「なんか用できたら起こして」


 旦那様は放置して私は家事作業を片付けながら自分の食事もしておく。貯め水の管理。食料の保存処理と貯蔵。家の状態。


女  「旦那様」


ショタ「なに?」


 旦那様が気だるげに起き上がってくる。私は既に水で戻した粘土ひと山と刻み棒を用意して待っている。


ショタ「お前もう粗方覚えたことない?、まだやんの?」


女  「まだ全然です。お願いします」


ショタ「どこからだっけ」


女  「ここです」


ショタ「あ―― 父よ、天牛を造ってください。ギルガメシュを打ち倒させてください。さもないと、冥界の死者たちを蘇らせ―――」


 向かいに座る旦那様。零れる月光かのような白銀の前髪。輝く金と濡れ赤の瞳。こんなに小さい子供なのに私を持ち上げて難なく運ぶ膂力。あなたは何者なの?それを訊いたら…あなたはどう思うだろう。失望、怒り、呆れ、それとも悲しみ?いずれにしても旦那様が明かさない以上、それは触れて欲しくないということ。ただでさえ独り立ちさせようとしてきてる今、そんな墓穴掘ったらその場で追い出されそうだ。それは困る。


ショタ「お前聞いてる?」


女  「ひゃっ?!」


 沈黙。向かい合ったまま固まる。正面からまじまじと顔を見るのはそういえば初めてか?……それにしてもなんという美形。


ショタ「僕もお前みたいな地味な目が良かったな。さすがに金ピカの両目は目立つ」


女  「えっっっ?!!」


ショタ「…………何?」


女  「無礼をお許しください。我が主がそうおっしゃるならそれが正しいです…」


 まだ睨まれている。

 突然のピンチぃ…

なんとか穏便に切り抜けなければ。こんな天国みたいな環境と私に都合の良すぎる奴隷所有主を失うわけにはいかない。


ショタ「…………今思ったことそのまま言え」


女  「ッッ……たしかに旦那様は右目は金ですが、左は赤かと…」


 ああっ。無表情で沈黙はやめて。全然表情が読めない。そう思っていると旦那様は突然立ち上がり水甕に駆け寄りのぞき込む。


ショタ「見えん」


 そうつぶやくと辺りを見回す旦那様。ふと私の方を目に留める。そのまま近づいてくる


女  「お、お許しくださいませ! 旦那様が正しゅうございます!」


ショタ「黙ってろ」


 旦那様はそう凄まれると私の頭を両手で掴んで身動きを封じる。すごい力だ。そのまま私の目をのぞき込んでくる。近い! 近すぎる!


ショタ「色まではよくわからんな…」


 そうつぶやくと放してくれた。助かった?(眼球表面を鏡に使われただけである)


ショタ「急用ができた」


 そうは言うものの日が落ちるまで外に出ようとしない旦那様である。見るからに焦れている。


女  「ご入り用なら私が行きましょうか?」


ショタ「アレ…アレなんつったっけ?自分の顔見るやつ…」


女  「鏡ですか? かなり値が張りますよ」


ショタ「それ。一番良いやつな。……これで足りるか?」


 そう言いながら手持ちのお金をかき集めている。すごい大金になってきた。


女  「では行って参ります」


ショタ「おう! 」

   

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