第13話 魔導評議城塞アトランティスの襲来 2

王宮の外も騒がしくなってきた。聞こえる声を聞くと、ラーの使いじゃ!太陽の船じゃ!審判が始まるんじゃああ!キャーワーヒーと大騒ぎである。紀元前の原始人に空飛ぶ船は刺激が強すぎるわな。俺にも強すぎるよ。

地上に降りた5人の内4人は散開し杖状の武器をこちらに構えて膝立ちになった。真ん中の5人目が近づいてくる。


サアム「さて、まず聞きたいのはあなた方に我々のコトバが通じるかどうかなのですが、どうなんでしょう?」


???「問題ありません。自動翻訳に必要なサンプリングは済ませてあります。万一のためアナログでそちらの言語もマスターしています。」


とりあえず意思疎通の齟齬で開戦ルートは無くなったらしい。相手の外見を見よう。色は全体的に白。長袖長ズボンで上下が一体になったやつ、スキニーの宇宙服とか分厚めのウェットスーツみたな感じの服。縫い目が見えないが接着ですかね?俺の前世より進んでるんじゃねえの?

頭はフルフェイスのヘルメット風兜。バイザー部はミラーシェードで顔は見えない。


サアム「では、どちら様ですかな?」


クレイ「私はアタラシア(国名)の使者。名はクレイタルです。」


クレイ「あなたがサアムウト?」


サアム「よく知ってますな。顔は売ってないつもりなのですが」


クレイ「あなたは何者なの?どこから来たの?いえ・・・から来たの?」


こいつ・・・


サアム「やだなあ。エジプト生まれのしがない書記ですよ」


クレイ「・・・・・・今のミナ王の即位は何年でしたっけ?そこの碑文にも書いてありますが」


サアム「・・・・・・統治0年」


クレイ「まさかエジプトから一歩も出たことの無い農家出身の書記あなたが一人で<ゼロ>を思いついたとは言わないですよね?」


クレイ「我々はミナ王とあなたの両方を警戒対象と考えています。異常な天才でもただの人間なあなただけなら今は釘だけ刺して見逃しましょう。強大でも無知な獣なミナ王だけなら受け入れましょう。ですがあなた方は手を組んだ。世界を破壊できるパワーを得た。あなたの入れ知恵をされたミナ王なら我が国すらとすでしょう。それは看過できません。ここで討ちます」


そんな・・・なんか、なんか手は無いのか?


ミナ 「どうなった?」


振り向くと陛下が戻ってきた。・・・・・・あっちと較べるとこっちのコーデひでえな・・・

着替えた陛下は完全戦闘態勢だ。この着替えの為にいったん引っ込んだのだ。服は俺がワニ革牛革その他を寄せ集めて縫った完全遮光スーツ。手足は手袋と靴状の足服、この二つはどうせ一戦ごとの使い捨てだ。頭は銅と金製の日除けヘルメット。そのせいでこのメットだけで30キロ以上ある(俺の体感)。ほんとは鉄で作りたかったが製鉄炉も燃料も足りなくて今は断念した。俺はバケツヘルムに作ったのになんか装飾職連中がキレてツタンカーメンマスクみたいなやつに作り直された。戦闘用だっつってんのに・・・


クレイ「ミナ王ですね?」


ミナ 「いかにも。余がミナである」


クレイ「あなたはヒトでは無いですよね?なんなのですか?ファラオだとかの詭弁は無しです」


ミナ 「・・・それは私も知りたい事だ」


クレイ「旦那ラムセスの死後、ヒトとの関わりを絶ったあなたがなぜ今になって戻ってきたのです?国まで乗っ取って・・・ついに人類の家畜化支配の乗り出すのですか?!」


ミナ 「そんな事してねえだろ。する気も無ぇよ」


クレイ「国家間では相手の能力に備えるものですよ。口どころか条文の契約すら平気で破るこの時代は特にね。あなたはその気になればいつでもやれる能力を持っている事が問題なのです」


ミナ 「余にどうしろと言うのだ」


クレイ「死んでください」

クレイタルが武器をミナに向ける


フイ 「ちょっと待ったァァァァァァァァァァッッ!!!」


兵士の一団がなだれ込んで来た。盾の下側を地面に刺して支える大盾、脇で支える長槍装備の隊列歩兵。そいつらが二手に分かれて片方はクレイタルを含む白スーツ団を包囲。もう片方はミナを中心とした円周防御。


サアム「おっお前はエジプト全8軍団を束ねる総司令フイ!お前ほどの男が肉盾の先頭に立つなどと!」


ミナ 「お前じゃ無理だ。下がれ」


ミナが現実を突きつける。しかし。


フイ 「下がりません!私は!!!もう陛下の後ろには立ちません!!!」


ミナ 「アァ??」


混乱のミナ


フイ 「15年前の〇〇(シリア。当時地名調査中)撤退戦、7年前のセナ(エジプト北海岸の都市)に上陸した侵略者迎撃戦。私もそこに居ました」


ミナ 「・・・・・・」


フイ 「昔から噂はありました。エジプトがいくさで敗走が決まったとき、夜になると何処からともなく白髪長髪の幽霊が現れ、追っ手の敵を皆殺しにすると。あの日もそれは現れた!」

フイ 「あんな噂信じて無かった。目の前で今まさに起こっているのにまだ信じられなかった。子どもみたいな小さい人影が長い白い髪を振り回しながら馬より速く走り、素手で人間を引き千切り、貫き、殴り潰し、臓物を絞って生き血を啜っていた・・・」 

フイ 「その時はたまたま化け物とカチ合っただけだ、運が良かっただけだと思った。私はそのまま忘れる事にした。だが陛下はまた現れた!」

フイ 「海一面に集まった敵船。続々と上陸してくる兵士とは名ばかりの海賊ども。始まる略奪。殺戮。陵辱。」

フイ 「相次ぐ侵攻とギャラ未払いで疲弊した軍に追い返す力は無く、次々獲られていく沿岸部。そしてその夜!陸地側に後退した我らエジプト軍に対して前線要員だけ貼り付け、海岸側で野営する敵軍本隊。突如轟く断末魔!」

フイ 「交代で休んでいた我らエジプト軍も全員飛び起きて最前線に向かった。そこで見たものは!」

フイ 「次々破壊されていく乗り上げ接岸していた敵船団。帰る船を失い途方に暮れる敵本隊。そこに襲いかかる白い影。逃げ道無しと混乱で何も出来ずに死んでいく敵兵士たち。そこで恍惚とわらう全身返り血でずぶ濡れの小さな人影。海外(地中海)北方人のような白肌も白かった長髪も赤黒の血と臓物で染まり、人型のドロドロとしか見えない化け物が残りの敵兵を襲い続ける。」

フイ 「朝には、皆殺しにされ食い散らかされたゆうべまで敵兵だった肉塊の食べ残しが悪臭と腐敗臭をまき散らすのみ。」

フイ 「その死体と破壊の瓦礫を片付けながら私は確信した!あの噂の白髪長髪の幽霊はまさしくエジプトの守護者だと!そして3年前のあの夜!」

フイ 「かつて見たあの白髪長髪の幽霊が目の前に現れファラオをやると宣言した!今まで硬くなに表舞台に出てこなかったあの人外のエジプト守護者が!手助けしかしてこなかったあの化け物がついに直接エジプトを支配するのだ!私は誓った。この王の槍となり盾となると。ヒトよりはるかに強いこの王にそんなもの要らないのかもしれないがとにかく!奴隷が要るなら真っ先に私がひれ伏す。人足が要るなら一番に私が運ぶ。なんとかこの王の力になると誓った。その王の!」

フイ 「その王の命を狙う輩がついに現れたのだ。今日連れて来た隊は全員あの時の陛下の活躍を共に見た生き残りです。ゆえに仕事でも命令でもなく我らは盾となる!陛下が死ぬのは一番最後です!無敵で不滅の陛下さえ残ればこのエジプトは永遠に続きます!その繁栄のためならば我らエジプトたみ全員が盾となりましょう!!」


明日に続く・・・


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