Clean・up
化野生姜
序
「君、死にたがっているでしょ…ここで働いていれば、きっとチャンスは巡ってくるはずよ?」
それが、僕が職場で働く理由であり…主任と僕とを結ぶ言葉でもある。
* * * * * * * * * * * * *
僕は自分の人生について振り返ることが多い。
その大半は過去に何をしでかしてしまったか、何に対して失敗し、何に対して怒られたかといった自分への絶望や焦燥感に関係する記憶がほとんどを占める。
だが、思い出したところで、後悔したところで、それを直すのは難しい。
次に繋げようと足掻いても方法が分からず、結果的に同じ轍を踏んでしまう。
何かが起こるたびにその都度パニックになり、あがけばあがくほど周囲の評価も相対的に下がっていく。
よって、そこに残るのは「ああ…どう生きたって、こうなるしかないだろう」という諦めにも似た感情だけだ。
この文を読んだ人がいるのなら、僕を責任感の無い人間と思うかもしれない。
「君は、どんなに頑張ってもダメなのだから」
「そんな『特性』じゃあ、どんな仕事も続かないだろう」
「生活も苦しいのなら、病院に行きしかるべき生き方をしたほうが良い」
そんな意見を僕は仕事先で幾度も耳にし、その言葉を真剣に受け止め、その度に自分なりに正せるべきところを正そうと勤め、挫折を繰り返した。
必死に働こうとするも、急な指摘や注意を受けると体が動かなくなる。
注意されるたびに呼吸が辛くなり、汗と動悸が止まらなくなる。
それでも動けるようになろうと医者に行き、薬を飲むが体は鉛のように重い。
常につきまとう、吐き気と苦しさと焦燥感。
そんな不安と恐怖を感じながら、眠れぬ日々の中で無理に体を動かす。
だがどうあがいても、日を追うごとに使えない人間と罵られる頻度が増える。
遂には最後には上司に呼び出され、辞表を書き、辞めさせられる。
それでも働かなければならないと己を叱咤し、職業安定所へと向かう。
体の重さを我慢しながら、経緯を隠し、次の就職先を探す。
焦りながら、次こそはと願いながら、それをただ繰り返すだけ。
…だが、そんな人生を生きていく意味があるのかと問われれば、僕はどう応えて良いかわからない。
今まで生きてきたことについて、誇れることは何もない。
自分の人生を何一つ肯定できない。
そんな疲れた僕の心を彼女は見抜いていたのだ。
どうすれば良いかもわからない僕の心情を悟っていたのだ。
だからこそ彼女は僕を拾った。
いつ死ぬかもわからぬ職場へと誘った。
「これが君の生きる道だ」と言わんばかりの笑顔を僕に向けて。
…僕を、この死地へと誘ったのである。
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