第20話 まだ終わらない
一月後に仕事復帰できて、めでたしめでたし。と、ならないのが現実というものが小説より奇なるところで・・・、この表現は前述の帰国時にも使ったが、まったくもってそのとおりなのだ。
最初に脅かされたのは、眼科医の予想どおりの症状が現れたことだ。糖尿病の合併症の一つとして、「失明」は有名だと思うが、これは高い血糖値が続くことにより目の毛細血管が傷つき、眼底出血が起こって突然視界が失われるというメカニズムだ。しかし、T病院のH眼科医によると、高血糖になった者がインスリンなどで急激に血糖値を下げた時にも、やはり眼底出血などが起こるというのだ。だから血糖値はゆっくりと下げていかなければならないと。
炭水化物を摂らなければ血糖値が下がることを知っていた私は、病院で出る主食を半分くらい捨てていた。血糖値が下がれば病院を出してもらえると思ったからだ。案の定、ちょうど一ヶ月で血糖値は見事に下がり、検査結果も問題なく、ただ高血糖になった原因だけが分からんと首を捻りながらも、医師たちは私の退院をしぶしぶ許可してくれた。
そして退院してまもなく、就寝前にベッドでプライムビデオを見ていて、視界のあちこちにブラックアウトしている箇所があることに気づいた。特に、最後のクレジットを見つめていると、明らかに文字が点滅しているかのように、見えたり見えなかったりチカチカする。面で見えない部分があるというよりは、多数の小さな盲点が存在するようだった。最初は左目のほうがひどかったと思うのだが、その症状は日ごとに変化して、しかし確実に両目に生じた。でも、両目を明けているときはあまり気づかず、たとえば、道を歩いているときに片目で空を見上げると、電線が途切れ途切れに見えたりした。一番ひどいときは、仕事で写真を撮ろうと右目でファインダーを覗いたところ、中央付近がほとんどブラックアウト、正確にはグレーで塗りつぶしたような感じになって、急遽左目で構図をとりなおしてシャッターを切ったこともあった。
入院中を含め、定期的に眼科で眼底写真を撮っていたのだが、その写真を見せてもらうと、確かに血管のあちこちに白い出血痕があり、医師はこれが増えてくるようならレーザー治療が必要だと言った。
私は私で、方眼紙に小さな黒丸を全面に配置した表をエクセルで作り、どこが見えていないのか自己診断した。なるべく真ん中の大きな★を見つめるようにしたまま、カーソルで一つひとつの●をたどり見えていないところを消していく。そうすると、左右の目それぞれでどのあたりが見えていないか分かるわけだが、これは先述の眼底写真の白い斑点の位置を反転させたものとみごとに一致した。2018年10月ごろの話である。
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