第18話 退院

 金を搾り取るために何日間か足止めされるだろうと思いきや、次の日2018年8月18日、例の悪役が「おめでとう。数値が下がった。日本に帰れるぞ」と握手を求めてきた。どこまでが真実だかさっぱり分からなかったが、この時の血糖値は300を切ったとのことで、これなら国際線に乗ってもよいということだった。

 実は、レーからデリーに来るときは、空港で一悶着あったのだ。もっとも、交渉は付き添いと航空会社の係員どうしの、たぶんヒンズー語争いだったので、私は車椅子でポカンとしていたのだが、要するに「こんな病人乗せられるかっ!」「でもここじゃ、大きな病院がないじゃないかっ」的な言い合いが、待合室の隅で繰り広げられた。たぶんその時の私の血糖値はもっとひどい値だったのだろう。

 そして意外にも、その日の午後に退院できることになった。これもよく考えれば、他に入院しなきゃいけない客ができただけのことかもしれないが。

 飛行機が手配できるまでは、一旦妻が泊まっていたホテルに向かおうということで、久しぶりに娑婆に出ることになった。というか、前半はほとんど朦朧としていたため、ここへ来て初めてインドの街へ繰り出す高揚感を覚えた。

 病院を出る前に薬局でいろいろな薬をもらった。薬局は病院の1階だったが、そこはレストランやファーストフード店はもちろん、花屋とか保険屋とかいろいろな店舗があり、まるでホテルのショピングフロアのようだった。たくさんの人で混み合っており、日本の病院と比べても、こちらのほうが華やかだ。病院の中には、裸足で鼻を垂らしているような子どももいない。そこは明らかに「富」の世界だった。

 玄関前にはたくさんの3輪タクシーがひしめいていたが、私はシルバーの4輪タクシー、つまり「普通の」に乗せられた。妻は3輪タクシーに乗りたかったと言ったが、途中で大雨になったから普通のタクシーでよかった。窓越しのインドは、「貧」の世界だったが、久しぶりに外出した私には、とても輝いて見えた。ただの街の風景だけど、窓越しに何枚も写真を撮った。

 到着したホテルは案の定立派なところで、旧式ではあるがたいへん厳かな雰囲気だった。外国人はこういうところにしか泊めないのだろうか。1階ロビーにはチョコレートショップがあって、銀座の洋菓子店なみの品揃えだ。「富」の世界である。それにしても貧富の格差がひどい。これがインドだ。今回はいろいろな経験を通して、ある意味インドを深く知ることができた。

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