第17話 至極インド
それより辛かったのは、「ほんの1日」と言われたのに、結局そこで3日間も過ごさなければならなかったことだ。携帯も本もない。誰とも面会できない。二日目からはベッドの向きを変えてもらって外が見えるようにしてもらったが、向かいの病棟の屋上にカラスが群れているのをずうっと眺めているだけ。ひっきりなしにあちこちで機器類がキンコンカンコン鳴っている。トイレに行くついでに覗いたのだが、右隣の病人は全身包帯グルグル巻きで、両目にも管が通っている。こいつが1時間おきに大声をあげた。気が狂いそうだった。
唯一の楽しみは食事だ。さすがに大病院だから食事は出るのだだが、これも目茶苦茶で、日によって時間が違う。朝食が8時前に来ることもあれば、9時になってもこないこともあり、看護師にそう告げるのだが、オーケーオーケと言うだけでいつまでたっても出てこなかったり、逆に昼食が2回来たり、夕方のミルクの時間が有ったり、無かったり。これじゃ日本の刑務所のほうがずっとマシだと思った。行ったことはないが。
さらにこの私の担当?の中学生みたいな看護師が、まったく頼りない。数時間おきに採血しに来るのだが、下手っくそで何度も何度も刺しなおす。しまいには半泣きで他の看護師を呼びに行く始末。3日目、初めて1発で採血できたときは、他の看護師に聞こえるような大きな声で「サクセスッ」って。俺は練習用かっ!
3日目、2018年8月17日にようやく「部屋があいた」ということでもとの個室に戻された。人生で最長の3日だった。インド映画の悪役が回診に来て、血糖値がもう少し下がったら日本に帰れる、という。信じられるか。彼らにとっては上客だ。しばらく出してくれそうにない。首に無理やり取り付けたのバルブも、逃げられないようにそうしているに違いない。個室では腕の点滴だけになったのに、首かせは外してもらえないのである。
ここまででとっくに当初のインド滞在予定は過ぎていた。夏期休暇の期間も終わっており、妻に国際電話で職場に事情を伝えてもらった。まあ、同僚たちもびっくりしているだろうが、まさかこんな目にあっているとは思わないだろう。
医師と保険屋が私の部屋に来てごちゃごちゃヒンズー語で相談している。保険はあとで降りるだろうが、一旦は建て替えなければならないから支払いが生じる。まさかこんなことになるとは思わなかったが、私は海外旅行の時にはかなり多めに現金を持って歩くようにしていたので、金の心配はなかった。数日前に妻に頼んでスーツケースの隠しポケットの封筒や、リュックの背あての中の現金すべてを持ってくるように頼んでおいた。延長になった分の妻の宿泊費やガイドを雇う金については、日本から妻の妹に入金してもらった。
私は、バスルームで久しぶりにシャワーを浴び、洗髪した。ここなら何日かいてもよい。ただ、テレビはヒンズー語だかタミール語だかの番組しか映らない。そして相変わらず、食事は出たり出なかったり、二人分来たり・・・。
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