第15話 デリーの大病院へ

 2018年8月14日、飛行機に乗せてもよい程度に回復した私は、デリーの大きな病院に搬送されることになった。飛行場では皆がマイクロバスで飛行機に向かうところを、私は車椅子のまま滑走路を係員に押されて飛行機の下まで行った。タラップの下まで来て、どうやって登るのだろうと思っていると、男4人が私を車椅子ごと抱え挙げてタラップを登った。離陸した飛行機からは、こちらに向かうときに見た壮大な山々の景色が見えた。

 デリーに着くと救急車が待っていた。そんなおおげさなと思ったが、自覚している以上に深刻な状態だったのかもしれない。初めて乗る救急車がインド製とは。エアコンはなく、小さな扇風機が回っていた。

 私が運び込まれた病院は超巨大な病院で、いかにも金持ちしか来ないようなところ。しかも家族が泊まるための折り畳みソファーベッドもあるホテルのような立派な個室に入れてくれた。部屋にはバスルームもついていた。気分的にもかなり元気になった私は、しばらく静養すれば帰れるはずだった。

 翌日の2018年8月15日、とにかくだいぶ元気になって、病棟のフロアをガイドとぐるっと一周して、窓の外の写真を撮ったりした。病室で軽い運動もした。あとは飛行機の切符さえ手配してもらえば日本に帰れる。と思ったのだが、それは違った。

 昼ごろ、インド映画の悪役のような雰囲気の医師が来て、「今からオマエをICUに送る」と告げた。そのほうがここで静養するより早くよくなるから、というのだ。「他の金持ちのために部屋を開ける必要が出てきたんでね。」と、顔に書いてある。しかし、言葉もろくに通じず、言われるがままこの病院に運ばれてきた私に、拒否権は無かった。やはり言われるがまま、ストレッチャーに載せられて、別棟の最上階にあるICUに運ばれた。このあたりは非常に迅速だった。

 そこは家族も立ち入り禁止だという。「聞いてねぇよ、そんなこと。」でも、拒否権はない。しかも、ICU担当のちょっと西洋人ぽい顔の色白の女医がやってきて、優しく微笑みながら英語でこういった。

「オクスリヲ イレルタメ、アナタノ クビネッコニ チョット アナヲ アケマス! ヨロシクネ。」

 この病院に到着してすぐに、既に手首に針を二本も入れられ、点滴が通っている。それでは足りないというのかっ。と思った時には、既に数人の医師と看護師に押さえつけられていて、身動きがとれなくなっていた。「ヤメローッ、助けてくれーーっ、ぎゃあーーーっ」首筋に熱い感覚が走って、私は気絶した。

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