第9話 ガリガリ君登場!
それまでは本当に気を使っていて、一時期はパンなども自分で低糖質パンを焼いていた。パン焼き機を購入して、麦のかわりに大豆粉やグルテンを取り寄せて、何度もやっているうちにかなり上手に焼けるようになっていた。だから、体調もどんどん戻っていったのだと思う。元気になった分、その「油断」がしまいには「調子に乗った」状態に向かっていく。これくらい大丈夫だろう、少し治ったんじゃないか、などと考えるようになったのが2017年に入るころだ。
2017年の夏頃から、また私の体調に変化が現れてきた。驚いたのは毛が多くて絶対に禿げない自身があった私の髪の毛が薄くなってきたことだった。前はなかったことだが、洗髪のとき、ブラッシングのとき、抜けまくる。もともと毛が太く、量も多かったからすぐにハゲはしなかったけど、ブラシや排水口にたまる抜け毛の量はすさまじかった。それでも、「歳かな」と思って、それほど気にしなかった。確か、糖尿病と抜け毛の関係もネットで調べたと思うが、特に関連性をうたうサイトはなかったから。
次に、ちょっと痩せてきた。腕や太股がほっそりしてきた。「これはまずいなあ」。もともとやせ型だから、あまり痩せるのは嬉しくない。そしてこう思った。「糖質制限しすぎたな、少し食べよう」というわけで、長年貫いていた自己流糖質制限療法が崩れ始めた。
もう一つ、ちょうど夏を迎えるころから、喉が渇くようになった。とにかく唾もでないくらい喉が渇くから、仕事中も常に水筒を手にしていた。その水筒もすぐ空になる。ウォータークーラーに水を飲みに行き、ついでに水筒に水を入れてくる。何度も何度も。そして、当たり前だが、トイレも増える。ほぼ1時間おきに、たっぷり出る。飲む、出る、飲む、出る。
2018年になると、身体はますます痩せてきて、筋肉がまるでなくなった。階段を上がるのは少し前からおっくうで、エレベーターに頼るようになっていたが、ついに登れなくなった。無理に登ると息が切れる。ハアハア言いながら階段を登る私に、周りの同僚たちも「大丈夫か」、と声をかけるほどだった。
だから一生懸命、太ろうと思って、食べた。食欲が落ちないのが幸いとばかり、食べられるだけ食べた。肉野菜いためとギョーザを食べたあとに、冷やし中華を食べたりするほどだった。ますます喉が渇く。が、さすがにジュースは自分に毒だと知っていたから、糖分のない炭酸水を飲むようにした。カラカラの喉に炭酸水はいくらでも飲めた。もともと、小さいころからコーラやサイダーなどは、一気に飲むことができず、ビールも一缶あけることができなかった私が、このときは日に何本も炭酸水の一気飲みができた。自宅の大型のごみ箱からは、ペットポトルがあふれるようになった。
2018年4月ごろだったと思う。スーパー銭湯の大きな鏡に映った自分の身体に目を疑った。ガリガリ君だ。みごとに肋骨が浮いている。もともと色白だし、手足が極細で肉がほとんどない。まるでガイコツだった。この時は「マジ、やばい・・・・。」と呟いたかもしれない。さすがにこうなると病院へ・・・・、行かなかった。
なぜなら、もう、調べなくても分かる。急激な痩せ。食べても食べても痩せていく。答えは一つ。「癌」だ。年齢的にもまあ、癌発症の適齢期と言えるだろう。糖尿病のような症状が出たのは、膵臓癌だからだ。このへんは前に読んだ本の知識なのだが、インスリンを作る細胞は膵臓のランゲルハンス島β細胞だ。つまり、癌でそのあたりが浸されれば、当然インスリンが出なくなって血糖値が上がる。そういうことだ。膵臓癌はもっともタチが悪く、致死率は100パーセントに近いという。つまり、私は死ぬ。
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