第8話 油断から転落

 もう一度話を2014年6月に戻す。糖尿病と思い当たった私は、すぐに食事改善を試み、糖質を断った。これも、私にとってはそれほど難しいことではなかった。もともと酒飲みはご飯をモリモリ食べるものではい。寿司は好きだったが、刺身が食えるならなんとかなる。職場の食堂でも、ご飯は取らずおかずだけ。たまに行く中華屋さんでは、白飯は小盛りにしてもらって、それさえもほとんど残すようにした。旅先で美味そうな海鮮丼なんかにめぐり合っても、海鮮だけ食して、丼を残した。牛丼も、天丼も、牛と天だけ食べた。

 その甲斐あってか、私は少し元気になった。最初の不調に陥った翌年、2015年の夏には、同僚と2、3泊かけて飯豊連邦に登っている。それから、2、3年間は、元気に毎週のようにアウトドアに明け暮れた。ただ、やはり以前のようにはいかない。峠道ではジジイサイクリストにも抜かれたし、ハイキングでものったりのったり歩くような感じだった。それでもまあ、普通に生活できるし。「なんとかなったかな」という感じだった。そしてこの油断が、少しずつ積み重なっていったのだ。さきほど2016年6月に自転車で大転倒したと書いたが、ある意味これも油断だったのかもしれない。そして、この事故を境に、私は再び転落していったのだった。

 正確には、転落のきっかけは大転倒だけではない。人事の話も手伝った。6月、私は会長に呼び出され、直々に意見を聞かれた。それは、長年務めた部署の配置換えの打診だ。得意のIT関係を専門的にやってくれ、勤務時間は短くなって残業はなし。しかも、今までの残業代相当は今後も保証する、という私にとってはたいへんラッキーな人事だった。当時40代で手取りは50万円以上。給料は悪くないが正直、毎日夜遅くまで半ば強制的に残業しなければならない仕事は、「歳をとったら続かないだろうな」と思っていただけに、このような人事移動の話はありがたい。いつもギリギリのところで好転する自身の運命について、この時も神様に感謝する思いだった。そして浮かれていたのだろう、さきほど書いた自転車での大転倒鎖骨骨折は、この話のあった数日後である。さらには、2年前からかなり気をつかっていた糖質制限の食生活にも油断が生じてきたのだった。

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