第5話 またしても不慮の事故

 初めに少し書きかけたが、思いついたらすぐに行動するのが私良いところでもあり、致命的な欠点でもある。逆に言えば、じっとしていられないたちで、思慮分別、いや分別はあるつもりだが、じっくり考えずに動く。だから、その分事故に合う確率も高い。先にも肋骨を何度も折ったと書いたが、だいたい2年に一度くらいの割合で大怪我をすることになっている。

 そしてついに、病院嫌いの私が間違って医者にかかってしまうような大怪我を負ってしまった。2016年の6月のことである。

 私が体調不良を発症して2年後のことだが(その後回復して再び自転車に乗っていた。そのへんの話は後で)、通勤途中、走行中の自転車のタイヤ(この時はロードバイクだったので700×23Cという細いタイヤ)が点字ブロックとアスファルトの間の隙間にはさまり、「まずいっ」と思うと同時にスピードが出ていたため見事に前転。着地失敗っ!したようなのだ。この時右目の横をハンドルに強打したため、軽い脳震盪になってしまったらしく、一瞬自分が走っていたのとは逆方向の映像が見えた気がしたが、その前後の記憶が無い。気が付いたときは、なぜか職場近くの駅に戻っていた。そこで顔が痛いのでトイレの鏡を見にいったところ、顔面が血だらけでひどいことになっている。「何があったんだ」この時は、自分がなぜここにいて、なぜ大怪我をして血を流していなければならないのかまったく分からなかった。田舎の駅だったから電車が到着しない時間はガラガラで、幸い他の客に怪しまれることもなかったと思う。「でも、何で???」

 しばらくして、さっき見た後ろ側の景色と、車輪がとられて「まずいっ」と思ったことなどを思い出し、「ひょっとすると、俺、コケた?」と推測して、このへんもよく覚えていないのだが、ハンドルの曲がったロードバイクを引きずりながら職場近くの現場とおぼしき場所へ引き返したらしい。その現場とおぼしき場所には、車に轢かれてレンズが粉々に砕けた私の黒眼鏡が落ちていたのをかすかに覚えているから。

 時間が経つにつれて他の場所も負傷していることが痛みで分かってきた。服も破れているし、あちこち血だらけだ。自転車はドロップハンドルが変形。革サドルが削れていた。

 私はどうして良いか分からず、とりあえず会社の医務室へ行ってみた。当然大騒ぎになって、そのまますぐに車で病院へ連れて行かれた。左の肩が特に痛かった。触ってみると鎖骨が半分ない。肌の上からでも明らかに折れているのが分かる。病院の待合室で吐きそうなくらい気分が悪くなったのは、顔面を強打したためか、骨折により血液に何かが混じったためか。

 結構長時間待たされて、頭部と肩のレントゲンを撮って見せてもらったら、やはり鎖骨が見事に折れていた。

 その日は痛み止めと、医大への紹介状をもらって帰ってきた。改めて自宅の洗面所の鏡に映してみると、顔中体中に内出血のような赤い模様ができていた。目の周りは特にひどい。赤黒く腫れ上がっていた。

 それでも結局、この時も医大へは行かずじまいだった。おかげで、私の左の鎖骨は変な位置で固まってしまったらしく、今でも左向きに寝たりすると朝とても痛い。肩こりが左だけ激しいのもこの骨折が原因だろう。

 実はこの大怪我の際にも、医者に対して不信を深める出来事があった。

 後日、自己診断のためにレントゲン写真がほしくて、電話で聞いたら有料だがデータをCDロムに焼いてくれるというので受け取ってきた。そして、自宅でパソコンを開いて改めてレントゲン写真を見てみると、鎖骨の写真はともかく、頭部レントゲンは、「は?」だった。ちょうど痛みがある目の縁の骨のところが眼鏡の縁で隠れているのだ。病院では頭蓋骨には異常が無いと言われたのだが、なぜ、レントゲン写真を撮る時に、医師は眼鏡を外すように言わなかったのだろう。一番痛いのはそのメガネの縁のあたりだったのに。メガネをかけたガイコツは、我ながらいかにもマヌケだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る