第10話 調査


 突如として起こった地揺れ。

 その被害は凄まじく、アルトランテ自治州内のおよそ3割に及ぶ範囲の家屋が全半壊。

 アルトランテの警備、守護を担っているアルトランテ警備隊は日夜奔走しており、原因解明と救助支援に追われていた。



「親父さん、炊き出し用の材料、まだ残ってるかな?」


「おう、こっちはまだ保つぜ。だがもうじき昼時も終わりそうだからな。

 今度は、夜に出す分を仕込んどいた方がいいだろう……」


「だね。そっちは俺も手伝うよ」


「ミーアのところはいいのか?ガウス達は?」


「ガウスさん達は特に問題ないみたい。昨日検査しに行ったけど、軽い打撲で済んだって……。

 それに、ガウスさん達の方にはリオンちゃんがついてるし……」


「そうか。それなら安心だわな」



 食事処『ナボリ』の親父さんと話しながら、イチカは夕食用の食材の仕込みを手伝っていた。

 昼間は昼間で、家が倒壊してしまった人たちの食事を作っており、それとは別に、昼食時に来るお客の腹を満たさなくてはならないため、今日は朝からフルスロットル状態で料理を作っては運び、作っては運びを繰り返していた。

 今回の事件……いや事故で、多くの人が負傷し、また何人かは亡くなったと報告されている。

 地揺れによって転倒したり、家財道具に手足を挟まれたり、頭を強く打ってしまったなどなど……。

 実際、イチカが普段お世話になっているミーアも、同じように押しつぶされそうになっていたのを、リオンが助けてくれたとクロエが教えてくれた。

 後一歩遅ければ、間違いなくミーアも死亡者リストにカウントされていただろう……。



「イチカ、この鍋に入ってる料理は、ガウスのところに持っていってくれ。

 片付けの方が忙しくて、ろくに食ってないだろうから」


「いいのか?親父さん」


「いいってことよ。あのジジイとも腐れ縁だからな……。

 変なことでくたばられても寝覚が悪りぃしよ」



 悪態を吐きながらも、その声色からはガウス達が心配なのが見て取れた。



「了解。じゃあ、遠慮なくもらっていくよ。あとはまた夜に手伝いに来るから」


「おう、よろしく頼むわー」



 片手をヒラヒラと振りながらイチカを見送るナボリの親父。

 なんでも、ガウスとは昔馴染みの畑仕事仲間だったらしい。

 それも自分の親の代で終いにして、自分は料理人としての道を進んだそうだ。

 そして、当然ガウス達が育てている小麦も、親父さんの店に納品されてくる。

 腐れ縁だと言いながらも、お互い大切に思っている間柄なのだとわかる。

 できることなら、歳をとっても二人のような間柄の関係を築けていければいいなぁと思う。

 そんな関係に憧れながら、イチカはミーア達の家へと向かう。

 途中、商店が立ち並ぶ大通りの方から、イチカを呼ぶ声に反応して、その足を止める。



「イチカさーん!」


「おっ、リオンちゃんは買い出し?」


「はい。傷薬とか包帯とか諸々を……そのお鍋は何ですか?」


「あぁ、ナボリの親父さんがガウスさん達にって、渡してくれたんだよ」


「わあ〜!ナボリのお料理ですか!?中身はなんだろう〜♪」


「『ミートボールと葉野菜のトマト煮込み』だってさ……。

 帰ったらみんなで食べろってさ……」


「そうなんですか……クーちゃんも喜ぶだろうなぁ〜」


「……うん、そうだね。それもこれも、リオンちゃんがミーアさんを助けてくれたおかげだ。

 遅くなったけど、本当ありがとね」


「い、いえいえ!私にできる事をしただけですからっ!

 それに……人を助けるために、力を使いたかっただけで……」


「ぁ……」



 父親の教訓……そして先日イチカと話した力を奮うことの責任について、リオンは己で考えた末に、聖霊の力を使ってミーアを助けたのだ。

 それならば、何もいう必要もない……。



「君が考えて上で、必要だと思って使ったのなら、それは間違いじゃなかったんだろう……」


「え?」


「いや、なんでもない。さ、早く帰ってみんなでご飯だ」


「はい!……っと、アレは……なんですかね?」


「ん?」



 リオンの視線の先には、上下紺色の制服を着た男性5人が集まって、何やら話し合っていた。

 みんな体つき、性別、身長などもバラバラの5人。

 ただ共通しているのは、同じ制服に身を包んでいるということくらい。

 


「あぁ、アレは自治州警備隊の人たちだね」


「自治州警備隊……?軍隊の人ですか?」


「いや、正規の軍人とは違って、自治州ができた時に創設された有志による警備員……って感じかな……」


「じゃあ、王国軍の人たちじゃないんですね……」


「あぁ、そのほとんどは帝国に属していた軍人らしい。

 まぁ、聖霊魔導士はいないみたいだけどな……」


「どうしてですか?」


「先の大戦で、帝国側の聖霊魔導士はそのほとんどが戦死したって聞いたし、生き残りがあるとすれば、王国に連れて行かれたか、俺みたいに軍とは無縁の関係になっているか……そのどれかだと思う」


「なるほど……もしかして、昨日の地揺れの原因が分かったんですかね?」


「それならいいんだけどなぁ……この辺りは地揺れなんて、ほとんど無かったはずなんだけど……」



 実際のところ、帝国に属していた頃からの経験からして、地震が起こったことは一度もなかった。

 この近くには活火山などもなく、起こるとすれば、王国方面に行く道なりに、大きな河川が流れているため、大雨や嵐が過ぎたあとなどに、時々氾濫したくらい……。

 なので、地震……地揺れなどが起こること自体がほぼほぼ無かった。

 では、あの地揺れの原因とは……?



「あ、君たち!」


「は、はい。なんでしょうか?!」



 こちらの視線に気づいたのか、5人組の内の一人が、こちらへと近づいてきた。

 茶色いキノコのような髪型……もとい、マッシュルームヘアーに、黒縁の眼鏡をかけている警備隊員。

 年齢はイチカよりも少し大人びて見えるから20代だろうか……その青年が近づいてきて、にこやかな表情のまま話しかける。



「君たちだろう?街の人たちに炊き出しなどの援助をしてくれているのは?」


「は、はい……そうです」


「いやぁ〜ものすごく助かってると、ほかの隊員から聞いてさ。

 その他にも救助や片付けの支援なんかもしてくれてるんだよね?

 ほんと、ありがとう!我々も君たちの頑張りに負けないように、この地揺れの原因究明に奔走させてもらうよ!」


「い、いえ、別に……大したことはほとんどしてませんので……!」



 青年の言葉に、リオンは頬を赤らめならが答える。



「いやいや、実際に助かってるのは事実さ。君たちのような有志による援助があるから、我々も動きやすい」


「それは良かったです」


「うん。これからも街のみんなのために、協力してほしい」


「はい、それはもちろん」


「ふふっ。では、我々も仕事に戻るよ。ありがとう、お嬢さん」


「あ、あのっ!」


「ん?」



 リオンは立ち去ろうとする踵を返す青年を呼び止めた。



「なんだい?」


「その……結局、地揺れが発生した原因って、警備隊の人たちは、今どのくらいの情報を掴んでいるんですか?」


「いや、まだ正確なのは掴んでないが……なぜそれを?」



 聞きたがるのか……?

 警備隊の者達からして見れば、リオンはただの一般人である。

 そんな人物に事件や事故の情報などは簡単には流さない。



「その調査、私も手伝いたいんです!」


「え?」


「リオンちゃんっ?!何を言って……!」



 リオンの予想外の発言に、イチカも思わず驚愕の表情でリオンを見つめる。



「昨日の地揺れで、ミーアさんは危うく死にかけました……それも、クーちゃんの目の前で……!」


「…………」


「そんな光景、クーちゃんが目の当たりにしたらと思うと……私、耐えられなくて……」


「っ……」



 リオン自身も、先の大戦時に唯一の家族であった父・ギルベルトを失っている。

 家族が……両親が亡くなって、自分の目の前からいなくなることの辛さは、たぶん、今ここにいる誰よりもわかる筈だ……。

 だから……。



「私も微力ながら、お手伝いします!これでも、なんでも屋の一員ですから!」


「それは……」



 警備隊の隊員は戸惑いながらも、考えた末に答えた。



「では、もし協力して欲しい事があれば、こちらから連絡させてもらう……。

 その時は正式に依頼して、ちゃんと報酬も支払おう……それでどうかな?」


「あ、はい……ええっと……」



 隊員からの提案に、リオンはイチカの方へと視線を向ける。

 どうやら、イチカの判断を確認しておきたいという事らしい。



「ええ、それで構いません。俺はイチカと言います。

 自分がまぁ、そのなんでも屋の責任者といいますか……この子の上司的な感じです」


「そうですか、それはありがたいっ……!

 おっと、まだ名乗っていませんでしたね」



 そう言って、警備隊員は改めて姿勢を正してこちらに名乗った。



「アルトランテ自治州警備隊の警備隊長をしています、アラン・ミューラーと言います。

 どうか、この地の平穏な為にも、お二人の力をお借りしたい……よろしくお願いします」



 アランは右手を出してきた。

 どうやら『よろしく』と握手したいようだが、あいにくイチカは鍋を持っていて両手が塞がっているため、代わりにリオンが握手に応じた。



「リオン・ストラトスと言います。よろしくお願いします」


「リオンさんだね……しかし、ストラトス?どこかで聞いたような……?」


「あ、えっと……父は、その、元帝国軍人だったので、その時では?」


「あ、ああ〜!そうだそうだ!ストラトス少佐と同じ……!

 君は少佐殿の御息女だったのか……!」


「はい。父をご存知で?」


「ええ。私も軍人だった頃に、少佐殿には色々とお世話になったので……その、少佐殿の事は、大変お悔やみ申し上げます」


「ありがとうございます……父の事を覚えていてくれてる人がいて、嬉しく思います」



 ギルベルトの知人に出会えた事は、ある意味幸運だったと思う。

 それも、かつて父にお世話になったと感謝してくれている人たちと出会うのは、リオン自身とても嬉しく思っていた。



「では、また連絡させてもらう。ほかの警備隊の者には、僕の名前を出してくれれば、話を通しておくように言っておくよ。それでは」



 それだけ言って、アランはその場を離れていった。

 しかし不可解に思ったのは、アラン以外の隊員たちが、こちらを訝しげな表情でずっと見つめていた事……。

 ただの一般人に協力要請をすることに対する不信感……だったのか、あるいは……。



「ごめんなさい、イチカさん。私が勝手に決めちゃって……」


「ん?いや、別に構わないよ。実は俺も、炊き出しの手伝いとかが終わったら、自分で調査しようって思ってたし……」


「っ……ありがとうございます」


「それじゃあ、改めて帰ろうか。みんなが待ってる」


「はい!」



 二人はそのままミーア宅に帰り、ナボリの親父の作った料理をみんなで堪能した。

 そして日が明けた翌日。

 さっそく警備隊長の方から連絡があり、協力要請が来た。

 


「おはようございます。アルトランテ自治州警備隊のシデン・ナーザであります!

 今回は、調査に協力していただからということで、どうぞ、よろしくお願いします」


「は、はい!リオン・ストラトスといいます。それで、こちらが……」


「イチカです。それで、自分たちは何をすれば?」



 朝はいつものように鍛練をしていたが、そこに現れたのは昨日会った警備隊長のアランと共に行動していた厳つい顔つきの巨漢の男性だった。

 ちょうど鍛練も終わり、一度着替えてからシデンと共に警備隊本部へと連れて行かれ、その中で昨日会ったアランと再び面会した。



「昨日の今日で申し訳ない。今、殆どの隊員たちが救助や支援活動に出張っているので、調査する隊員の数が少なくて……」


「……それにしては、少な過ぎませんか?ここに来る時にも、警備隊の人達に会ったのは4、5人くらいでしたし……」



 不思議に思っていたイチカが、その事に対して言及すると、アランも困ったと言った表情で答えた。



「それについては申し訳ない。我々も、できるだけ隊員を増やそうと思ってはいるのだが、なんせ、元帝国軍人の集まりなんでね……。

 敗戦国の軍人達の集団には入りたくないと思われているんだと思う」


「そんな……」


「まぁ、前ほどの反感などは無いけど、たった4年じゃ、帝国に対する反感は癒えないよ……。

 こればっかりは、我々にもどうしようも無い……」



 肩を落とすアランだったが、すぐにその落胆から立ち直り、改めてイチカとリオンに視線を戻す。



「と、まぁ……それでも君たちのような協力者が居てくれるのも事実。

 この事件を解決して、自治州に住む皆さんにも、我々の事を認めてもらえるように頑張るしかない。

 なので、二人には我々と分担して、地揺れの原因と思しき場所を調査してもらいたいんだ」


「原因と思しき場所?……もう何か掴んでいるんですね?」


「昨日はあえて言ってなかったけど、私たちだって元軍人だからね……ある程度の目星はつけているさ」



 そう言いながら、アランはこのアルトランテ自治州周辺の地図を取り出し、机の上に広げて見せた。

 そこには6ヶ所の赤丸が付けられており、そのほとんどがかつて鉱山のあった山岳地帯やちょっと道なりに外れた森林地帯。



「この山岳地帯は、かつて帝国が保有していた鉱山の跡地でね……今はもう廃坑になっていて、人なんてほとんど居ないんだけど、ここ数日、変な落盤なんかがあって、かなり怪しいと我々は睨んでいる」


「この森林地帯の方は?」


「こっちには、かつて帝国軍が使用していた軍用魔獣たちの巣窟になっている可能性があってね」


「軍用魔獣……」



 軍用魔獣とは、その名の通り軍が戦闘目的の為に飼育・調教を施した獰猛な生物の事。

 その殆どは荒野を素早く駆け抜ける猛犬タイプの魔獣であり、巨大な体躯を活かして相手を蹂躙する大型熊や偵察などには猛禽類などを使用していた。

 そして、その魔獣たちの調教をしていた聖霊魔導士がいると言うのも、風の噂程度に聞いた事がある。



「では、二手に分かれて調査する……って言う事ですね」


「ええ……ところで、リオンさんは少佐殿の御息女……なんですよね?」


「……?はい、そうですよ?」


「と言う事は、あなた自身も聖霊魔導士……と言う事でいいんですよね?」


「あ……」



 元軍人ならば、父・ギルベルトが聖霊魔導士であった事実を知っている筈。

 その実子であるリオンも、その才を受け継いでいると思うのは当然のことだ。



「はい……一応、聖霊の力は使えます……」


「やはりそうですか……!では、リオンさんは我々と、山岳地帯の方へ来ていただけますか?

 イチカさんは森林地帯の方の調査をお願いしたいのですが……」


「それは構いませんが……なぜ自分とリオンちゃんを分けるんです?

 一緒に調査したほうが、こちらとしては安心なんですが……」


「その……森林地帯の方の魔獣は数自体も我々が正確に把握しておらず、どんな魔獣がいるかも定かでは無いので、私としても、恩人の御息女をそんな危険地帯の調査をさせるのは、その……」


「自分ならば大丈夫……だと?」



 それはそれでなんか釈然としないのだが……。

 たしかに、どんな魔獣が潜んでいるのかわからないところに、リオンを連れて行くのは気が引けてしまうのは事実だが……。



「その……イチカさんは、かなり剣の腕前だと聞いたのですが……?」


「聞いたって、誰に?」


「今日、朝迎えに行かせたシデンからです。とても素晴らしい剣の才を持っていると、彼が興奮気味に話しておりましたので……」



 と言う事は、朝の鍛練を見ていた……という事なのか?

 それもただ単に簡単な打ち込みをしていた程度の鍛練だけで、自分の太刀筋を見てとれた……と。

 イチカはアランの後ろに立っていたシデンに視線を向けたが、シデンは何食わぬ顔でその場に立っているだけだった。



「理由は……まぁ、分からなくはないですが……」


「不安だと思いますが、こちらからはシデンをイチカさんの班に組み入れます。

 こう見えて、シデンは帝国式軍隊格闘術のエキスパートでもあるんですよ!」



 太鼓判を押すアランと、そう指摘されて胸を張るシデン。

 


(なるほど……格闘術の使い手ね……俺の太刀筋を見れたのはそれが理由か……)



 シデンの他にも、5人ほど……警備隊の隊員たちがイチカと共に森林地帯へと出向くという話にいつの間にかなっていたので、今から反論する気にもならず、イチカもそれを承諾した。

 その後、イチカとリオンは自分の得物である剣を取りに戻り、再び警備隊が待つ警備隊本部へと向かう。



「リオンちゃん、本当に大丈夫か?なんなら、今からでも一緒に行こうって言うけど……」


「大丈夫ですよ。私一人で調査するわけじゃないですし……」


「でも、万が一のことがあったら、俺は……お父さんに顔向けできないからさ……」


「ぁ…………」



 元部隊の隊長の娘。

 世話になった隊長から勝手に預かってるような状態だが、それでも何かあった時には、その責任を問いただす必要がある。

 今この場に、その父・ギルベルトはいないが、だからこそ、自分の責任問題になってくる。

 どうかリオンだけは、傷つくことなく、この事件調査を終えて欲しい。



「大丈夫ですよ……だってお父さんの剣と、イチカさんの剣術があるんですから!

 どんな敵が来ても、負ける気はしません!」


「リオンちゃん……」


「それに、あの隊長さんもお父さんにお世話になったって言ってましたし、なんとかしたいっていう気持ちは、私たちも一緒だと思うし……」


「…………君がそこまで言うなら、まぁ、いいけど……けれど、一つだけ約束してくれるかい?」


「約束ですか?」


「うん……」



 そう言って、イチカはリオンの両肩を掴んで、真正面からリオンの顔を覗き込む。



「イ、イチカさん……?」



 じっと見つめられるリオン。

 わずかに頬を赤く染める。



「もしもの事態に陥ったら、まず第一として、君の命を守ること」


「は、はい……!」


「これを守ると誓ってくれないと、俺も君の申し入れを認めるのは難しい……。

 この約束、ちゃんと守れるかい?」


「は、はい……ち、ちちちゃんと守ります!守りますから……そのぉ、イチカさん……」


「ん?」


「その……ち、かい……です……」


「ぁ……ご、ごめんごめん……!脅かすつもりじゃなかったんだけど……」


「あぁ、いえ!そう言う意味じゃなく……て」



 最後の方は消え入りそうなほどか細い声になっていたので、聞き取れはしなかったが、それでも一応は了解してくれた。



「じゃあ、そう言うことで……あくまでも命あっての物種だからね。

 こいつも、保険として持って行ってくれないかな……」


「これは?」



 そう言って、イチカが取り出したのは、金属製の円柱型のパーツ。

 それはリオンが持っている『破時雨』の銃弾だった。



「ここに俺の霊力を込めてある。もしもの時にはこいつを使って欲しい。

 敵に対してぶつけるでも、俺に何かを知らせるための合図としても使えると思うから」


「はい。ありがとうございます」



 リオンはそっと右手を出して、イチカから霊力入りの弾丸を受け取る。

 しかしそこで、ふと疑問に思ったことが一つ……。



「そういえば、イチカさんの聖霊は、どんな属性なんですか?」


「ん?俺の聖霊?」



 聖霊魔導士であった父と一緒に仕事をしたことがあり、お世話になった……と言うことは、もしかするとイチカも聖霊魔導士だったのでは……?

 しかし、当の本人が聖霊の力を使ったところを見たことがない……。

 故に、イチカが聖霊使いである事も、そもそも聖霊魔導士だったのかもわからない。

 単に帝国軍人だったならば、聖霊魔導士で無くとも、武器を持って前線で戦ったくらいのことはあり得る話だし……。

 そんなリオンの疑問に、イチカは微笑みながら、リオンの頭を撫でる。



「ふふっ……それは使ってからのお楽しみ……って言うことで」


「え〜!なんですかぁ〜!私の聖霊さんは知ってるのに、イチカさんのは知らないのは不公平ですよ〜!」


「言ったろ?人前ではおいそれと使っちゃダメだって。

 まぁ、一番はその弾丸を使わずに済めばいいんだけどね……でも、ヤバい状況になったら、迷わずに使うんだよ?いいね?」


「はい!大丈夫です。イチカさんの教えは、絶対に守りますから!」


「よろしい。じゃあ、お互いに頑張ろう」



 二人はそう約束して、警備隊本部に向かった。

 途中で、グランやアリエラ、サーシャなど街の住民達とばったり出くわし、今回の事件の調査をする事を話した。

 お互いに今は助け合いながら、復興支援を頑張ろうと意気込む。

 途中で、イチカとグランが何か話しているのをリオンは見かけたが、すぐにアリエラ捕まってしまい、危険なことがあるといけないからと、新しい服まで用意してもらった。

 見た目は自分が普段から身につけている改造ジャケットと代わりない様に見えるが、アリエラが作ったのはまさにオーダーメイド。

 紺色を基調としていたリオンのジャケットをベースに、白色が基調となるロングコート型の上着だった。

 リオンは普段着の紺色のジャケットと脱がされ、アリエラの力作である白のロングコートを羽織る。

 流石はオーダーメイド……リオンの体型にバッチリ合う様に作り込まれた逸品であった。

 それを着付けた後、二人は警備隊と合流して、山岳地帯方面と森林地帯方面へと向かって行ったのだった……。


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