第6話 聖霊使いの日常 Ⅰ

 リオンが宿舎に泊まったあの日から、およそ二週間ほど経っただろうか……。

 リオンは未だに、ガウス達のいる家……つまりは、あの宿舎に寝泊まりしている。

 元々は王国の首都である聖都アヴァロンを目指して旅をしていた彼女であるが、途中でガラの悪い野盗共に目をつけられ、追い剥ぎ紛いの目に遭ってしまい、その一悶着のせいで持っていたお金を紛失……自身の身につけている改造コートの服に、父親の形見である片刃剣破時雨のみを所持した状態で、ようやくアルトランテ自治州へと足を踏み入れた。

 しかし、食べ物もお金も持っていなかったために、空腹に耐えられず、イチカが普段手伝いに行っている店『ナボリ』の裏にある空き地に行き倒れてきたところをイチカに発見され、イチカの知り合いで、イチカも普段から世話になっているミーシャの実家へと向かう事に……。

 その後はいろいろとあって、寝泊まりする環境や食事などの心配もなくなってきたところで、もうそろそろ聖都に向けて出発するのかと思っていたのだが……。



「私もイチカさんと一緒に『なんでも屋』として働きます!」


「……ふぁい?」



 その第一声に、イチカは思わず素っ頓狂な返事をしてしまった。

 リオンの言った言葉自体は理解できている……しかし……何故?



「えっと、リオンちゃん……君、聖都を目指してたんじゃないの?」


「はい!そうです!」


「え?じゃあ、早く出発しないと魔導学院の入学試験に間に合わないんじゃないの?」


「あぁ、それならもう無理です」


「はい?」


「入学応募の時期が過ぎちゃってて、今から行っても入学試験自体、やってない可能性が……」


「ぁぁ…………」



 盲点だった。またしても盲点だった。

 考えてみればその通りだ。

 学校……幼児・児童・学生・生徒、その他に対する教育制度の中核的な役割を果たす機関……またはその施設のことを指す言葉。

 イチカ自身、そんな施設に入った事が無いため、学校事情に詳しいわけでは無いのだが、帝国でも似たような機関があり、そこに通う同年代の少年少女達がお揃いの制服を身に纏い、登校していたのを思い出した。

 といっても、帝国にあった学校というのはほとんどが士官学校であったので、卒業後の就職先はほぼ軍関係者。

 帝国人のほとんどは軍事施設での教養を受けており、その中で会得できたスキルやセンスでクラスを分け、救護兵や給仕兵と言った後方での支援を目的とした者たちや財政管理や資材管理を行なっていた者たちなど、直接の戦闘を行わない者たちの育成などもしていたため、帝国における士官学校の生徒は意外にも多かったように思える。

 そして、そんな者たちが学校へと入学するのは、決まって冬を越えてすぐ……つまり、春になってからだった。

 しかし、今の時期はすでに春を越えて、夏に差し掛かっている。

 つまり、もう入学試験の時期をとっくに過ぎていると言う事になる。



「じゃあ、どの道あと一年は待たないといけないのか……」


「はい。それに、入学試験を合格しても入学金などが必要ですし、教材は学院側が出してくれるとしても、それなりにお金は必要になってくるので……」


「…………」



 どの仕事の世界でも、タダでとはいかない。

 学校関係で言えば、特待生制度的なものがあれば、学費免除などはあるだろうが……。

 どの道、今のリオンにはお金がない。

 そのため、お金を稼がなきゃいけない。



「でも、なんで俺の仕事を?『なんでも屋』って名乗ってるけど、別に稼ぎがいいわけじゃないんだよ?

 やってる事はお手伝い程度だし、お給料なんて安定性はないし……」



 元々食うに困ってやり出した『なんでも屋』という仕事。

 頼まれる仕事はほとんど雑用程度の仕事だし、それに支払われる給料なんてのも、子供の小遣い程度の物だ。

 自分一人だけならば、その日暮らし程度のお金になるから、別に困ったりはしなかったが……。



「俺の仕事を手伝っても、貯金とはできないよ?」


「でも、この間のお詫びもしてないし……!せめて、それだけでも!」



 この間のお詫びというのは、自身の風の聖霊の力を使って宿舎の壁もろともイチカを吹き飛ばした時の事だろうか?



「あれは別に気にしなくても……俺が悪かったんだし」


「そういう訳にはいきません!私のせいで……あんな風になってしまったんだし……」



 リオンの視線が向かう先に件の宿舎が見えている。

 その外壁は未だに大穴が空いており、今はその修復作業に追われていた。

 窓ガラスはヒビが入っている物も含め、数十枚が割れており、外壁も使える板とそうでない板とを選別し、新たな外壁として利用・修復しなくてはならない。

 その辺は、ガウスの知人に大工業者とガラス技師がいるため、ガラスの発注と頑丈な壁板を持って来てくれるそうで、明日には完全な修理作業に入れるとのことだった。

 そこで今、イチカたちは大きく破損している壁板などを取り払い、大工業者の人たちが作業しやすいように、破損箇所を整えている最中だ。

 窓ガラスはすぐに割れてしまいそうなので、取り外しをイチカが行い、リオンはその近くで壁板の選別を行なっていた。



「とりあえず、明日専門の業者さんが来るみたいだし、俺たちのやる事は整理整頓くらいだから、慌てず安全にやって行こう」


「はい!」



 心地よい返事が返ってきたところで、二人は黙々と作業を行い、割れたりヒビが入っているガラス片などを集め、板も利用できる物は残して、あとは引っ剥がして処分。

 これを朝からやって、今はもう昼過ぎくらいになってしまった……。

 よくよく見れば、太陽が既に真上から少しずれた位置に移動している。



「ふぅ……リオンちゃん、丁度いいところで休憩しようか」


「はい、わかりました!」



 朝は多少冷え込んでいるが、太陽が登り切ると一気に気温が上がる。

 イチカもリオンも額や首筋に汗が流れていた。



「水分補給は、しっかりしないと……はい」


「あ、ありがとうございます」



 二人は母屋の方へと歩いていき、日陰になる場所に座り込んで、ミーアが用意してくれていたお茶を飲む。

 これもガウスたちが栽培している麦で作られたお茶……『麦茶』というらしい。

 それ冷暗所で冷やしていたようで、冷たく、爽やかでとても美味であった。



「ふぅー……うまい」


「美味しいですね……!昨日もご馳走になりましたけど、初めて飲みました……!」


「俺も、初めて飲んだ時はビックリしたよ……麦でお茶まで作れるんだからさ……」



 食料品に対してそんなに知識があるわけではないが、麦と言われると、常に白い粉の状態を思い出してしまうし、そこから作られるのは、パンやケーキなどといった主食やデザート類を思い出してしまう。

 これもまた、人々が生きてきた中で生み出した産物なのだと思うと、改めて感心させられる。



「さて、今後の事だけど……本当に手伝う気なのか?『なんでも屋』の仕事……」


「はい。私自身の事ですし、私も頑張らないとって思いまして」


「うーん……でもお金が貯まるかは分かんないよ?

 俺が言うのも何だけど、あんまり稼げないし……」


「いえ、まぁ……それも大事なんですけど……私が、いろんなお仕事をしてみたいって言うのも、あるんです……。

 昔はずっと家の中で本を読んだり、遊ぶにしても、小さな庭で聖霊さんと遊んでいただけなので……。

 お父さんみたいに、外で働いてみるのもちょっと楽しみというか……」


「ぁぁ……」


「そのっ、お仕事ですから!真面目にやりますし、できてなかったら、ご指導してもらえればと……!」


「あ、うん……それは……まぁね」


「なので、これからよろしくお願いします、イチカさん!」



 意外にも強引というか、頑固というか……決めた事に対しては一途だなぁと感じさせる。

 そんな所は父親似ではないらしい……おそらくは母親の方の遺伝かな?

 まぁ、それはそれで人として信用できるところがではあるし、短所というよりも長所になるはずだ。



「でもいいの?《帝国の雷仭》……だったっけ?その人を探さなくて……」


「あう……そ、それはそうですけど……」



 《帝国の雷仭》……その名は、帝国側の陣営にとっては『英雄』と称える者もいるが、王国側の陣営にとっては『忌み名』として忌避している者も多いと聞く。

 まぁ、伝説となった謂れは、四年前の終戦時よりも少し前のこと……このアルトランテ自治州よりもさらに西……かつての帝国と王国との国境線付近に広がっている『ナルバ平原』と呼ばれる場所。

 大小様々な丘陵を持ちながらも、見渡す限りの緑と空の青さが際立っていた場所。

 四年前の大戦時には、そこに積み上がった帝国軍、王国軍双方の戦死者たちが大地を埋め尽くしていたと聞く。

 そんな死地とも言えるような場所にとどまり、数十万にも及ぶ王国軍をたった一人で退けたと言うのだから、それは伝説として語り継がれもするか……。



「とんでもない話になったな……」


「え……なんですか?」


「いや、なんでもない。にしても、リオンちゃんは聖霊魔導士を目指しているいるんだろ?

 その、なんか武術というか、戦闘スキルは持っているの?」


「え?」


「いや、親父さんの剣を使うんだったら、それなりにスキルが必要だと思ってさ……」


「えっと……その、見様見真似で剣を振ってるだけで……実戦経験なんかはサッパリです……」


「……ちなみに、ここに来る前に野盗に襲われたって言ってたけど、どうやって切り抜けてきたの?」


「えっと、聖霊さんの力を使って……」


「……なるほどね」



 武術……とりわけ剣術の経験はほぼ無し。

 聖霊魔導の運用はそこそこ……静謐性を持って自由自在に扱える風の能力を使いこなせれば、ある程度の聖霊魔導士とも対等に渡り合えるはず……。



「……うーん、まぁ……いいか」


「ん?どうしたんですか?」


「リオンちゃん。その剣……親父さんの形見を使うには、それ相応のスキルが必要になる……。

 それは、リオンちゃんもわかっているよね?」


「はい……特にこの機構……銃弾に霊力を込める事で、爆発的な攻撃を出せるんですよね?」


「あぁ……昔、親父さんの戦い方を見たことがあるんだけど、中々にトリッキーな武装だと思ったよ……。

 弾を装填できても、それを撃ち出すタイミングや、中に装填した霊力の種類によっても使い所は大きく変わってくる。

 まずは、自分の霊力を込めてから、使い方をマスターしていけばいいとして……問題は接近戦闘だな」


「格闘……剣術ですか?」



 話を聞く限りでは、リオンは聖霊との感受性に優れており、風の聖霊の能力をうまく使っているように思える。

 静謐性にも優れているから、防御や牽制なども自在に熟せるだろう。

 ならば、相手にダメージを負わせる決定打を生み出すのはリオン本人の技量によるところが大きい。

 聖霊の力に頼るのは悪い事ではないが、相手も同じ聖霊使いであった場合、その能力を相殺されてしまえばそこで終わってしまう。

 ならば、やはり鍵になってくるのは、リオン自身の身体能力の強化……剣士として戦える能力を身につける事。



「その……俺でよければ、少しは力になってやれるかも……なんだけど。

 俺も一応は元軍人だし、剣の扱いも多少は心得があるし」


「あ……えっと」


「あ、ごめん。急だったかな?」


「い、いえ!その……教えて、もらえるのなら……!」



 戸惑い、不安……そう言った感情が、言葉の端々から感じ取れた。

 しかし同時に、好奇心や願望と言った人間らしい感情もまた感じる。

 彼女の心の中に、相反する思いが渦巻いていたようだが、それも望みの方が強かったらしい。



「よろしくお願いします。私は、お父さんのようになりたいんです……!

 どんなに厳しくてもっ、絶対についていきます!」


「……うん。俺に教えれる事は、あまりないかもしれないけど、その分はきっちり教えるからね」


「はい!」



 なんとも心地よい返事。

 淀みのない真っ直ぐな瞳で見つめられる。

 こんな少女が、苛烈で、熾烈で、苦難の道へと進むのかもしれないと思うと、このまま剣を取らせるべきではないと考えてしまうが、少女の望み……そして、その苦難の道を生き抜くためにも、力が必要だと言う事は、イチカ自身よく知っている。

 だからこそ、ここでは一切の妥協はしない。

 そんな風に思っていると、リオンはにこやかに微笑んでいた。



「ん……どうしたの?なんか、変な事したかな?」


「え?いや、違います!その、私……こうして、誰かに教えてもらうのって、初めてで……。

 昔はお父さんに読み書きとかを教えてもらうくらいで、何もしてこなかったから……」


「…………」


「その、戦闘のスキルを習うんですから、厳しいものだっていうのは、なんとなく分かってはいるんですけど……その……。

 なんか、ちょっとワクワクしてて……」



 自分の知らない知識や技術を習う……。

 個人差はあるにしても、その時の高揚感は誰しも持っていると思う。

 かつての自分がそうであったように、リオンもまた同じなのだろう……。

 


「そっか……。まぁ、悲観的になるよりかはいいかな。

 だけど、これから教えるのは戦闘技術……最悪の場合、相手の命を奪いかねない技術だからね。

 これを身につけるにあたって、重要な事をまず教える」


「は、はい!」


「大事な事、其の一『無益に力を使わずの事』」


「無益に力を使わずの事……」


「うん。力というは純粋な物だ……命を奪うもの、命を助けるもの、何かを生み出すもの、逆に滅ぼすもの。 

 これらの力は確かに強力で、元々普通の人間には過ぎた力だった……。

 だからこそ、その力を無闇やたらと使う物じゃない」


「前に教えてくれた、よく思わない人がいる……からですか?」


「それもある……。けれど、それだけじゃない。

 力を身につけると、人は自然とその力の大きさに飲み込まれていく。

 何でもかんでも、強大な力を見せつけたり、使ったりして、自分の欲に溺れていく」


「それは……ちょっと、怖いですね……」


「うん。力はどこまで純粋なもの。それを使う人間自身が、しっかりと強くならなきゃいけない。

 だから、聖霊の力に頼るなとは言わないけど、まずは自分自身を鍛えなきゃいけない。

 それは分かってくれるかな?」


「はい!」


「よし。そして其の二『常在戦場の心構え』」


「じょ、じょうざい……?」


「常在戦場。常に戦場にいると思って事に当たれ……という教え。

 戦闘技術というのは、平和な場面では絶対に使わないものだろう?

 戦場で、あるいは命のやりとりをしている中でのみ使われる……だから、そんな時に必要な技術だからこそ、鍛練の時でも戦場にいるという心構えで臨む事。いい?」


「はい」


「そして最後、其の三『居合の心忘るべからず』」


「いあい……ってなんですか?」



 聞き慣れない言葉だった。

 居合……それが武術……剣術に関係ある言葉とは思えないような響きである。



「居合っていうのは、剣術における術理の一つ。

 刀を鞘に納めた状態から、一気に抜刀する技でね。相手よりも先に抜いて、相手の攻撃よりも速く斬り伏せる先手技の一つなんだよ」


「えっと、つまり戦う時は、相手よりも先に動け……って事ですか?」



 リオンの答えに、イチカは首を横に振る。



「それは逆でね、相手よりも先に剣を抜くな……って言う意味なんだ」


「え?」



 居合という技は、相手よりも先手を取る技なのに、相手より先に剣を抜くなとはどう言う意味なのか……?

 話の行方がわからなかくなって来たリオンの脳内は、今や思考回路がパニック状態になってしまった。



「えっと、相手より先に動いて、抜かない……んん?

 相手より先に抜かないけど、先手を取る……え?どういう事……?」



 頭を抱えながら悶々としているリオンを見て、イチカはクスクスと笑った。

 そして、リオンの問いに回答する。



「この場合での居合というのは、相手よりも先に抜くな……それは即ち、“剣を抜かずして相手を引かせる事を第一に考えろ” って事だ」


「剣を抜かずに引かせる……」


「あぁ……。剣の立ち合いでは、必ずどちらかが傷つき、どちらかが死ぬ。

 最悪の場合、両者共に斬られてしまって、そのまま相打ちとなってしまう。

 だからこその『居合』だ。

 相手が抜いてくる前に、自分との力量差を相手に知らしめる。そうすることで、互いに剣を抜かずとも、勝負を決することが出来るっていう教えなんだ」


「で、でも、斬り合いになるのに、抜かなくていいんですか?」


「リオンちゃんは、たとえば相手が武器を持った子供であった場合、自分の剣を抜いて斬りかかることができる?」


「え?」


「その相手が野盗なら?」


「それは……その……」


「逆に、正規の聖霊魔導士で、敵対している相手なら?」


「うぅ……」



 イチカの質問に、どうやって答えていいか分からなくなって来た。

 リオンは必死に答えを出そうと思考を巡らせるが、答えは出てこない。

 そんなリオンを見て、イチカは微笑みながら謝罪した。



「ごめんね。意地悪で質問を重ねちゃったけど、まぁ、要するに……誰も死にたくて剣を抜く奴はいないだろう?

 互いに傷つく為に戦いたい奴はいない……中には、戦いそのものを楽しんでいるイカレた奴もいるんだろうけど、ほとんどの人が戦う理由というのを持ってる」



 リオンもそれは同じだ。

 父と同じ聖霊魔導士になる……それは何も、父親の仇打ちがしたいわけではない。

 父が言っていた言葉……聖霊の力は、大切な人や家族を守るための力。

 ならば、自分が戦う理由……それは父の意志を継ぎ、自分の大切なものを守りたいという心そのもの。



「だからこそ、相手を斬る事を前提にしてはならない……剣を抜かずとも、決着をつけろ。

 それが最後の大事なことの意味……。まぁ、俺もまだ修行中の身なんでね……偉そうな事を言ってて申し訳ないんだけど」


「え?修行中?」


「あぁ、この言葉は俺に剣を教えてくれていた師匠の受け売りでさ……。

 勝手にどっかへ彷徨く……まぁ、放浪癖のある人でね……俺の修行中にも、どっかに行っちゃったんだ」


「じゃあ、イチカさんは……」


「あぁ、俺もまだ半人前……にすら届いてないかもね。

 だから、教えるって言ったけど、俺も対して教えられるようなことはほとんどないかも……ほんと、偉そうなこと言っといてなんだけど……ごめんね?」


「いえっ!そんな事ないですよ!」



 勢いよく顔を何度も横に振るリオン。

 さて、どうしたものか……。

 戦闘技術の教練……やる事は色々あるが、まずは何から手をつけたらいいか……。

 イチカはかつて自身が体験した鍛練法を思い起こした。

 


・鍛練其の一……全力で走り込み。

・鍛練其の二……全力で打ち込み稽古。

・鍛練其の三……死ぬ気で実戦形式稽古。



「……うん、あまり参考にならないな」


「え?」


「いや、こっちの話だよ。それじゃあ、この作業が終わったら、少し打ち込み稽古してみようか。

 リオンちゃんがいまどのくらいの実力なのかを見てみたいし」


「はい!それじゃあ、速く終わらせてしまいましょう!」



 リオンは元気に立ち上がり、宿舎の方へと駆けて行く。

 そんなリオンの背中を見ながら、イチカはかつての自分を重ねていた。

 初めて師匠が剣を握らせてくれた時の事……そして、その後に続く、地獄の様な無茶苦茶な修行の日々を……。

 あんなメチャクチャな指導法だけはしないようにしようと、イチカは自身の心に誓ったのであった。


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