17・Twiiterでほぼ毎日投稿、当サイトでの更新は不定期

・ギャップ


重ねられた手の大きさにドキリとした。身体の大きな彼女がしなだれかかり、全身を委ねて甘えてくれている。

「重い?」

「少しね」

「ごめんね」

「いいよ、どーんと来なよ」

彼女の肩に手を置いた。自分に覆い被さらせるように彼女の身体を引く。もっともっと、誰にも見せない姿を、見せて欲しい。






・電波に乗せて


ラジオから軽快に話す彼女の声がする。「いつもありがとね」という声に頬が緩む。

物理的な意味でも社会的地位でも彼女とは遠く隔たってしまった。自分から連絡をする気になれずなんとなくラジオにメールを送っていたらいつの間にか常連リスナーに。少しややこしく一方的な文通はもう一年続いていた。






・雨と珈琲と②


自分はどこまでもつまらない人間だ。一緒にいて誰かを楽しませるなんてできない、むしろ不快にさせるばかりだろうからいつも一人でいた。

どんな理由かは知らないけど同じようにいつも一人の彼女とは何故だか行く先々で出会うから、他人よりは深く、友達とは言えない不思議な間柄になっていた。






・におい


「犬とか飼ってる?」

「柴犬。よくわかったね」

感心する彼女に「勘だよ」とてきとうにはぐらかした。衣服から漂う微かな獣臭を指摘すると場合によっては相手を不愉快にさせるかもしれない。

それに同じ匂いを纏っていた人を思い出してしまうから、振ったのは自分だがこの話題は終わりにしたかった。






・からっぽ



「色々なものを見て何かを感じなきゃ話を書くなんて無理だ。けど、心を震わせることにもう疲れた」

何も見たくなくて机に突っ伏した。長年支えてくれた担当編集の顔も目に入れたくない。

「私は書かずにいられない人間なんじゃなくて書くことにしがみつかなきゃ何も書けない、つまらない人間なんだ!」






・シエスタ


目も耳も口も閉じて深く意識の底に潜れば苦しいことは無くなる。けど明日とまた向き合わなければいけないこと、眠って目覚めて無意味な今日を繰り返すのが恐ろしい。それなら初めから眠らずにいられたらいい。

穏やかな寝顔の彼女を見ながら考えるのはそんなことばかり。窓の外はもうすっかり明るい。






・ライバル


勝って大喜び、負けて大泣き、小さい頃から彼女は変わらない。高校最後の全国大会、決勝でもそうなのだろうと思っていた。

「なんで泣いてるの」

「やっと私のことみてくれたから」

ボロボロのグローブにスパイク。自分を打ち取るために彼女が重ねた努力たち。何度も見てきたそれらを、改めて見る。






横書き表示推奨。2021.04.14から2021.04.20までにTwitterへ投稿した約140字の創作百合小説をまとめました。

最終更新日・2021.06.23

・ギャップ(好きな人が普段絶対に見せない姿を自分にだけ晒して欲しい女の話)

・電波に乗せて(幼馴染同士なラジオパーソナリティの女とリスナーの女の話)

・雨と珈琲と②(特に仲良くはないけど昔からよく一緒にいる女たちの話)

・におい(好きな人の顔や声は忘れかけてもにおいはしっかり覚えてる女の話)

・からっぽ(書くことがしんどくなった小説家の話)

・シエスタ(眠るのが怖い女の話)

・ライバル(何度も対決してきたソフトボール選手たちの話)


「pixiv」と「小説家になろう」にも投稿しています。

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