15・Twiiterでほぼ毎日投稿、当サイトでの更新は不定期
・出席番号23番
「こっちじゃ元の名字で呼んでくれる人なんかいないもん。それでいいよ……それがいいの」
結婚し遠く離れた地に住む幼馴染が今どんな顔をしてるのか、通話では知る術が無かった。笑ってはいないのだろう。笑って欲しかった。
「ハシグチ」
昔のように呼べただろうか。彼女は、笑ってくれるだろうか。
・沈む
おまじないのように「どこにも行かないよ」と繰り返す。どこにも行かない、というのはその実正しくない。「どこにも行けない」が真実だ。もはや彼女なしでは息をすることもできやしない。一人で立って歩く方法すら思い出せない。
終わる時は二人一緒。口には出さず、抱きしめたい彼女の耳元で囁いた。
・おしまいの先
冬の夜風は容赦なく吹きつける。でも張られた頬の熱さを冷ますにはちょうど良い気がした。
あんなに怒るなんて、彼女があれほどまでにこの関係へ執着しているなんて。結末に後悔はない。けど彼女は二人で過ごした時間になんらかの価値を見出してくれていたのだ。その価値がわからないことが、歯痒い。
・ぼくらは
自分よりずっと長身な彼女は抱きしめたらとても華奢で、いつも見ていた大きな背中もなんだか頼りなく感じる。身体ばかりが大きくなってその中にいる小さな子どもは外に出られずにいる。手を伸ばしたい、でも彼女自身の肉体がそれを阻んでしまう。
「ねぇ、痛いよ」
彼女はいつものように力なく笑った。
・旅路
ここじゃないどこかに行きたいと長い間ぼんやり考えていた。「どこか」に辿り着けた感覚はないまま、気付くと彼女の隣に居着いている。
「今度の休みさ、どこかに行こうよ」
了承する前に彼女はあれそれ行きたい場所を上げる。彼女に引きずられ一人では行かない場所を訪れて。そんな日々が続いていた。
・鴉と野良犬
「必要とされてるって思ってたんだ。だから私に書ける歌弾ける音、全部あの人にあげたかった」
全身真っ黒な服装のためか、楽器との対比か。彼女はいつもよりずっと小さく見えた。
「捨てられた同士私とバンドやろう」
「君と?」
「ドラムと二人は嫌か?」
数秒の間を置き、彼女は笑って首肯した。
・うろ
頼られていることに悪い気はしない。彼女のお願いならなんだってきいてあげたいし、降りかかる嫌なことからは守ってあげたいとも思う。
すやすや眠る彼女の横で膝を抱える。満たされているはずなのに何か足りない。足りないものが何なのかわからない。彼女に触れるたび、胸の奥のうろが広がっていく。
横書き表示推奨。2021.03.31から2021.04.06までにTwitterへ投稿した約140字の創作百合小説をまとめました。
最終更新日・2021.06.22
・出席番号23番(結婚して地元を出た女とその幼馴染で地元に残った女の話)
・沈む(面倒な女に依存するさらに面倒な女の話)
・おしまいの先(終わってしまった関係について考えを巡らせる女の話)
・ぼくらは(見た目と中身は必ずしも一致しない話)
・旅路(ものぐさでぼんやりした女とアウトドア派な女の話)
・鴉と野良犬(元いたバンドを追い出された者同士あベースの女とドラマーの女の話)
・うろ(たまには甘えたい女の話)
「pixiv」と「小説家になろう」にも投稿しています。
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