14・Twiiterでほぼ毎日投稿、当サイトでの更新は不定期
・比翼の鳥を夢見ていた
「どうだい媚薬を飲んだ感想は」
彼女が作る変な薬を飲まされ散々酷い目に遭ってきた。身体が「これは薬ではない」と答えている。
「私に欲情するかい?」
クリスは常に合理的で、研究にしか興味がなくて、こちらを実験動物か何かとしか見ていない。そんな彼女が遠回しに何かを訴えようとしていた。
・ほだされる
「何故あんなに懐かれてるのかよくわからないよ。悪い気はしないがね」
そうは言うが、人と関わることをそもそも嫌う彼女だ。側に置いて好きに自分を構わせている時点で、相当あの少女のことを気に入っているのだろう。
長く彼女を見ていたからわかってしまう。無表情の中に浮かぶ微かな「楽」に。
・しっぽ
手帳からこぼれた写真を彼女は無言で拾い上げた。冷たい瞳はこちらを一切見ようとはしない。
「あの」
「早くどこかに消えてくれ。私は君を嫌いになりたくないんだ」
言われた通りにするしかなかった。荷物を手にドアの方へ向かう。彼女はぐったりと椅子に深く腰掛け、写真を手に窓の外を眺めていた。
・ペルソナ
「私の真似して唱えて。『私は歌が歌える』」
「私は歌が歌える」
「『私は歌が好き』」
「『歌が好き』」
「『私は』」
「アイドル」
三十秒にも満たない会話だった。大きなステージを前に怯えていた彼女の顔つきが変わる。
「すみません。いきましょうか」
微笑む彼女は、既に「アイドル」だった。
・眩しすぎるから
「……もう疲れたんだ」
床にのびた彼女の横腹に軽く蹴りをいれる。どうあっても動く気はないようだった。
「あなたが諦めるのは勝手ですけど、そのせいであなたのお友達に泣きつかれるのはごめんです」
「君には面倒かけてばかりだね」
くぐもった声でぼそぼそ話す彼女の尻を、今度は容赦なく蹴る。
・弔い
簡素な墓に彼女は一人佇んでいた。懐から取り出した酒瓶の蓋を開け、墓石に向けて中身を注ぐ。
「ずいぶん感傷的ですね隊長」
「覗きなんて趣味が悪い」
「彼女のことは残念でした」
追い払われなかったから黙って彼女の隣にいた。彼女は泣いていなかった。墓石に滴る液体が、涙の代わりなのだろう。
・薄氷
「触んないでよ!」
拒絶の声は弱々しかった。肩に置いた手で彼女の腕をなぞり、骨張った手を握る。そっと触れたつもりだったのに、彼女は痛そうだった。
「本当に嫌?」
「嫌……」
「じゃあ私、部屋に戻ってもいい?」
ずいぶん待った気がした。やがて彼女は「ここにいて」と絞り出すように言った。
横書き表示推奨。2021.03.24から2021.03.30までにTwitterへ投稿した約140字の創作百合小説をまとめました。
最終更新日・2021.06.22
・比翼の鳥を夢見ていた(変わり者の研究者とその同業者兼助手の話)
・ほだされる(人嫌いの女とその幼馴染の話)
・しっぽ(追いかけてた女の地雷を踏みぬいちゃった女の話)
・ペルソナ(アイドルを夢見てだましだまし頑張ってる少女とその子を応援する女の話)
・眩しすぎるから(夢をかなえるための努力に没頭する女をずっと傍で見ていた女の話)
・弔い(戦乱の中で仲間を亡くした女とその部下の話)
・薄氷(素直になる方法を知らない女とその方法を教えてあげたい女の話)
「pixiv」と「小説家になろう」にも投稿しています。
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