第19話 ラッキースケベは笑わない 前編
思ったよりもすんなりと、二人は俺の提案を受け入れてくれた。
見ようによっては問題を先延ばしにしているだけと言えなくもないけれど、「二人で遊びに行くことで親密になれば、相手のことを信用できるようになるはず」という理屈は、意外と二人の腑に落ちたようだった。
ただ一つ予想外だったのは……
「遅いわよ征一君。早過ぎるのも考えものだけど、遅すぎるのもそれはそれで問題よ。何事も、適切な早さというものがあるのだから。何事も、ね」
「言ってることはもっともなんだけど、微妙に含みがある言い方をするな」
「そうですよ志茂田さん。この人と二人きりで待ち合わせ場所に立ってる私たちの気持ち、少しは考えてください。調停役としての自覚が足りないんじゃないですか?」
「そんな役になったつもりはさらさらないんだけどな……」
休日の昼下がり。
駅前で俺を待っていた二人は出会って早々不満を俺にぶつけてきた。
普段の制服姿とは違う私服に身を包んだ二人。
こんな美少女に出迎えられているさまは、傍から見ればひどく羨ましい物に見えるだろうけれど、俺の心の中はひどくブルーだった。
『親睦を深める……。なるほど、悪くないわね』
『そうですね。少しでも仲良くなれれば、互いに信用し合えるかもしれませんし。……うまくいくかはさておき』
『そ、そうか。じゃあ今度の休日にでもどこかに二人で――』
『じゃあ征一君、今度の土曜日、予定を空けておいてちょうだい』
『え?』
『え、じゃないわよ。あなたがいなかったら、私たち二人が殺し合いを始めた時、誰が止めてくれるっていうの?』
『そんな大役を俺に背負わせるな』
こんな会話もあり、俺は彼女たちに付き合って、こうして休日をつぶしているのだった。
俺としては二人でカフェとか行ってもらって「えー、すごーい。そのバナナパフェすっごくおいしそー」「でしょー、映えるよねー」みたいなふわっふわですかっすかな会話を交えつつ、勝手に親睦を深めてもらいたかったのだが……。
とはいえ、だ。
この問題、長引くと結構面倒なことになりそうだ。俺の楽しく平穏なボッチライフのためにも、早急に解決したい。
ああ、今頃は撮りためたアニメ見るつもりだったんだけどなあ……。
「征一君、いつまでぼーっとしているの」
「ん、ああ悪い。そろそろ行くか」
「違うわ、その前にやることがあるでしょう?」
「やること?」
首を傾げる俺の前で、清美は体を捻った。
アウターの裾が動きに合わせてばっとはためく。
「服を、褒めなさい」
「なんで?」
「おかしなことを聞くのね。普通休日に私服姿の女子にあったら、まず褒める。世界の常識よ?」
「俺の知ってる世界の話してくれる?」
俺は二人の服に目を向ける。
シンプルな白のTシャツの上にオーバーサイズシャツ。明るいグレーのロングスカートという(見かけは)清楚な出で立ちの清美。
まあぶっちゃけ似合っているし、大変可愛らしい。現にさっきから駅を通り過ぎる男たちがちらちらこちらを見ているくらいだ。
ただ――
「お前、どうせ褒められ慣れてるだろ。今更俺が何か言ったところで……」
「そういう問題ではないのよ」
ぴしゃりと清美が言う。
「こっちは昨晩からさんざん悩んで選んだ服なんだから、しっかり褒めてもらわなくちゃ困るわ」
「……あ」
ぴんと来た。
そうか、幼馴染で腐れ縁とはいえ、俺も一人の男だもんな。
異性に見られると思えば、普段は見せない私服選びに時間がかかってしまうのも、無理はないことかもしれないな。
俺はしみじみとした気分になりながら言う。
「そっか、そんなに悩んで決めてくれたのか」
「ええ。安里さんよりダサかったら癪だもの」
想像の斜め下で理由が不純すぎる。
俺という存在が一切そこに関与してないのも、いっそ清々しいぜ。
「桔梗屋さんの意見は置いておいて……私も気になりますよ。志茂田さんの感想」
「え?」
「私も頑張って服、選んできたんです。その……志茂田さんにはやっぱり可愛いところを見てもらいたかったから」
「お、俺に?」
「はい」
そして照れながらスカートの端を持つ。
玲愛さんの服装は、体のラインがぴったりと出るタイプのニットTシャツに、腰の高い位置で履いたミニスカート。
うん、ぶっちゃけクッソエロい最高。しかもこの服を俺のために選んでくれたなんて言うもんだから、それはもう色々と妄想がはかどっちゃうじゃないですかぐへへ。
「どうですか、志茂田さん。私の服、お気に召しましたか?」
これだよこれ! こういう反応が嬉しいんだよなあ!
あざとい? 媚びてる? 知ってるさ! そんなことは百も承知で、俺は声を大にして言わせてもらおう!
だが、それがいいっ!
俺は玲愛さんの私服姿を褒めようと口を開き。
「もちろ――」
「そんな甘言に惑わされたらだめよ、征一君。そんなの『あざとい 女 服装』で画像検索したら一番上に出てきそうな服装じゃない」
めちゃくちゃ口を挟まれた。
そして清美の挑発に、玲愛さんは容易く乗っかった。
「桔梗屋さんのだって服屋のマネキンが着てそうなセットアップじゃないですか。考えるの面倒くさいから『これ、全部下さい』って言ってそのまま着てきたんじゃないですか?」
「お、おい。二人とも落ち着けよ」
まずい、早速ヒートアップし始めた。
このままだと親睦を深めるどころか、溝を深めることになりかねない。
なんとかうまいこと言ってこの場を乗り切らなくては。
しかし……なんて言うのが正しいんだ?
二人とも、似合ってるぜ☆ なんて言っても「どっちが上か選びなさい」となるのは目に見えているし、火に油を注ぐことになりかねない。
かと言ってかといってどちらかを選べばそれはそれで角が立つ。
思い出せ、志茂田征一。
今日の俺は彼女たちに言わせれば調停役。中立な立場でいなくてはいけないのだ。
刹那の思考、頭をぎゅんぎゅんと巡らせて、俺はやがて一つの答えを出した。
これだ……これしかないっ……!
中立で中庸な、第三の選択肢。
「悪い二人とも。実は俺さ……」
それは――
「制服フェチなんだ!!」
「逃げたわね」
「逃げましたね」
めっちゃバレてるじゃん。
興ざめだとばかりに冷ややかな目線を俺に向ける二人。
火は沈下したようだが、なんだかとってもいたたまれない。
いいんだ……この程度の犠牲で平和が訪れたのならそれで……。
「でもまあ、気持ちは分からなくもないですね。うちの学校の制服、とっても可愛いですし」
「それはそうね。制服目当てで入学してきたという子もいるくらいだから」
千徳高校のセーラー服は白と青を基調にしたセパレートタイプだ。ワンポイントとして青いラインが入った襟首やリボン、チェック柄のプリーツスカートなどが、清涼感があって可愛らしいと女子の間では評判らしかった。
ちなみに男子の間ではプリーツスカートの生地が薄く、たまにスカートの向こうの太もものラインが薄っすら見えるのが最高だともっぱらの評判だ。隠れてるものがちょっとだけ見える瞬間って、たまらんよな。
「もしかして、桔梗屋さんもその内の一人だったり?」
「まさか。ただ、セーラー服に少し関心があったのは確かね」
「へえ、以外ですね。そんな女の子らしい一面があるなんて」
「失礼なことを言うのね。私だって、可愛いものに興味くらいあるわ」
「あはは、ごめんなさい」
お、ちょっと和やかな雰囲気じゃないか?
お互いに言葉から険が取れている感じがする。この調子で会話を進めて行ったら、もしかしたら仲良くなるのも夢じゃないかもしれないな。
「それで、セーラー服のどういう所が好きなんですか?」
「そうね……色々あるけれど、あえて一つを挙げるとしたら……」
しばし考えて、清美は言う。
「プリーツスカートの生地が薄くて、たまにスカートの向こうの太もものラインが薄っすら見えるところかしら」
「ごめんなさい、真面目に聞いた私がバカでした」
なんでお前が男側の意見持ってんだよ。
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