第13話 ちょっとした回想~下ネタを添えて~
小学校六年生の時だったと思う。
何の話をしていたのかは覚えていないが、とにかく俺は、その時こそが自分の想いを告げるタイミングだと、清美に告白しなければならないと、そんな使命感にも似た焦燥に駆られていた。
「だ、だからさ、清美」
あの時の景色は、今でも鮮やかに脳裏に焼き付いている。
誰もいない校舎裏。
青空の元、鮮やかに映える桜の木の下で、俺は清美に言ったんだ。
「俺と、付き合ってくれよ」
あの時の清美の顔は、今でも鮮明に瞼にこびりついている。
人形のように大きな瞳を大きくかっぴらき、形の良い桃色の唇は細やかに震えていた。
何か信じられないものでも見たような、とてつもないショックを受けたような、喜びとは正反対の表情。
そして清美は、俺の告白に応えることなく、そのまま足早に公園を後にした。
桜の木の下には俺だけが一人取り残されて、風に舞う桜の花びらがひどく物悲しい物に見えた。
それ以来、清美とはろくに会話もできず、気付けばあいつは俺とは違う中学校に通っていた。距離を置かれたのだということは、嫌でも察しがついた。
一緒に登校していた通学路を一人で歩き、他愛もない会話を交わしていた時間を一人ですごし、たまにカーテンの隙間からこぼれ出る清美の部屋の明かりをぼんやりと眺めるうちに、心の傷は少しずつかさぶたを作っていった。
そうして迎えた高校生活。登校初日。
俺と同じ高校の制服に身を包み、俺と同じタイミングで登校し、最後に見た時よりもさらに美しく、洗練された容姿で俺の前に立ったあいつは、高らかに言ったのだ。
『あら征一君、随分と大きくなったのね。下の方の征一君も、少しは成長したのかしら? それともそっちはまだまだお子様なのかしら?』
うーん! 悪夢だね!
過去にフラれた女の子が自分の好みとは真逆の下ネタ全開の女性になって戻ってくるとか、軽くトラウマになってもいいレベルの経験だと思う。
よく頑張って今日まで生きてるよな、偉いぞ、俺。自己肯定感、高めていこうな。
とはいえだ。
あの頃のままの清美が現れたらそれはそれで古傷をえぐられていた気もするし、結果オーライではあるのかもしれないな。
「なんにせよ、罪悪感を覚える筋合いはないよな」
ベッドに横たわり、天井を仰ぎ見ながら独り言ちる。
あいつの告白を断っていたのならまだしも、俺たちの場合はその逆だ。
俺が誰と付き合おうと、どこで誰とラブラブしようと文句を言われる筋合いはない。
これに関しては、完全に姉さんの見当違い、的外れな推論だったと言うことなのだろう。
いや……あるいは――
「俺が何か、忘れていることでもあるのか……?」
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