幽霊の礼状
そうだった。僕は,自殺をして,後始末を恵梨に頼んだのだった。幽霊になった悠貴は,思い出した。
そして,自分がどうして成仏せずに幽霊になったかも,何となくわかった。
「僕…思い出した。全てを思い出した!」
悠貴の幽霊が親に向かって,言った。
「え?」
私と夫は,驚いた。
「殺された?恵梨は怪しいと思っているけど…あるいは,やっぱり自殺?」
私が尋ねた。
悠貴は、首を横に振った。
「僕は,どうしても,お母さんとお父さんに言いたいことがあって,幽霊になったんだと思う…。」
「何?」
夫が訊いた。
「僕は,お母さんとお父さんの子でよかった。幸せだった。本当にありがとう。
大事に育ててくれたのに,親孝行も,何も出来ずに,死んでしまって,ごめんなさい。結婚して,孫の顔を見せたかった。出してもらった学費も返したかった。仕事で実績を残し,誇りに思って欲しかった…それなのに,何も出来ないまま,いなくなっちゃって,ごめんなさい。申し訳ない。」
悠貴は,両親の顔を見て,思った。死なずにいたら,確かにこの二人に迷惑と心配を沢山かけることになっていた。それは,間違いない。でも,それでも,両親は,自分がいなくなるより,病気でも,一緒にいてくれた方が幸せに感じたのかもしれない。闘病生活は,涙ばかりではなかったかもしれない。病気でも,楽しいことはあったのかもしれない。一緒に笑い合うことだって,あったのかもしれない。病気でも,この二人を笑顔にすることぐらい,まだ出来たのかもしれない。
しかし,もう遅い。
そこで,悠貴は,ふと恵梨のことを思い出した。彼女のことも心残りだ。
「そして…恵梨に申し訳ないことをしてしまった。恵梨に謝ってください。
ずっと,大好きだよ。」
息子の幽霊がそう言い終わると,すーっと消えた。
私と夫は,慟哭を上げ,朝まで眠れずに,夜通し起きて涙を流し続けた。
息子がどうした死んだのか,今もわからない。おそらく自殺をしたのだと思うが,その背景にどの事情があったのか,わからない。おそらく亡き息子と恵梨にしか,わからない。しかし,聞き出そうとするつもりはもうない。息子の幽霊が目の前で消えた瞬間に,どうでもよくなったのだ。
だって,息子の死の真相を知ったところで,悠貴が生き返ることはもうないから。
終
息子の幽霊と暮らす私 米元言美 @yonekoto8484
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