第45話

「美香、高井さん見なかった?」


 教室で帰り支度をしていると麻里花がキョロキョロと辺りを見回しながら私に尋ねてきた。


柚美ゆみ? いつもみたいに図書室じゃないの?」


「今、図書室に行ってきたけど今日はまだ来てないって遠山が言ってた」


「荷物は柚実の机にあるみたいだし……まだ帰ってないみたいだね。トイレとかじゃないの?」


 柚美の机に残された荷物を横目に私は答えた。


「それが……トイレに行ってから図書室に行くって高井さんが言ってたの結構前なんだ……ちょっと電話してみる」



「え?」


 麻里花がスマホを取り出し確認をしたと同時に小さく声を上げた。


「麻里花? どうしたの?」


「高井さん、今日は図書室に寄らずに帰るってメッセージが届いてた」


 トイレに行ったきり戻らず、図書室に行かないとメッセージを麻里花に送り、教室に荷物を残したまま柚実は行方不明。


 よく考えるとお昼休みの時も柚実の様子が変だった。私に何かを言い掛けたけど何でもないと途中で彼女は言葉を切った。


 ――今日の午前中に何かあった?


 私は慌ててスマホを取り出し柚実に電話を掛けた。


「っ! 繋がらない。圏外か電源が切れてるってアナウンスになっちゃう。麻里花も柚実に電話してみて」


 麻里花でも繋がらなければ居場所が特定できない。


「私もダメ! 繋がらない!」


 麻里花もダメか……携帯で連絡が取れないなら直接探すしかない。


「麻里花! 校舎内を探すよ!」


「分かった!」


 私と麻里花は教室を飛び出した。


「麻里花は校舎内をトイレから全て探して! 私は外を探してみる」


 教室前で一旦立ち止まり二手に分かれる指示を麻里花に伝えた。




 ――お昼休みの時にちゃんと話を聞くべだった。


 様子のおかしかった柚実に気付きなから、聞き返さなかったことを階段を駆け降りながら後悔した。


 私は校舎の外に出るために下履へ履き替えようと下駄箱の前まで来た。


 ――⁉︎


 自分の下駄箱を開けると白い紙のようなものが入っていた。


 麻里花の下駄箱に入っていた中傷のビラの話を聞いていた私は、今度の標的は私? と一瞬警戒してしまった。


 恐る恐る紙を取り出し内容を確認する。


 これは……柚実を体育用具倉庫前に呼び出す内容の手紙の一部だ。彼女がこれを私の下駄箱に? 半分に破れていて全て読めないが彼女が放課後、体育用具倉庫前に向かったのは間違いない。


 私は手紙をポケットにしまい校舎裏の体育用具倉庫に急いだ。



「手紙には体育用具倉庫前って書いてあったけど……」


 遠目から見た感じでは体育用具倉庫の前には誰もいない。


 ――倉庫の中に入ってる?


 私は体育用具倉庫に駆け寄り周囲を確認する。


 ――やっぱり誰もいない。


 私は意を決して体育用具倉庫のドアに手を掛けた。


「あれ? 開かない。誰もいない? それとも内側から鍵を掛けてる?」


 私は体育用具倉庫のドアに耳を当て中の様子を伺う。


 ――!


 話し声? かすかに会話しているような声が聞こえた。


 ――きっと中に柚実はいるに違いない。一緒にいるのは倉島たち?


 私はスマホを取り出し迷わず遠山に電話を掛けた。図書委員の業務の最中だが滅多に彼に電話しない私の名前でコールすれば、何事かと電話に出てくれるかもしれない。


 私は遠山の携帯に呼び出しを続けながら、別の入り口がないか体育用具倉庫の周囲を駆け回り探した。


 ――遠山、電話に出て……お願い!






 ブーッブーッブーッ


 図書委員の業務中なのでサイレントモードにして制服のズボンに入れていたスマホのバイブが先ほどから振動し続けている。


 未だに鳴り続けているということは電話の着信だろう。


 僕はポケットからスマホを取り出しカウンターの下でコッソリと画面を確認した。


 ――相沢さん?


 相沢さんが僕に電話をしてくるなんて初めてかもしれない。


 どんな用事なのかとても気になる……諦めずに鳴らし続けるということは緊急の用事なのかもしれない。


 僕はチラッと図書室を見回す。


 今、図書室には石山さん一人だけだ。クラスメイトだし、まあいいだろうと判断し僕はカウンターの中でしゃがみ込み、スマホを手で覆いコッソリ電話に出た。


「もしもし、相沢さん? 一体どうしたの?」


 僕は声を殺してヒソヒソと小さな声で応答した。

 電話の向こうで相沢さんは慌てているようで、凄い剣幕だった。


『やっと、繋がった! 遠山よく聞いて。今、私は校舎裏の体育用具倉庫の前にいるんだけど、たぶん柚実は倉島たちに手紙で呼び出されて倉庫の中にいると思うの」


「えっ⁉︎ 高井が体育用具倉庫の中に倉島と一緒にいるかもしれないって⁉︎」


 僕は思わず立ち上がり声を殺すのも忘れて声を荒げてしまう。


 その声が聞こえたらしく石山さんがこちらを振り向いた。


『そう、ドアに耳を当てて聞いてみたんだけど、人の気配がするの。それで中に入ろうとしたんだけど鍵が掛かって入れないんだ。遠山は先生を連れて鍵を持ってきて。とにかく急いで!』


「わ、分かった! すぐに行くから!」


 僕は通話を切ってカウンターから飛び出す。


「遠山くん! 和人が高井と一緒にいるってどういうことなの⁉︎」


 会話を聞いていた石山さんが僕に詰め寄ってきた。


「僕にもよく分からないんだ。体育用具倉庫に一緒にいるかもしれないって」


 こんな問答をしている暇はないのに石山さんはどうしたというんだろう。


「そんな……和人は私と付き合ってくれるって言ってたのに、あんな女と一緒にいるなんて……」


「遠山! 高井さんは来てる?」


 今度は上原さんが図書室に飛び込んできた。


「上原さん! 高井は体育用具倉庫にいるらしい。今から僕は行ってくる。そこの石山さんが何か知ってるかもしれない。あとは彼女に聞いて!」


 僕は構っている暇はないと図書室を飛び出した。


「きゃっ!」


 図書室から慌てて外に出たせいで誰かと接触し掛けたが間一髪難を逃れた。


「遠山くん⁉︎」


「宮本先生! ちょうどよかった。体育用具倉庫の鍵が必要なんです。急いで一緒に来てください!」


 タイミングの良いところで宮本先生に出会った。図書委員の業務の引き継ぎに来たのだろう。


 僕は有無を言わさず宮本先生の手を引き無理やり引っ張っていく。


「ち、ちょっと遠山くん、どういうことなのか説明しなさい」


「詳しくは僕も分からないけど高井が体育用具倉庫に閉じ込められてるらしい」


「どういうことなの……」


「とにかく急いでるんです。先生も一緒に来てください!」


 僕は宮本先生の手を引き職員室に向けて走った。


「わ、分かったから手を離しなさい。走り難いわ」


 宮本先生の手を離し二人で職員室へ走った。



 職員室に慌てて飛び込んできた僕と宮本先生を見て他の先生が何事だ? と目を丸くしていた。


「体育用具倉庫の鍵が無いわ……誰かが持っていっているんだわ」


 鍵の持ち出し管理表の紙の記入欄に倉島の名前を見つけた。


 ――やっぱりアイツか!


「先生、他に鍵はないんですか?」


 僕は焦っていた。相手はあの倉島だ。何をしでかすか分からない。


「確か予備の鍵があったはず……」


 宮本先生はキーボックスの中の鍵を探している。


 こうしている間にも時間は過ぎていく。


 ――宮本先生……早く!


「あった。これはマスターキーだから――と、遠山くん⁉︎」


 僕は宮本先生の手からマスターキーを強引に奪った。


「先生もすぐに来てください!」


 そう言葉を残し僕は職員室から飛び出した。

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