第44話
体育用具倉庫前に着くとそこには意外な人物が立っていた。
――谷口?
私を呼び出したのは倉島では無く、谷口だったのは意外だった。
「手紙で私を呼び出したのは谷口くん、あなた?」
私はボイスレコーダーで録音しているから出来るだけ誰と話しているか分かるように会話をする。
「高井さん、わざわざ呼び出したりしてゴメン。君にどうしても聞きたいことがあって」
「そう、それで聞きたいことって?」
「その前にもう一人話を聞きたいって人がいるんだ。その人も呼ぶよ」
「出てきてください」
谷口が呼ぶと、彼が立っていた後ろの体育用具倉庫の引き戸がガラッと音を立て開き、倉庫の扉から倉島が出てきた。
彼の姿を見た途端に私の心はザワつき始めた。やはりコイツが絡んでいるのかと心の中でため息を吐いた。
「倉島くん? 谷口くんと二人で待ち伏せしてどういうことなのか説明して欲しい」
「はは、待ち伏せとは人聞きが悪いね。呼び出しに応じて来てくれたのは高井さんの方だよ」
倉島は私の機嫌を損なわないように気を遣っているのだろうか言葉は丁寧だった。
私はそれが余計、不気味に感じた。
「そんなに警戒しなくていいよ。俺はそこの谷口に相談されたから乗っただけだよ」
「相談?」
「そう、谷口は遠山と写真で抱き合っている女子に好意を抱いているんだ。遠山は高井さんの家にも出入りしているようだし、その写真の女子と二股でも掛けてるんじゃないかと心配しててね。それで相談を持ち掛けられたから、俺がひと肌脱ごうと思ったわけだよ」
実に白々しいけど中村さんを尾行していた谷口が、遠山とのハグの現場に偶然遭遇して盗撮した可能性が無いとは言い切れない。
「その女子とは付き合ってはいないと私は遠山くんから直接聞いている。それに私は遠山くんとは付き合っていない。だから何の問題もない。これでいい?」
佑希と私は付き合ってはいない。だからこれは嘘ではない。それに彼が誰とどこで何をしようと私には何かをいう権利はない。
いつか佑希が私の身体に飽きてしまって、他の誰かと付き合うことになったとしても……私はそれを受け入れ――
受け入れられるの? 佑希が私の身体に飽きないよう無意識に一生懸命奉仕して繋ぎ止めようとしていた。
佑希が他の誰かと付き合っててもいい、だから私のことも繋ぎ止めていて欲しい。私はそう願っているのかもしれない。
私は佑希に依存しているのを今この場で自覚した。
「谷口、高井さんはこう言ってるけど?」
倉島が谷口に回答を求める。
「だから、谷口くんは別に私のこととか何も気にしないで、その女子に遠慮無くアプローチすればいい」
中村さんには迷惑な話だろうけど。
「……分かった。高井さんと遠山は関係なく二股とかは無いってことは理解したよ」
谷口も何か釈然としない様子だが無理に納得したようだ。彼が中村さんのことを好きなのは本当なのかもしれない。
私は中村さんに同情した。
「じゃあ、谷口はもう行っていいよ」
倉島の言葉で谷口はこの場を立ち去った。
「じゃあ、これで用件は済んだ? 私も帰ります」
もっと色々とあると思ったが拍子抜けしてしまう。
「いや、まだ帰ってもらっては困るよ。これからが本題なんだから」
倉島が帰ろうとした私に待ったを掛けた。
「本題?」
「そう、谷口の件はどっちかというとついでだ。俺は高井さんのことがもっと知りたい」
倉島は私のことが知りたいと言った。彼の性格から考えればつまり狙いは私の身体だろうか。
「私の何を知りたいの?」
「俺は高井さんのことが気になっている。できればお付き合いをしたいと思っているんだけど、やっぱり遠山との関係が気になってさ。好きな人に男の影があったら気になるのは当然だろう? だから正直に教えてくれないかな?」
倉島に好かれていると言われて背筋に寒気が走った。
「さっきも話したように私と遠山くんは付き合っているとかそういう関係じゃない。あの時はみんなでカラオケに行った後、彼に本を貸す約束をして家に取りに来ただけ」
「そんなわけ無いだろ⁉︎ あんな時間に家に男を招き入れて。俺はお前たち二人が家の前でやりとりしていたのを見ていたが、友達の雰囲気じゃなかった。アレは男と女の雰囲気だ」
あの時私たち二人は無警戒で無防備だった。これからセックスするとお互いに意識し、
コイツはそういうことには敏感なんだ。
「あなたがわざわざ尾行して私たちのことを盗撮したのね。本当にあなたは気持ちの悪い男ね」
あまりの嫌悪感から思わず本音が漏れ口に出してしまった。
「……んだとぉ! 最近、イメチェンして美人になったからって調子に乗りやがって!」
激怒した倉島は私の手首を掴み、彼の背後で開いていた体育用具倉庫に私は無理やり引きずり込まれた。
体育用具倉庫に引っ張り込んだ私を倉島は突き飛ばした。
「きゃっ!」
私は突き飛ばされ体育で使う、すえた匂いのするマットの上に尻餅をついた。
倉島は私が立ち上がろうとしている間に体育用具倉庫の扉に鍵を掛けてしまった。
「さて、これで邪魔は入らないし、ゆっくり話そうじゃないか」
ああ……もうこの男は何も考えてはいない。こんなことをして女性が
ここまでするなんて何が彼を駆り立てているのだろう。
「どうせ、お前も遠山に股開いてんだろ? だったらあんな冴えない男より俺の方がセックスも上手いし満足させてあげられるぞ。遠山と恋人同士じゃないっていうならセックスする相手が増えても良いじゃないか? どうせならお互い楽しもうぜ」
この男にとって女性は道具、性欲を解消する為だけに利用するというのがよく分かった。
「上原さんの時といい本当にあなたはクズね。あなたが見下している遠山くんの方が優しくて、思いやりもあって、包容力もあって男性として……いえ人間としてはるかに魅力的だわ」
「言わせておけば――このクソ
私は激昂した倉島に平手で頬を殴られ再びマットに尻餅をついた。
「もう、面倒だ。俺のいうことを聞かないなら……聞かせるまでだ」
倉島は押し倒した私に馬乗りなった
イヤ……佑希以外の男になんか触られたくない……やめて……。
「谷口、まだ倉庫の前にいるんだろ? 渡した鍵で中に入ってこい」
倉島は私に馬乗りになりながら谷口にスマホで指示を出していた。
「倉島くん……これはどういう……」
倉庫に入ってきた谷口がこの状況を見て混乱している。
「谷口! 倉庫の鍵閉めろ!」
「えっ⁉︎ わ、分かった」
谷口は倉島の強い口調に圧倒され素直に鍵を掛けてしまった。
「く、倉島くん……こんなことをするなんて聞いてないよ……」
谷口は酷く動揺していた。
「もうこなった以上お前も共犯だ。このままこの女を解放しても俺たちは退学に補導だ。だったら、裸にひん剥いて写真を撮って黙らせるしかないだろう」
谷口もあまりの事態に
「お前も共犯なんだからもう諦めて覚悟を決めろ。いいな?」
「そ、そんな……なんでこんなことに……」
「いいからお前はコイツを押さえてろ」
谷口は観念して私の身体を押さえ始めた。
「よし、このまま裸にして写真を撮るぞ。バラ撒かれたくなければ黙ってることだな」
「う、うそ……やめて!」
倉島の目は血走り、もう彼に言葉は通じない。
「ヒャハハ、もうお前と俺は一蓮托生だ。黙って俺のいう事を聞いていれば悪くはしねえよ」
私の制服を脱がそうと倉島が手を伸ばしてくる。
「や、やめっ! た、谷口くん彼を止めさせて!」
私は必死に抵抗するが男性の腕力に敵うはずもない。
頼みの谷口も保身で必死なのだろう、何も期待できなかった。
倉島の手が私の制服を脱がそうと乱暴に掴んできた。
「い、いやあっ! お願い……やめて……」
「この――大人しくしろ! 制服が破れたら面倒だろうが!」
容赦なく制服を脱がしにかかる倉島に私は徐々に、抗う力を失っていった。
『中に誰かいるの? 返事して!』
不意に倉庫のドアを叩き、中を確認しているような声が聞こえた。
「たす――」
私は大声を出そうとしたが倉島の手で口を塞がれてしまう。
「谷口、誰か倉庫の外にいるらしい……静かにしてろ」
倉島はドアが叩かれたことで警戒して身を潜めるように谷口に指示した。
「お前も立ち去るまで大人しくしてろよ」
私は口を手で塞がれたまま、うーうーと
「立ち去ったか……?」
ドアを叩いていた音が止まり、立ち去ったかと倉島が気を抜いたと同時に口を押さえていた手の力も緩んだ。
――ッ!
私はそのタイミングで口を塞いでいる倉島の手に思い切り噛み付いた。
「いでっ! 噛み付きやがった! この……大人しくしろ!」
私は倉島に再び頬へ平手を打ちされた。
外に誰かがいる……だから私は諦めずに助けを呼んだ――
……けて……すけて――
「たすけて……佑希ぃぃ!!!」
私は大好きな彼の名前を精一杯、力の限り叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます