第43話
★高井柚実視点①です
朝、登校して下駄箱を開けると白い封筒のようなものが入っていた。
先日あった上原さんに対する嫌がらせのことを思い出す。
――今度は私の番?
私は危機感もなくそんなことを悠長に考えた。
今、ここで封を開けて見るわけにもいかず白い封筒を下駄箱から取り出しカバンにしまった。
ホームルームまで時間に余裕があったので封筒の中身を確認する為にトイレへ向かった。
トイレの個室で私は例の封筒をカバンから取り出し中身を確認した。
中には白い便箋一枚と写真が二枚入っていた。
――!
二枚ある写真のうちの一枚は私と佑希が駅で一緒に写っている写真だった。どうやらみんなでカラオケに行った帰りの様子を盗撮されていたらしい。
そして驚いたのは二枚目の写真だった。
その写真に映し出されていたのは佑希と女子が抱き合っている写真だった。
女子の方は後ろ姿だったので写真からは誰なのか分からないが、先日の話を聞く限りでは中村さんで間違いないだろう。
そして佑希は正面を向いて映っている為に顔は丸分かりだった。
――相沢さんが怒るのも無理もないか。
私はこの写真を見てそんな感想を抱いた。
でも、私も盗撮されていたし人の事をいえないなと思った。私と佑希はやっぱり似た者同士ってことなんだ。
そして折り畳まれた便箋を開き書いてある内容に目を通す。
『この写真のことでお話があります。今日の放課後、校舎裏の体育用具倉庫の前で待ってます。
P・S
もう一枚、遠山さんと一緒に高井さんの家に入っていく二人の姿を撮影した写真もあります』
そう書かれていた手紙には差出人の名前はなかった。
家まで尾行されて気付かなかったなんて迂闊だった。私の警戒心が低かったことを後悔した。
佑希が家に入っただけなら何とでも言い訳はできるかもしれない。しかし、それによって私と佑希の関係に疑問を持ち始める人もいるかもしれない。
学校に不純異性交遊を疑われると色々と聞かれるだろう。佑希に迷惑が掛かるし、上原さんが悲しむ。それだけは避けたい。
――放課後、行くしかないみたい。
佑希が私の家に入って行く写真の存在が無ければ無視するつもりだった。
どうする? 先生に相談する? いや……学校は囮捜査みたいなことには協力してはくれないだろうし、最初から先生と一緒に行ったところで相手に適当に誤魔化されるだけだ。
佑希が中村さんと抱き合ってる写真、それに私の家に佑希と私が一緒に入って行く写真の存在で不純異性交友を疑われるのは私たちだ。
学校に報告されるのを防ぐ為に上手く考えた相手にしてやられてしまったようだ。
「もう教室行かないとホームルームが始まってしまう」
結局、どうするか結論が出ないまま授業が始まってしまった。
〜 昼休み 〜
私はいつものように昼食を済ませた後、本を読んでいた。だけど、放課後のことが気になり読書に集中できないでいた。
「
昼休みに珍しく相沢さんが私に声を掛けてきた。昼休みは読書の邪魔をしないようにとみんなが気を遣ってくれているので滅多に声を掛けてくることは無かった。
「相沢さんどうしたの?」
「さっき、遠山に聞いたんだけど中村さんとのハグ、盗撮されてたらしい。でも、中村さんがわざわざ遠山のところに謝りに来たらしいよ。それで彼女からハグをお願いしたって証言の動画を撮らせてもらったみたい」
その写真は下駄箱に入っていたから知っている。中村さんは本当に佑希のことが好きだったみたい。罠とかじゃ無くてよかったけど彼が私以外の女子を抱いてる写真を思い出すと少しモヤモヤする。
私と佑希は身体だけの関係……だから彼を縛るようなことを考えてはダメ。
自分への
「そう……それなら
これで、こっちの写真の件は佑希を
お互い合意の上でハグしたくらいならクラスで少し話題になるくらいで済むと思う。学校に知られても二人は先生に注意されるだけだろう。
「でも、本当に遠山は危機感がなってないわ。今回は中村さんが証言してくれたからよかったけど」
まったくアイツときたら……と相沢さんは怒っているけど佑希のことを心配しているのがよく分かる。
「相沢さんも遠山くんのことが心配なのね」
「そ、そういうんじゃなくて何というか……その、放って置けないっていうの? 出来の悪い弟みたいなもんよ」
照れ臭そうに語る相沢さんは私たちの中で一番小柄なのに、頼れるお姉さんみたいだった。
「ねえ、相沢さん……今朝――」
私は放課後呼び出されていることを打ち明けようとしたが思いとどまり言葉を途中で止めた。
「うん、今朝? どうしたの?」
――やっぱりダメ、佑希が私の家に来てることがバレてしまう。それに今話すと倉庫に行くのを止められてしまう。
それに今回の一連の件に終止符を打てるかもしれない。そう考えた私は適当に誤魔化した。
「ううん、何でもない。大したことじゃない」
「そう、ならいいけど。柚実……何かあったら相談してよ」
「分かった」
相沢さんはそう言ったが私は一人で行く決心を固めた。もう、この件に関しては佑希と上原さん二人の為にも終わりにしたい。
――相沢さん、ごめんなさい
〜 放課後 〜
「高井さん、今から図書室に行くの?」
体育用具倉庫に向かおうと席を立ったところで上原さんが声を掛けてきた。
「トイレに行ってから図書室に行くつもり」
今日は佑希が放課後の図書委員の業務で図書室に既に行っている。上原さんは佑希が図書委員の時は必ずといっていいほど図書室に来ていた。それほど彼のことが好きなのだろう。
「私もちょっと用事があるから後から私も行くね」
そう言って上原さんは教室を出て行った。
私もそのまま荷物を持たずに教室を出て体育用具倉庫に向かう。
途中、下履きに履き替える為に下駄箱に寄った。
私は迷った。このまま本当に二人に黙っていてもいいのだろうか、と。
私は数秒間ほど考え、今朝下駄箱に入っていた便箋のP・Sと書かれた所から半分に破り上半分を相沢さんの下駄箱に放り込んだ。
そして、スマホを取り出し上原さんにメッセージを送る。
『今日は図書室に行けません。ごめんなさい』
私はローファーに履き替え校舎裏の体育用具倉庫へと向かった。
途中、体育用具倉庫から見えない少し手前で私は立ち止まり、スカートのポケットからスマホを取り出した。スマホのバッテリーが十分残っていることを確認しボイスレコーダーのアプリを起動する。
――さあ行こう
私は体育用具倉庫へ向かい足を一歩踏み出した。
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