第33話

 相沢美香視点③です。



 遠山たちとカラオケに行ってからというもの、放課後に柚実ゆみが私たちと一緒に行動することが増えてきた。

 私は親しくなったことで高井さんのことを柚実と呼ぶようになった。


 今日は柚実のリクエストで私と麻里花と三人で反省堂に本を買いに来た。


「柚実は難しい本読んでるねぇ」


 柚実が手に持っている本は私が一生立ち入りそうも無いコーナーに並んでいる本だ。案内のポップには“純文学“と表示されている。


「そう? 難しくはないと思う。ただ分かり難いだけ」


 難しいと分かり難いとの違いとは? もう既に私には理解できていなかった。


 柚実の説明によると純文学とは芸術性を重視していて文章の美しさや流麗さを追求した作品だそうだ。有名どころでは太宰治の人間失格や、宮沢賢治の銀河鉄道の夜などだそうだ。

 どちらも聞いたことがあるけど銀河鉄道の夜はタイトル的になんか読めそうな気がするけど、人間失格はタイトルからして無理そう。なに人間失格って? イミフ。


 アレかな? 絵画の文字版みたいな感じかな。一般人が見ると上手いんだか下手なんだか分からない絵みたいな。


「私には無理だなぁ。そもそも文字を読むのが苦手」


「美香はマンガしか読まないもんね。漢字書けなくなるから本読んだ方がいいよ」


「麻里花だってちょっと前までマンガしか読まなかったクセに。遠山とお近付きになりたくて、不純な動機で本を読み始めたアンタに言われたくないわ」


「ち、ちょっと美香! な、何言ってんのよ。そ、そんなんじゃないから!」


 私は柚実の目の前でわざと麻里花が遠山に好意を持っているかのように匂わせて反応を伺ってみた。


「え? そうじゃなかったの? 私の勘違いだったらゴメンね〜」


「美香……アンタわざとでしょう?」


「さあねぇ」


 麻里花は分かり易い反応をするけど柚実は無表情でイマイチ感情が読めない。麻里花が遠山に好意を抱いているような発言をすれば、何かしら反応すると思っていたが無表情のままだ。


 まあ、麻里花が遠山に好意を抱いているのはバレバレだから今更驚くことでもないけど。


「でも真面目な話、美香も本読んだ方がいいよ。漢字読めるようになるし好きなジャンルが見つかれば空いた時間で読書するのも中々楽しいよ」


「漢字を読めるようになるっていうのが小学生みたいな感想ね。でも麻里花は栄養が全てオッパイに行っちゃって、脳に栄養が行き渡らなくてお馬鹿さんになっちゃたからねぇ」


 そう言って私は麻里花の豊満な胸を後ろから手を回し鷲掴みにした。


「ひゃあっ!」


 ――な、なんていうボリューム……私の小さな手だと収まり切らない?


「麻里花……アンタまた胸が大きくなった? もう私の手に収まらなくなっちゃったよ」


「上原さんおっぱいが大きくて羨ましい」


 柚実が自分の胸に手を当て羨ましがっている。彼女も私もどちらかというと小さい方だ。わずかに膨らみがあるくらいだった。

 いや……柚実の方が少し大きい? 私は少し焦りを感じた。


「ちょっと麻里花の無駄に大きいオッパイを少しは私たちに分けてよ」


 男の子ってオッパイが大きい方が好きなんだよね。これは柚実は不利?


「もう、二人してこんなとこで何言ってるのよ。恥ずかしいから止めてよね」


 周りの様子を伺うとオッパイとか言いながら女子高生が三人で騒いでいたせいで目立ってしまったようだ。

 若い男子とかこっちをメチャ見てる。私たちのお陰でいいもの見れたでしょう? 感謝してね。


 麻里花が周囲の客に見られて恥ずかしいと言うので、柚実の会計を済ませ私たちは売り場を離れた。



 私たちはカフェに移動しお喋りに花を咲かせていた。


「ねえ、柚実はかなり目が悪いの?」


 私は太いフレームの大きなメガネが気になり尋ねてみた。


「別に目は悪くない。これは伊達メガネ」


「え? それ伊達メガネなんだ……」


 柚実はメガネを外し私に見せてくれた。


 伊達メガネを外した柚実は予想通り綺麗な顔をしていた。ハッキリ言って美人だ。


「あ、ホントだ。高井さんどうして伊達メガネなんか掛けてるの?」


 麻里花が疑問を投げ掛けた。

 ファッションとしてならまだ分かるが、この伊達メガネはお世辞にもオシャレとは言えなかった。


「私は……その……素顔に自信が無くて……」


 この子は何を言っているんだろう? それで自信が無いなんて言ったらほとんどの女子に喧嘩を売っているようなものだ。

 なぜ柚実はこれほど自己評価が低いんだろう。


「ええっ! 高井さん超美人なのにそんな風に自分のことを思ってたの?」


 麻里花も驚いているようだ。


「美人だなんて……そんなことないと思うけど……」


 やっぱり柚実は自分に自信が無いようで私たちの言うことも半信半疑のようだ。


「柚実はこんなに素顔が素敵なのに隠しちゃったら勿体ないと思うなぁ」


 余計なお世話かもしれないけど、顔を隠していることで柚実は凄く損をしているのでは無いかと思った。


「そうそう、どうせだから伊達メガネを外して髪型も変えてみたら凄く可愛くなると思うよ。高井さんに似合いそうな髪型の画像探してみるね」


 麻里花がスマホを操作しヘアスタイルのカタログを検索して私たちに見せてきた。


「これなんてどうかな?」


 麻里花が見せてきたのはショートボブの写真だった。


「髪の毛が真っ黒なままだと重い感じになっちゃうから、少し明るく染めるといいかも」


 柚実は今、セミロングなので長さ的にショートボブは良いかもしれない。


 麻里花は以前からその人に似合うコーディネイトを選択するのが上手い。そういうセンスがあるのだろう。


「どう? こういう髪型。私は柚実に似合うと思うよ」


 私はスマホを見ながら率直な感想を述べた。


「私に似合うかな?」


 柚実は気に入ったようで少し表情が柔らかくなったような気がする。


「麻里花が選んだんだから絶対に似合うと思うよ。この子は人様のコーディネイトするの得意だから」


「この前は遠山の洋服を選んであげたんだよ。凄い似合ってて格好良いから二人に見せてあげたいな」


 そういえば遠山の洋服選びも麻里花がしたと言っていた。格好良いと言っているが麻里花のラブ補正が入っての評価だろう。


「柚実も髪型変えてメガネ外して垢抜けたら遠山に自信を持ってアピールできるかもよ?」


 最近なんとなく遠山のことを柚実が気にしているような気がしている。


「ええっ⁉︎ 高井さん遠山のことが気になるの?」


 麻里花は“も“とか言っちゃって隠す気が全く無いようだ。


「私は、その……佑、じゃなくて遠山くんのことは別に……」


 柚実は一応否定しているようだが遠山の名前を間違えたり歯切れが悪い。


 ……うーん、これだけじゃ判断できないな。


 ま、また機会があるだろうし、ゆっくり聞き出していきますか。

 これからも麻里花と柚実の二人からは目が離せない。

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