第32話

相沢美香視点②です



 遠山、倉島、谷口の三人は処分が決まるまで、自宅待機になったという話を事件の翌日に登校すると聞かされた。


 ようやく麻里花と直接顔を合わせて話をすることができ、詳しく聞いてみると大体のことが分かった。


 麻里花の目の前で彼女の中傷を繰り返した倉島と谷口に遠山がキレたということだ。暴力行為に及んだ遠山に非があるが、倉島と谷口も麻里花を侮辱したということもあり、事実確認も必要ということで三人して処分待ちの自宅待機になったということだ。


 グループチャットに書かれていることが嘘か本当か先生に聞かれた時、麻里花は自分が処女であることが証明できれば遠山と援交しているということを否定できたのに、と彼女は残念そうに語っていた。


 それを聞いた私はいかに麻里花が遠山を大事に思っているかが分かった。


 ――ま、自分の為に停学や退学になってしまうかもしれないのをかえりみず怒ってくれたんだもんね。そりゃ惚れちゃうよ。

 でも、その感情は吊り橋効果みたいな状況から芽生えた恋心だから、冷めるのも早いかもしれない。それは今後見守ってあげようと思う。


 事件を境に私たちのカーストにも影響が現れた。中心人物の倉島が自宅待機になり何かしらの処分を受けるかもしれないからだ。前々から倉島に不満を持っている生徒も何人かいた。

 その生徒にしてみれば同じ穴のむじなに見られるのは嫌だろう。だからグループから離脱し別のグループに入ったりしている生徒もいた。


 私も例に漏れず今までのグループに未練もなく、麻里花と遠山と仲良くしていた沖田と行動するようになった。


 沖田は見た目がどう見ても女子だ。私より可愛いのでは? と少し自信を無くしてしまいそうだった。とても男子とは思えない女子力の持ち主だった。

 話してみると沖田は中立的な立場を常に貫いており誰とでも仲が良い。だからと言って八方美人なわけでもない。麻里花が懐いているように信用できる男子だった。



 遠山たち三人の処分は謹慎一週間と決まったようだ。詳しくは分からないが軽い処分で大学受験や就職など不利になることはないようだ。

 それを聞いた麻里花はホッとしていた。私も軽い処分で済んで良かったと思った。正直なところ個人的には倉島と谷口には停学でもしてもらいたいところだが。いや……退学でもいいかな? 彼らはそれだけのことをしていると思う。



 それからというもの麻里花は毎日、遠山の話ばかりをするようになった。


 私を為に怒ってくれた、カッコ良かった、早く戻って来ないかなと、目をハートにして嬉々として話してくる麻里花だが、毎日同じことを聞かされている私の身にもなって欲しい。


 ま、でも私もキレた遠山の“ぶっ殺すぞ“というセリフは現場で聞いた時には驚いたが、いま、思い出してみると確かにカッコ良いかもしれないと思った。

 私の為に我が身を顧みず守ってくれた。

 お姫様を守る白馬の王子様みたいな感じ? まあ遠山は白馬の王子様とはほど遠いけど。



◇ ◇ ◇



 遠山の謹慎が明けた日の始業時間前、彼は教室のドアから静かに入ってきた。その面持ちは少し緊張しているようだった。


 その後、すぐに麻里花が入ってきた。途中で合流し一緒に登校して来たのだろう。


 しかし、私は倉島たちも謹慎が明けたことを忘れていた。麻里花が倉島とニアミスした時は肝を冷やしたが何事もなくホッと胸を撫で下ろした。


 クラスでは遠山を腫れ物を扱うような感じで遠巻きに見ている生徒も多かったが、今回の件で見直したりする人たちもいたようだ。そんな面々が遠山に声を掛けている。今まで見なかった光景だ。


 グループチャットの書き込みも嘘という話が広がっているので、何はともあれ遠山が悪者扱いにされずに良かったと思う。

 これで彼が悪者扱いされると、また麻里花に何かしらの被害が及ぶ可能性があり私はそれを心配していた。遠山には申し訳ないけど麻里花のことが一番大事だ。




 昼休みになり私は麻里花と沖田と集まって昼食を食べている。遠山はこのメンバーに私が加わったことに驚いているようだ。

 麻里花がカーストに囚われていた呪縛から解き放たれたように、私もまた解放された。そこは遠山に感謝している。



「遠山、これからもアンタが麻里花を守ってあげてね」


 私は遠山に麻里花を守ってくれたことに礼を述べ、これからも彼女をお願いしますと伝えた。


 彼は無言で肯定したが、麻里花の彼氏としてもよろしくね、という意味を込めていたのには気付いていないだろう。

 まあ、まだ恋人同士ってわけでもないし、まだ麻里花の片思いっぽいしね。


 遠山と話してみて分かったが、彼は麻里花には恋心のようなものは持っていないように感じた。麻里花は女の私から見ても魅力的だ。彼女に興味が無い男子などいるのだろうか?

 遠山はどこか謎めいた男子生徒だった。私は麻里花にもなびかない彼に興味が出てきた。


 これから遠山と麻里花の二人から目が離せなくなってきた。二人の恋の行方がどうなるか楽しみだ。



◇ ◇ ◇



 お昼休みいつものように麻里花、遠山、沖田の四人で机を囲み昼食を食べている時のことだった。


「遠山、今日の放課後空いてる? みんなでカラオケに行かない?」


 麻里花が遠山をカラオケに誘ってきた。


 私もカラオケに行きたかったので二つ返事でオーケーする。


 麻里花はこの前、遠山をデートに誘って映画を観てきたそうだ。その時の話を聞いてはいるが、地味な彼の服装をコーディネイトしてあげて髪の毛も切るようにアドバイスしたみたい。


 確かにサッパリして今までのようないんなイメージは抜けてきたかもしれない。だからといってイケメンになった訳でもない。でも、身嗜みというのは大事で陰キャだからとかそういうのは関係ない。清潔感はとても大事だと思う。


 遠山も少しは麻里花の為に変わろうとしているのかもしれない。彼女が影響を与えて良い傾向だと思う。


 カラオケには高井さんという、これまた遠山のような地味目の女子を麻里花が誘い一緒に行くことになった。

 麻里花が教室で高井さんと話しているのはほとんど見たことがないが、図書室では割と話をするらしい。

 なぜか麻里花は高井さんと仲良くしたいようだ。


 高井さんという女子は遠山に似ている。真っ黒な髪の毛、太いフレームの黒いメガネで顔を隠し目立たないように振る舞っているように私は感じた。

 その素顔は美人であることは容易に伺えた。顔を隠しわざと目立たないように振る舞い、なにかを抱えている女子だなというのが私の印象だ。



 カラオケ中やその行き帰りに私は高井さんを観察していた。

 これは女の勘だけど麻里花のライバルになるのではないかと思う節が見られた。どこが、という訳ではないが所々、遠山に気を許しているような感じを受けた。


 高井さんは図書室の常連で遠山とは以前から接点があったから、私たちが思っている以上に彼女と遠山はお互い近しい存在なのかもしれない。


 ここにきて麻里花と遠山、高井さんの三人から私は目が離せなくなってきた。

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