第31話

相沢美香視点①です



 私の親友で上原麻里花うえはらまりかという、美人でいて可愛くてオッパイの大きい女の子がいる。私と同じグループで彼女はクラスで人気もあり中心的な人物だった。


 でも、いつしか彼女は私たちのグループにはあまり近付かなくなり、遠山という大人しい男子生徒と仲良くするようになった。


 それというのもグループで中心的な人物で倉島という男子のせいだった。彼は麻里花に惚れていて交際を申し込むも断られたにも関わらず、その後も彼女に執着し彼氏面しているのだ。それに嫌気がさした彼女は私たちのグループと距離を置くようになった。


 倉島はイケメンでスポーツもできるので女子には人気があった。なまじモテるせいで彼は傲慢になり、かなり自己中心的な性格をしている。


 そんな倉島ではあるが何故か彼の周りには人が集まってくるのだ。でも分からないことも無い。実際に私も彼と同じ上位カーストと呼ばれるグループだからだ。


 人は一人では不安なのだと思う。一緒に誰かといることで安心感を得られことができ、一緒にいる相手の容姿が良かったりすると自分の評価も上がった気になるのだ。


 だからカーストなんてモノが出来上がるのだろうと私は考えている。実際に仲の良い友達もいるけど性格が合わないような人も輪の中にいる。

 だけどグループから弾き出されれば一人ぼっちになり、馬鹿にされたり見下されたりと嘲笑の対象になる。それが怖いから合わない人でもグループを作り、仲良しのフリをして平穏に過ごそうとしている。


 でも最近、麻里花が仲良くしている遠山という男子は、ぼっちで陰キャとか陰で呼ばれながらも特に気にした様子も無く学校生活を送っている。だけどそのせいで最近は倉島に目を付けられていた。麻里花が遠山のところに行くのが気に入らないのだろう。


 麻里花が遠山のところに行く度に連れ戻しに行っていた倉島が最近は何もしなくなった。

 それを境に匿名のグループチャット上で麻里花と遠山の根も葉もない嘘や誹謗中傷が書き込まれるようになった。

 証拠はないけど間違いなく犯人は倉島だと私は確信している。あれだけ執着していた麻里花に相手にされず、逆恨みして彼女が仲良くしている遠山にも嫌がらせを始めたんだろう。なんて小さい男なんだと私は怒りが湧いてきた。


 私は麻里花にグループチャットののを教えてあげた。彼女がショックを受けるのは分かっていたが知らせない訳にもいかない。私は気を強く持つように彼女に伝えた。


 解決策は今のとこを見つからず、私にできることといえばグループチャットで麻里花を擁護する書き込みをして、噂が本当にならないようにすることだけだ。無力な自分が歯痒はがゆかった。




 そして事件は起こった。


「倉島ァァッ!! 僕のことはいくら悪口を言っても構わない……だがな……上原さんを侮辱するようなことを言ったら――ブッ殺すぞッ!!」


 下駄箱付近にいた私は、叫び声上げる遠山と激しい音を立てロッカーに激突し、はりつけにされた倉島を目の前で目撃した。


 そして涙ぐみながら遠山を必死に止める麻里花の姿を見た瞬間、すぐに私は理解した。


 ――ああ、ついにこうなってしまったのか、と


 下駄箱付近は一時騒然となり、他の生徒が呼んできた先生に遠山、倉島、谷口の三人は連れて行かれた。


「麻里花! 大丈夫? 何があったの?」


 私は呆然と立ち尽くしている麻里花に駆け寄り声を掛けた。


「美香ぁ……遠山が……遠山が私の為に……グスッ……」


 麻里花は取り乱しまともに会話ができる状態ではなかった。


「麻里花、話は後でいいからまずは落ち着いて、ね」


 まずは麻里花を落ち着かせることを優先した。


 騒然としていた現場では先生が目撃した生徒の名前とクラスを聞いていた。後で事情聴取をする為で私も聞かれた。

 だいぶ落ち着いてきた麻里花は、この件の目撃者として宮本先生に連れていかれてしまった。


「麻里花、大丈夫かな……」


 私は宮本先生と並んで歩いていく親友の背中を見送りながら呟いた。



 その日の昼休みは下駄箱での遠山と倉島の話題でクラス内は持ちきりになった。当然、正しい情報が伝わっていない為、クラスの生徒は色々な想像を膨らませていた。


 遠山と倉島の痴情のもつれという噂話が一番多かった。こういうゴシップ的な話題が人間は好きなんだなと私は溜息を吐いた。


 私は昼休み中に先生に呼ばれ、下駄箱での目撃した状況を事細かに説明した。一番近くで目撃したこともあり色々と聞かれることとなった。


 私は事の発端のグループチャットのこともどうせ誰かが話して公になるだろうと思い、隠すことなく全て話した。そしてそれが根も葉もない嘘だと説明した。


 その話を聞いた先生は頭を抱えていた。これは立派な犯罪行為だ。事によっては警察やら色々と動き大事おおごとになるだろう。



 その日の一部の授業は自習となった。遠山たち本人から聞いた話と生徒から集めた証言等を話し合っているのだろう。



 放課後、臨時のホームルームが開かれた。もちろん下駄箱での件だ。


 グループチャットでの誹謗中傷の書き込みがあったこと、下駄箱で暴力事件があったことなど全体像が見えないような細切れの情報だった。

 事件直後、すぐにグループチャットは削除され学校側ではスクショのみでの把握となったようだ。


 グループチャットの書き込みは嘘であり、信用しないようにということ、この件に関して吹聴して回らないようにと注意された。


 麻里花は事情聴取の続きもあり詳しく聞くこともできず、放課後一緒に帰ることはできなかった。

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