第30話
カラオケに来てみれば上原さんと相沢さんの独壇場であった。普段からカラオケに来ている二人はレパートリーも多く歌い慣れている。
僕と千尋は、上原さん、相沢さんが各三曲歌う間に一曲くらいのペースで歌った。
「高井さん、なに歌う? え? あまり歌は知らない? ほら、これなんて有名だし知ってるんじゃない?」
高井はカラオケに来るのは中学の時以来で久し振りだと言っていた。最初は大人しく人が歌っているのを聞いていたが、上原さんがせっかくだから歌おうよ、と高井と一緒に曲を選んでいるところだ。
いよいよ高井の歌う番だ。
教室か図書室でいつも本を読んでいる姿か、裸で乱れている姿しか見たことの無かった僕は、マイクを持ち緊張している高井の姿を見て新鮮な気持ちになった。
歌い終わった高井はホッとした表情でソファーに腰掛けた。
「高井さん、良かったよ! 声がとても素敵だった」
上原さんが隣に座っている高井に歌っている姿も可愛かったとベタ褒めしていた。それを聞いている高井はとても恥ずかしそうだったが、いつもの無表情の中に少し嬉しそうな感情が混じっているように見えたのは気のせいではないだろう。
高井は歌い慣れてはいなかったがとても良い歌声だった。千尋も上手かったし、微妙な評価だったのは僕だけだ。
僕は本当に取り柄が何もないんだなとしみじみ思い少しだけ落ち込んだ。
「遠山、なに落ち込んでるの?」
僕の隣に座っている上原さんが心配そうに話し掛けてきた。
「いや、みんな歌が上手いなぁって思って」
「遠山だって歌い慣れてくれば、それなりに歌えるようになるよ。こんなの慣れだよ」
「そういうものなのかな? 音痴は直らないって聞くけど」
僕は根本的に音痴で音程を外しまくっているような気がした。
「カラオケなんて本人が歌っていて楽しめればいいんだから気にしない。練習すればそれなりに上手くなるから……今度二人で練習しよ?」
上原さんが何気なく僕を誘ってくる。
「そうだね、また今度みんなでカラオケに来よう」
上原さんの気持ちを知っている僕はどう返答しようか悩んだが、彼女にあまり期待させ過ぎないように少し距離を取ろうと思う。
「ちぇっ、残念! 遠山と二人きりになれる良い口実だったのにっ」
そう言ってはいたが上原さんは特に残念そうにはしていなかった。
相沢さんが全力で歌っている最中なので今の会話は他の人には聞かれていないとは思う。
上原さんを挟んだ反対側に座っている高井の様子を伺うも、歌っている相沢さんの姿を見ているだけで特に変わった様子もなかった。
「んー楽しかったねぇ。いつもとメンバーが違ったし新鮮だった」
カラオケ店を後にし歩きながら駅に向かう途中、相沢さんが背筋を伸ばしながら呟いた。
「やっぱりカラオケは楽しいね。ストレス発散にもなるし高井さんの歌が聞けて満足」
結局、高井は歌ったのは一回だけでほとんどは上原さんと相沢さんの二人が歌っていた。
「高井さん楽しかった?」
上原さんが高井に尋ねた。
「ん、まあまあ」
普通の人が言えば何とも微妙な感想だが、高井の感想と考えればかなり良かったと言っているような気がする。
「うん! なら良かった。また今度みんなでどこか行こうね」
上原さんは楽しかったと受け取ったのだろう、満面の笑みだった。
高井はコクンと無言で頷いた。
僕と高井は同じ方向の電車だが、他の三人は別の路線だったので駅前で別れ別々に家路についた。
「高井、今から家に行ってもいい?」
車内でドアを背に立っている高井に向けて僕は尋ねた。
「うん、今日は大丈夫だと思う」
◇
「ちょっと待ってて」
高井の家の前に着き彼女は家に誰もいないか確認するために先に入った。
家には誰もいなかったので僕は遠慮なく入った。
僕と高井はソファーに座ってボッーっとテレビを観ている。
高井の家に来たということはセックスをする為であって、テレビを観たり雑談する為ではない。それは高井も十分に分かっている。
今から二人でお風呂に一緒に入ろうということでお湯を溜めているところだ。
お互い身体の洗いっこしてから僕が高井を後ろから抱くように股の間で挟み、二人して湯船に浸かっている。
高井は何も答えないが、いつもは見せない面を見られて多分恥ずかしがっているのだろう。彼女はあまり感情を表に出さないが、最近は何も言わなくても彼女の感情が少し分かるようになってきた。
僕は湯船に浸かったまま後ろから高井の首筋や耳にキスした。彼女が良い反応をするので調子に乗って彼女の身体を堪能していたら
身体を拭き脱衣所から高井のベッドまで移動した。
二人して何回か果てベッドに僕と高井は横になっている。
「これからも高井は上原さんたちに誘われたら一緒に遊びに行くの?」
僕は高井が今日カラオケに来たことが気まぐれだったのか、それとも彼女の心境に変化があったのか真意を知りたかった。
「分からない。でも、今日みんなとカラオケに行って久しぶりに大人数でいて楽しいと思った」
「そっか……それはよかった。高井がそうやって少しずつでもいいから、誰かと交流を続けていけるようになれば僕は嬉しいよ」
高井の家庭環境を考えれば彼女に悪い影響があるのは一目瞭然だ。
でも、ただの高校生である僕が彼女の家庭に口出しできるはずも無く、できることといえば、せめて学校生活だけでも彼女が楽しいと思えるようにすることだけだ。
「うん……佑希が最近変わってきたように私も……」
高井はその言葉の続きを話さなかった。
でも、僕には分かるよ。
――だって僕も君と同じだったから。
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