第24話
洋服を選んでいたりしたお陰で上映時間も近付き、僕たちは映画館に移動した。
「わ、凄い人」
映画館に入場するとそこは人でごった返しており、その人混みを見て上原さんが声を上げた。
話題の作品を観に来たであろう家族連れやカップル、友達同士、一人と様々な客層にこの作品が幅広くウケているのが分かる。
「さすが話題の人気作品だね。事前に予約しないと絶対に席が取れ無さそうだ」
チケットを自動受付機で発行しドリンクを購入し指定のスクリーンに移動する。
「遠山、ここの並びだよ」
ちょうど前方に通路を挟んだ場所なので前の人の頭が邪魔にならず観れそうだ。
「良い場所が取れたね」
「そうでしょ〜? 選んだ私を褒めて」
上原さんは自慢げにエッヘンとその大きな胸を張った。
「上原さんえらいえらい」
「えへへ、遠山に褒められた」
上原さんは本当に楽しそうで僕もなんだか楽しくなってきた。
程なくして館内が暗くなり予告編が始まった。
映画を観に来たのは久しぶりだけどこの瞬間が一番ワクワクする。
「暗い雰囲気になってくるとなんだかワクワクしてきた」
上原さんも同じ気持ちらしくソワソワし始めた。
予告編が終わりいよいよ本編が始まる。
更に館内の照明が暗くなり物語が始まろうとしている。
スクリーンが左右に広がり大音量で戦闘シーンから始まった。
冒頭から迫力の戦闘シーンで心が躍る。
そして物語は佳境を迎えた。
鬼伐組の頂点、壁の一人が強敵を退くことに成功した。しかし激しい戦いに傷付きその命は風前の灯だ。
主人公に自らの命といえる剣を託す壁。
『この剣を弟に……頼む……』
その剣を受け取る主人公。
『必ず届けます……』
満足そうに微笑むと剣から壁の手がスルリと落ちた。
『――つ! ……必ず』
鬼伐組最強の一角、四壁の死は原作で知っていたが、迫力の映像と声優の迫真の演技で心を締め付けられるような素晴らしいシーンだった。
「グスッ……」
隣でスクリーンに釘付けになっている上原さんからすすり泣く声が聞こえた。館内に観客がすすり泣く声が広がり始める。
実は僕もじんわりと目に涙を溜めていた。
――こ、これは泣くなという方が無理だ。
なんとか涙を溢さないように我慢していると、不意に左手に暖かい感触に包まれた。
上原さんが僕の手の上に自分の手を重ねてきた。隣に座っている彼女は涙に濡れスクリーンの放つ光を反射して輝いていた。
――美しい……彼女の横顔を見た僕はその言葉しか思い浮かばなかった。
僕は彼女の横顔に見惚れてしまい映画を観るのも忘れてしまう。
物語が終わりを迎える頃には僕と上原さんは指を絡めて手を繋いでいた。
僕たちはエンドロールが流れる間も手を繋ぎ続けた。
そして館内が徐々に明るくなり、ザワザワと会話を始める他の観客たち。僕と上原さんは物語の余韻に浸っていた。
「どぉやまぁ……よがったぁ!」
しばらくすると上原さんが夢の世界から現実に戻って来たようで、凄い鼻声で僕に話し掛けてきた。涙と鼻水に濡れた上原さんは美少女が台無しだった。
「ち、ちょっと上原さん……鼻かんで、ほら」
ポケットティッシュを渡すとちり紙を取り出し思い切りチーンと鼻をかんだ。
――美少女でも鼻はかむんだな……と変な感想を僕は抱いた。
「上原さんもう行ける?」
数分が経ち落ち着いた頃を見計らって上原さんに尋ねてみた。
「うん、もう大丈夫。メイク崩れちゃったからトイレ寄っていく」
上原さんは学校の時と違って軽くメイクをしていた。素顔でも十分に可愛いが服装に合わせていたりと女の子にしか分からない事情があるのだろう。
「それじゃ行こうか」
上原さんは一度離した手をもう一度繋ごうと催促してきた。
――ま、いっか。
僕は諦めて上原さんと再び手を繋ぎ洗面所へ向かった。
「遠山、お待たせ」
洗面所から出てきた上原さんは、崩れたメイクを直してきたようだが、僕には化粧の前と後の違いがよく分からなかった。
それを言ったら怒られそうだから言わないけど。
「映画すごく良かったね。私、途中からずっと泣き放しだった気がする」
確かに壁が死ぬ前辺りから上原さんはぐすぐすと鼻をすすっていた。
「あの演出じゃ泣くなという方が無理だよ。声優の演技とBGMが素晴らしかった」
ハッキリ言って僕も泣いていたし。
「ホント、完全に観客を泣かしにきてる展開だったよね」
あのシーンはアニメだからこそできた演出だろう。
「ねえ、喉も乾いちゃったし鬼討の剣のコミックをもう一回読みたくなっちゃった。遠山がこの前言ってたネットカフェに行ってみようよ? コミック全部置いてあるんでしょ」
僕がたまに利用しているネカフェが近くにある。オープンカフェのエリアもあるからそこで休憩するのも良いアイデアだ。
「じゃあ、僕がよく利用しているネットカフェが近いし行ってみようか」
「さんせー!」
僕たちは休憩とコミックを読みにネットカフェに行くことにした。
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