第23話

 映画館が併設されているショピングモール最寄の駅の改札で上原さんと待ち合わせをしている。


 改札を抜け、待ち合わせの場所に向かうと一際目立つ女性が立っていた。緩いパーマをかけた茶髪で豊かなバストの美少女といえば上原さんしかいない。


 ――うわぁ……上原さんメチャ目立つな。


 上原さんはかなりの美少女だ。その華やかな容姿は通行人の人目を惹いている。


 それに対して僕の地味なことといったら……ちょっと帰りたくなってきた。

 これで並んで歩いたら、また別の意味で目立ってしまう。僕とはなんて不釣り合いなのだろう。


 それにしても普段は制服だからそれほど感じなかったけど、私服姿の上原さんは本当に可愛かった。

 これが上位カーストか……そういえば相沢さんもベクトルが違うけど美少女だ。


 うーん……声を掛け辛い。


「遠山! こっちだよこっち!」


 圧倒的な存在感に尻込みしていた僕に気付いた上原さんが、少し離れたところから声を掛けてきた。

 周囲の通行人の視線が僕に集まる……もうこれは行くしかないな。


「上原さん、待たせたね」


「まだ、時間前だから大丈夫だよ!」


「上原さんその格好可愛いね」


 オフショルダーのブラウスに花柄のキュロットスカートにウェッジサンダルというファッションだ。肩が出ていて胸元も広く開いているので、豊かなバストの上原さが着ると凄い破壊力だ。


「ホント! えへへ……可愛いって言ってくれて嬉しい」


 上原さんは見た目ギャルだけど、言葉遣いも中身も全然ギャルっぽくないからとても接しやすい。


「遠くから見た時、この辺にいる女性の中で一番可愛かったよ」


 本当に上原さんはこの駅周辺で一番輝いていた。


「そ、そんなに褒められると……ちょっと恥ずかしいかも」


 はにかむ上原さんは頬を赤く染め照れくさそうに微笑んだ。


「それにしても本当に遠山って女慣れしてるよね。そんな言葉サラッと普通言わないよ?」


 同じ年代の男子の基準が不明なので女慣れとかよく分からない。ただ当の本人が言っているので女慣れしているように感じるのかもしれない。


「なんか、その辺はよく分からないかな。可愛いと思ったから正直に言ってるだけなんだけど。それに比べて僕は地味過ぎて上原さんとは不釣り合いだなぁって感じるよ」


「そ、そんなことないよ」


「僕はお洒落に気を遣ってなかったからこんなのしか無くて……」


 普段あまり人目を気にしないけど、こうやって上原さんと並ぶとさすがの僕でも人目が気になる。


「確かにちょっと地味かな。春先なのに上下ともに暗いカラーを選んでるからね。春らしい明るい色を選べばいいんだよ」


 さすがお洒落に気を遣っていそうな上原さんだ。すぐに問題点を挙げていく。


「あ、そうだ! 上映まで時間があるし洋服見ていかない? 遠山のコーデしてあげるよ。FU-GU(フ・ジーユー)みたいな安いブランドの店もあるから行ってみよ」


 ちょうどいい機会だしここは上原さんにコーディネイトをお願いするのもいいかも。


「そうだね。ちょっと見てみようか」


「うん!」



「このシェフパンツいいね。このジャケットに合わせればシンプルだし遠山にも似合うよ。インナーはロンTで十分だし」


 さすが上原さん、僕に似合うコーデをテキパキと選んでくれている。


「パンツ五九〇円とか……安いね。ジャケットも一五〇〇円だし買っていこうかな」


 こうして服選びをしていると少しはお洒落に気を遣ってみようという気持ちになる。

 上原さんと出掛けることで、一組くらいお洒落着は持ってた方がいいなと思うようになった。


「うん、いいと思うよ。サイズ選んで試着してみようよ」




 僕は試着室で上原さんに選んでもらったパンツとジャケットに着替えた。


「どう? サイズはピッタリだと思う」


「うん、サイズもピッタリだしいいね」


「じゃあこれ買うよ」


 これで少しは外出する時に恥ずかしくない格好ができそうだ。


「じゃあさ、今日は買った服に着替えてデートしようよ」


 今日のこれって上原さんの中ではやっぱりデートなんだな。


「そうだね……買ったらトイレで着替えるよ。ここで着て帰るのは流石に恥ずかしいし」


「あ……よく考えたらこのスニーカーじゃ合わないなぁ。クツも売ってるし見てみよっか」


 どうせだし他所行き一式揃えてしまおう。


 上原さんが選んだ服ならば彼女と一緒にいても違和感が少ないと思う。彼女は美少女、僕は地味。不釣り合いなのは人としてベースが違うのでどうしようもない。これは服でカバーできる問題ではないから諦めるしかないけど、できる努力はしておくべきだ。




 会計を済ませた僕はトイレで着替えて洗面の鏡を見る。


 ――うん、さっきのジーンズとパーカーより遥にマシになった。


 僕はトイレの外で待っている上原さんの前に恐る恐る姿を現した。


「遠山、イイじゃん。うん、シンプルで明るいコーデで似合ってる。後は髪を切ればもっと素敵になるよ」


 僕は前髪が目に掛かるくらい長いので野暮ったく見えるのだろう。


「そういえばさっき千円カットを施設内で見掛けたからそこで切ってもらおうよ。私がどんな風にカットするか理容師さんに指示するから」


 上原さんは僕のイメチェンに凄く熱心だ。


「でも、時間大丈夫かな?」


「千円カットは十分くらいで終わるから客待ちが無ければ大丈夫だと思うよ」



 千円カットの店は幸運なことに客の待ちが無かった為すぐにカットして貰えた。

 彼女が彼氏の髪型の指示をしているように見られ、年配の女性の理容師さんに微笑ましく思われてしまったようで少し恥ずかしかった。


「うん、髪の毛もスッキリして服と合わせて清潔感が出て爽やかな感じになったね」


 上原さんいわく千円カットの理容師さんは数をこなしているので技術的には高いそうだ。上原さんは本当にそういうことに詳しい。


「まだ不釣り合いなのは変わらないけど、これで一緒に歩いてても上原さんに恥をかかせなくて済みそうだよ」


「そんなこと気にしなくてもいいのに。どんな格好でも遠山は遠山だよ」


 やはり嫌がらせの一件のこともあり、上原さんに関わる以上それ相応の努力をしなくてはならない。そうでないと同じことを繰り返すことになる。


「うん、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、それは上原さんが僕のことを少しでも知ってるからだよ。僕のことを知らない人は上原さんと一緒にいる僕を見て“なんであんな地味な奴が“って思ってるよ」


 そう考えるとスクールカーストという形はある意味正しいともいえる。会話に気を遣い、ファッションに気を遣い、自分の容姿を磨きあげた仲間と集団を作る。

 ただ、その集団が下の人間を見下すようになるからいけないのだ。当然、努力を怠っている人間はそれ相応のポジションになってしまう。僕がまさにそうだ。

 でも、上原さんはそのカーストに穴を開けた。僕や高井を見下すことなく歩み寄ってきてくれる。


「見た目で人は判断できないのにね」


「確かにそうだけど上原さんが嫌がらせに巻き込まれたのも僕が地味だったからが理由だし。残念だけどそういうものだよ」


「遠山って現実的だね」


ひねくれてるだけだよ」


「でも、今日は私に合わせて変わろうって思ってくれたんでしょう? そうやって歩み寄ってきてくれるのは嬉しいな」


 お互い歩み寄る精神があれば平和なんだろうけど無理だろうな。だから自分が合わせられる範囲で努力していこうと思う。

 僕も少しは変わらなければならないと上原さんを見て思うようになった。

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