第11話
「本の説明してたはずが話が大分脱線しちゃったけどどうしようか?」
上原さんの言う通り自分は少し理屈っぽいかもしれない。同級生に対してこんな偉そうに語ってしまい恥ずかしい。
「遠山のように大人になれる本を私は所望します!」
「それなら学校の図書室の本を読みまくれば僕のように表面上の知識だけは増えるよ」
「遠山みたいにボッチになっちゃうのかぁ、それはそれでイヤかも」
「僕がボッチは否定しないけど本を読んでるからボッチになったんじゃないよ? ボッチなのは元々だから」
「それって自虐ギャグなのか判断に迷うわね」
上原さんはクスクスと笑っていた。
その笑顔は男なら見惚れてしまうような表情だった。これが教室では見ることができない僕の前だけの素の表情というやつなのだろうか。
僕たちは結局何も買わずに反省堂を後にした。もっと話したいと上原さんが言うのでカフェに移動し他愛もない会話に花を咲かせその日はお開きとなった。
本選びという当初の目的は、学校の図書室の本を僕がチョイスして上原さんが借りるということで解決した。あまり過激な内容と表紙の作品は置いて無いけど学校の図書室にもラノベは置いてあるのだ。
それを知った上原さんの驚きようが面白かった。
◇ ◇ ◇
上原さんと二人で反省堂に行った直後から僕が放課後の図書委員の当番の時は彼女が図書室に来るようになった。
「遠山! 返却に来たよ」
上原さんが返却した本は学校図書にこんなの置いてあるんだ? と言われるようなラノベのラブコメだ。今では彼女もスッカリ読書にハマったようで結構なペースで本を借りに来ている。
僕は最初に上原さんへ純愛系のラノベを選び読んでもらったのだが面白かったと評判も良かった。それからラブコメなど恋愛系を薦めてみたが意外と読めるようだった。
「ラブコメのヒロインみたいな女子って普通いないよね。男子は女の子に夢見過ぎ」
などと夢見る男子に現実を突き付けるようなコメントを残して図書室を去って行くことがよくある。
上原さんは着々とオタクへの道を歩きつつあった。
そして高井は図書室に僕がいようがいまいがここの住人なので必ず放課後はいるといってもいいだろう。そんな彼女に上原さんは最近よく話し掛けるようになった。
「ねえねえ高井さん、この小説面白いよ。読んだことある?」
純愛系のラノベを差し出す上原さん。
「私はそういうは読まないから。上原さん図書室で私語は厳禁よ。読書の邪魔だからもう話し掛けないでね」
二人のやりとりはこんな感じで、ひと言ふたこと言葉を交わして高井から一方的に終了するパターンだった。
それに高井は普通の恋愛小説は読まない。彼女は寝取られ系のドロドロした物語が好みなのだが上原さんは高井の好みをまだ理解していなかった。
上原さんは高井の塩対応にもめげず、会う度に高井の好みを探ろうとしていた。
「はぁ……今日も高井さんの好みが分からなかった。高井さんが図書室で読んでる本は難しくて私には無理」
高井が図書室で読んでいる本は純文学や哲学書が多い。読書ビギナーの上原さんには敷居が高いのかもしれない。
「ねえ、遠山、高井さんってどんな本を好んで読んでるの? 教えてよ」
「今、高井が読んでるタイトルを教えてもらえば?」
「アレは私には難しくて分からないの! もっと一般的な小説とかの話だよ」
「高井と仲良くしたいなら本人に聞かないとね」
当然、僕は高井の好みを知っているが、上原さんが本人から聞き出さないと意味がないと思っているので教えることはない。
「もう……遠山のケチ!」
僕は高井が上原さんに心を開いて仲良くなれればと思っている。高井は複雑な家庭環境の中で、失っている心の何かを僕とセックスすることで埋めているような気がする。
だがそれは一時的なものに過ぎない。埋めた穴はすぐに開いてくる。僕はただの高校生で高井にしてあげられることには限界がある。求められた時に応じるくらいのことしかできない。
高井は僕に本心を語ろうとしない。彼女は多分僕にそういう役目は求めていないのだろう。
でも、上原さんのような偏見の無い同性の友達がいれば何か違ってくるのではないかと思っている。せめて話を聞いて貰える相手さえいれば……もしかして何かが解決して僕が必要無くなるかもしれない。
僕はそれでもよいと思っている。それが普通のことなのだから。
「この本の貸し出しをお願いします」
高井が持ってきた本の貸し出し処理を終えた僕は彼女に本を差し出す。
「返却は二週間後になります」
高井は本を受け取らず僕の手首を掴み自分の方に引き寄せた。僕は前のめりになり彼女とキスできるくらい顔が近付くと彼女からふわりと良い匂いがした。
そして高井は形の良い唇を僕の耳元に寄せ呟いた。
「今日、セックスしよ。家で待ってる」
上原さんは椅子に腰掛け後ろを向いていたので気付いてはいないだろう。でも一歩間違えれば彼女に高井との関係を気付かれてしまうというのに一体どうしたんだろう?
僕はやっぱり女性の心の機微に疎い陰キャだった。
◇
その夜僕は高井の部屋を訪れ、彼女のベッドの上で肌を重ねた。
疲れ果てベッドに横になっている僕に高井が話し掛けてきた。
「ねえ、佑希」
「なに?」
「あの子なんで私に構ってくるの?」
「上原さんのこと?」
高井はコクリと頷いた。
上原さんは仲良くしたがっていたし本人に言っても構わないだろう。
「高井と仲良くしたいんだって」
「どうして?」
「さあ、僕には分からないよ。せっかく同じクラスなんだからとは言ってた」
「ふぅん……変わった子だね」
「そうかな? 偏見も無いし良い子だよ」
「……佑希は彼女のことが好きなの?」
「え? 別にそういう感情はないけど……」
「そう」
「どうしたの一体? そんなこと聞いてくるなんて」
「別に」
「高井ももう少し彼女に優しくしてあげたら?」
高井は僕のその言葉に返事は無かった。
高井が上原さんをどう思っているかはハッキリとは分からないが、二人が仲良く話せる日は近いかもしれない。
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