第10話
僕と上原さんは学校を出て駅まで二十分ほどの道のりを歩いている。
「それで上原さんはどんな本が好みなの?」
僕たちが向かっている反省堂は売り場が五階まである大型の書店で探す手間を省く為、ある程度どのジャンルの売り場に行くか事前に決めておきたかった。
ライトノベルや文芸作品など小説といってもジャンルは多岐に渡る。それを一つ一つ見て歩く時間は無さそうだ。
「うーん……私は小説なんて普段読まないからなぁ……読書感想文の宿題とかで読むくらい?」
そうなると文体の軽いライトノベルやキャラ文芸の方がいいかな?
「ジャンル的には何が好き? 例えば恋愛とかミステリーとか」
「やっぱり恋愛モノが好きかなぁ。恋愛モノの映画はよく観るよ。あと冒険モノみたいなファンタジー映画も好き。ホラーとかグロいのは苦手」
好みとしては一般的な感じだった。上原さんにオタク要素があればラブコメや令嬢モノもオススメできるので後で聞いてみよう。
僕はアニメも観るしライトノベルも好んで読んでいるオタクだ。上原さんに隠すつもりは無いし、オタクは無理と言われればそれまでの関係だ。趣味が合わないのに無理に付き合う必要はない。
上原さんの好みなどを聞きながら歩いていると時間が過ぎるのも忘れ、あっという間に駅前に到着した。
自分は徒歩通学なので駅は利用していないが、大型書店から家電量販店となんでも揃っていてかなり駅の周辺は栄えている。
駅から数分歩いたところに目的の反省堂がある。
「わあ、本当にこの本屋さん大きいね」
反省堂の建物を目の前に上原さんが驚きの声を上げた。紙の本が売れないと言われている昨今、テナントに百円ショップや文具屋も入ってはいるが、ほぼ本だけで五階建てのビル丸一棟というのは凄いのではないだろうか。
学校から反省堂まで歩いて来る間に上原さんの話を聞いていたのを参考に、ライトノベル売り場に行く事にした。
「上原さんのようにあまり本を読み慣れてない人はラノベなんかはどうかな?」
僕は上原さんをライトノベル売り場に案内した。
「うわ! 表紙とかこんなエッチで大丈夫なの?」
色とりどりの表紙のラノベが平積みになった売り場を目の前に、上原さんはラノベの表紙のイラストを見て目を丸くしている。
ラノベはやはり男性向けの娯楽作品なんだなと思う。
「ラノベはこんな表紙のが多いかな。特に異世界モノと言われてるジャンルは特にね。ラブコメとかは普通に制服姿だったりするけど」
「へぇ……でも、イラスト可愛いね。っていうかオッパイでか! こんな大きい高校生なんていないよ。ラノベのヒロインってみんな巨乳なんだ?」
いや、あなたも負けずに大きいと思います。
「まあ、現実サイズでの巨乳が普通っていうの? ラノベ界隈ではこのくらいだと普通サイズかな」
僕は平積みになったラノベの一冊の表紙に描かれた女の子のイラストを指さす。
「ええ⁉︎ これは巨乳の部類だよ。これが普通だとしたら現実の女子はほぼ貧乳になっちゃう」
「まあ、創作物だからね。基準はラノベを買う層の嗜好に合わせてあるんだと思うよ」
まあラノベのターゲット層は中高生から社会人まで幅広いが主に男性だ。
「ふーん……男子は大きい方が好きなんだ? 遠山も大きい方がいい?」
上原さんは上目遣いで何とも返答し難い質問を投げ掛けてきた。
「いや、まあ……嫌いじゃないけど小さいのも好きだよ」
僕が唯一知っているオッパイといえば高井だが彼女はハッキリいって小さい。だけど柔らかいし感度も良い。挟もうと思えばギリなんとか挟める。だから特に大きくなくても良いかなとは思う。
「ふむふむ、遠山は小さいのが好き……と」
別に小さくても良いって事で好きと言うわけでも無いけど、説明するのも面倒だしいいか。
「そういえば上原さんはこういうイラストとか大丈夫なの? 中には嫌悪感を抱く人とかもいるし」
今の話の流れからしても普通に見ていたので大丈夫そうではある。
「私は別に大丈夫だよ。というか好きな方かな。マンガとか読むしね」
「上原さんが萌え系のイラストが苦手じゃなくてよかったよ。これで色々な本をオススメできるよ」
「私、こういう話って他の同級生とは話さないんだ。なんか他の男子は私の胸とかガン見してるしガツガツしてて嫌らしい目で見るからイヤ。でも遠山は私と話しててもそういう目で見ないから安心できる」
確かに巨乳とか貧乳とかオッパイとか平気で会話してるのに上原さんとは普通に話せている。
中高生くらいの思春期の男女だとこういう話は恥ずかしくて避ける話題だ。
「前に遠山は大人っぽいって話をしたと思うんだけど覚えてる?」
そういえばそんな話をしたような気がする。
「なんとなく……」
「クラスで私の周りの男子は子供っぽいし下心丸出しなの。だから本当はあまり関わり合いたく無いんだけど、そのグループの女子と私は仲が良いからどうしても抜け出せなくて」
まあ、倉島を筆頭とするグループだし大体は予想がつく。
僕に余裕があるように見えるのはやはり高井の存在が大きい。定期的にセックスをして性欲を発散することができるから一生懸命女子にアピる必要がない。
「グループの中心の倉島がアレだからなぁ。カーストとかホント面倒だな」
カーストのような仲良しグループから抜けると、ボッチになるかイジメられるかのどちらかになる可能性が高い。学園生活を平穏に過ごしたいならどこかのグループに入るしかない。
「まあ、でも仕方がないんじゃない? 集団ってそういうもんだし。そこは上手くやればいいと思うよ」
「遠山が羨ましいな。そういうのに縛られないで自由だし」
「その代わり僕は友達が千尋しかいないけどね。結局そういうのはトレードオフだよ」
「トレードオフって?」
「僕はグループに縛られず自由だけど友達がいないから修学旅行やイベントの時にボッチだ。でも上原さんは友達が多いからイベントでも一人になる心配もなく楽しめるけどグループに縛られて不自由だ。そんな感じかな?」
「遠山ってさ……本当に大人だよね。そういうところ私は良いなって思う」
大人というのは違う気がする。社会の縮図である学校生活で馴染んでいない時点で人として失格なんではないだろうか?
「僕は別に大人なんかじゃないよ。ただ面倒くさいことから逃げてるだけだ。大人なら協調性を身に付けてクラスでも上手く立ち回れるはずだと思う。だから僕なんかより上原さんの方がよっぽど大人さ」
「そういうものなのかな? 私にはよく分からないや」
「僕は本を読む機会が多いから知識は多いけど生意気な高校生だと思うよ」
「ふふ、確かに理屈っぽくて生意気な男子っていうのは間違いないわね」
上原さんは楽しそうに微笑んだ。
「そこは否定してくれてもよかったんだよ?」
「ほら、私は正直者だから嘘は吐けないんだ」
「確かに正直者っていうの否定できないかな。上原さんは裏表のない人だし」
「それは遠山の前だけだよ。あのグループだと気を遣うから表面上は色々と作ってるから」
僕の前では裏表はない素の上原さんということらしい。
上原さんも色々と苦労しているようだ。それでも抜けられないのがカーストという村社会なのだろうか。
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